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北海道沖で大津波も懸念される超巨大地震切迫の可能性、評価の理由は?

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(提供:宮古市/Shutterstock/アフロ)

 今日は、スマトラ島沖地震が発生した2004年12月26日から13年を迎えました。あの地震や東日本大震災と同じようなマグニチュード9クラスの超巨大地震が、北海道の千島海溝沿いで心配されています。

地震調査研究推進本部による地震の評価

 先週、地震調査研究推進本部から、「千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第三版)」が公表されました。地震調査研究推進本部は、1995年阪神・淡路大震災での被害を受けて制定された地震対策特別措置法に基づいて設置された機関です。地震調査研究推進本部の下に地震調査委員会が設置されており、将来発生する可能性のある地震の場所、規模、確率について、長期評価結果を公表しています。これまでも、様々な地震について長期評価を行ってきましたが、今回、千島海溝沿いの地震活動について、13年ぶりに評価を見直し、結果を公表しました。

千島海溝沿いの地震活動

 北海道の太平洋岸から千島列島沿いでは繰り返しプレート間地震が起きてきました。この千島海溝沿いで発生する地震のうちM8クラスの地震を西側から「十勝沖の地震」・「根室沖の地震」・「色丹島沖の地震」及び「択捉島沖の地震」と呼んでいます。北海道では、古文書がほとんど残っていないため、過去の地震についての歴史資料が他地域と比べ限られています。

 例えば、M8クラスのプレート間地震の発生履歴は、十勝沖地震は1842年・1952年・2003年、根室半島沖地震は1894年・1973年、色丹島沖地震は1893年・1969年、択捉島沖は1918年・1963年などとなります。4つの領域が隙間なく順に地震を起こしています。一回り小さいM7クラスのプレート間地震はより頻繁に起きており、例えば、十勝沖・根室沖では、1900年、1915年、1924年、1961年、1962年、2004年と、105年間に6回も発生しています。また、沈み込むプレート内でのM8クラスの地震も発生しており、最近では1994年北海道東方沖地震があります。

2003年時点の長期評価

 最初の長期評価は、2003年3月24日に公表されました。2003年9月26日に十勝沖地震が発生する半年前に当たります。公表時点では、各領域で発生したM8クラスの地震は何れも2回で、各領域での地震発生間隔は十勝沖 108.9年、根室沖 79.2年、色丹島沖 76.2年、択捉島沖 45.1年となります。平均活動間隔としてこの平均値77.4年が採用されました。

 従って、最新の地震発生日から2003年1月1日までの経過年は、50.8年、29.5年、33.4年、39.2年となります。これに基づいて、今後30年以内の地震発生確率が評価されました。すなわち、十勝沖の地震は60%程度(M8.1前後)、根室沖の地震は20~30%程度(M7.7程度、十勝沖の地震と根室沖の地震が連動する場合はM8.3程度)、色丹島沖の地震は20~30%程度(M7.8前後)、択捉島沖の地震は40%程度(M8.1前後)です。

 2003年十勝沖地震は、M8.0で、地震発生確率が最も高い領域で発生したこともあり、地震の長期評価の有用性が確認されることになりました。また、2004年11月29日にはM7.1の釧路沖地震が起きています。これを受けて、2004年12月20日に、千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第二版)が公表されましたが、十勝沖地震の発生確率が小さくなったものの、基本的な考え方は変更ありませんでした。

津波堆積物調査と東日本大震災の発生

 十勝沖地震の発生した2003年ごろから、地盤の津波堆積物調査に基づいて超巨大地震の発生可能性が指摘されるようになり、当時、ハルマゲドン地震として話題になりました。その中には北海道沖の地震や、869年に発生した東北沖の貞観地震も含まれていました。その後、2011年に東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)が発生し、津波堆積物調査などに基づく評価の重要性が認識されました。特に、歴史資料の不足する北海道では、津波堆積物などに基づく地震評価は文書資料を補う点で重要な意味を持ちます。

超巨大地震に関する新たな長期評価

 東日本大震災を受けて、南海トラフ地震などと同様、千島海溝沿いの地震についても、過去の地震の震源域には多様性があると解釈することにしました。また、海溝寄りの津波地震などのプレート間地震や海溝軸の外側の地震(アウターライズ地震)も考慮するようになりました。さらに、津波堆積物などに基づいて、現在の科学的知見の範囲で、発生し得る超巨大地震を評価することになりました。

 これまでの津波堆積物調査によると、過去6500年間に最多で18回1~4km内陸まで浸水するような地震が発生したようです。そこで、これを東北地方太平洋沖地震と同様の海溝付近まで破壊するM8.8以上の超巨大地震と考えました。平均すると発生間隔は約340~380年となります。前回の超巨大地震が17世紀前半に発生し、すでに400年程度経過していますから、その結果、今後30年間の地震発生確率が7~40%になったということのようです。

 超巨大地震が想定されているのは、十勝沖や根室沖、択捉島沖にまたがる巨大な震源域です。17世紀前半の地震では、北海道の大樹町で高さ18mまで津波が達したり、豊頃町では4.4km内陸まで浸水したあとが見つかっています。万が一発生すれば、東日本大震災と同様の甚大な被害が予想されます。

いつ起きてもおかしくないM8クラスのプレート間巨大地震

 今回の評価では、M8クラスのプレート間地震などについても評価結果が示されています。例えば、十勝沖地震については、M8.0~8.6で7%、根室沖地震は、M7.8~8.5で70%程度、色丹島沖及び択捉島沖地震は、M7.7~8.5前後で60%程度と示されています。2003年に発生した十勝沖地震以外は極めて高い確率になっています。2003年十勝沖地震は60%の確率の時点で発生しましたので、いつ地震が起きてもおかしくないと思って、万全の体制をしておく必要があります。プレート境界に位置する日本に住む我々は、地震との付き合い方を再考する必要がありそうです。

 過去、12月には巨大地震が頻発してきました。12月8日昭和東南海地震、21日昭和南海地震、23日安政東海地震、24日安政南海地震、31日元禄関東地震です。今年も残り4日、何事もなく新しい年を迎えたいと思います。2018年が災いの少ない素晴らしい年であることを祈ります。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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