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【オートバイのあれこれ】平成元年の「ドンデン返し劇」。

Rotti.モトエンスー(moto enthusiast)

全国1,000万人のバイクファンへ送るこのコーナー。

今日は「平成元年の“ドンデン返し劇”。」をテーマにお話ししようと思います。

日本のオートバイの歴史において、「衝撃的!」と語られる出来事はいくつかありますが、平成元年に起きた出来事も、我々バイク好きに大きなインパクトを与えたと言えるでしょう。

その出来事とは…、カワサキ『ゼファー』の登場です。

▲元号が平成に変わった1989年に登場。カウルの無い旧来的なスタイルで、各部の装備もごく普通だった
▲元号が平成に変わった1989年に登場。カウルの無い旧来的なスタイルで、各部の装備もごく普通だった

ゼファーは、当時際限なく過熱していたレーサーレプリカブームが衰退する大きなきっかけとなりました。

この出来事が「衝撃的」と言えるゆえんは、「スゴくない」バイクが「スゴい」バイクたちを蹴散らしたこと

レーサーレプリカモデルは、その表現のとおりWGP(世界グランプリ)等で活躍するレーシングマシンのような作りで、カタログスペックも車体の各部ディテールも、ひじょうに華やかなものとなっていました。


一方ゼファーは、スペックも装備も凡庸、いやむしろ当時からしてみれば「平均以下」と評してもあながち間違いではないレベルのパッケージで生まれてきました。

▲59psを発揮する400ccモデルもあるなか、ゼファーの空冷2バルブエンジンは46psにとどまっていた
▲59psを発揮する400ccモデルもあるなか、ゼファーの空冷2バルブエンジンは46psにとどまっていた

レプリカブーム下においてスペック至上主義が大手を振るなかにあって、特筆に値する性能的アドバンテージを持たずに出てきたゼファーは、当時の流れからすると完全に時代錯誤のバイクだったと言えます。

ゼファー発売のニュースを見聞きした二輪業界の人々も、

「こんな平凡なバイクが売れるわけがない」

という意見でおおよそ一致。

(ゼファーを作った張本人であるカワサキでさえ、ゼファーのリリース時は内心ビクビクだったと言われています)

しかし、フタを開けてみると…。

▲「猫も杓子もレプリカ」な当時、ゼファーのプレーンな佇まいは逆に新鮮だったのだ
▲「猫も杓子もレプリカ」な当時、ゼファーのプレーンな佇まいは逆に新鮮だったのだ


想定外の大ヒット。

ゼファーは1989年(平成元年)4月に発売されたのですが、発売直後から一気に売り上げを伸ばして'89年度の400ccクラスにおける販売台数ランキングでいきなり2位を獲得したのです。

そして翌'90年には、なんと販売数トップを記録

ゼファーは'80年代を席巻し続けたレプリカ勢を一撃で駆逐し、誰の手にも負えなくなっていたレプリカブームを何食わぬ顔で壊してしまいました。

「強み」と言える部分がこれと言って無いゼファーが、大方の予想を裏切って最先端レプリカを一発KO。

バイクの歴史において「ドンデン返し」「番狂せ」という表現が最もシックリくるのは、このゼファーの大ヒットを差し置いて他に無いように思います。

▲バイク市場に大ドンデン返しを食らわせた後、1996年には4バルブ化されゼファーχ(カイ)へと進化
▲バイク市場に大ドンデン返しを食らわせた後、1996年には4バルブ化されゼファーχ(カイ)へと進化

ここでゼファー爆売れの背景に軽く触れておくと、実はレプリカブーム期に、行き過ぎたスペック競争に対して閉口していたバイクファンが意外と多く、ゼファーはそうした層を独占的に囲い込むことができたのです。

ゼファーは、レプリカブーム全盛期の頃から一歩引いた立ち位置で、常にブームの動向を冷静に見ていたカワサキだからこそ作ることのできたオートバイだったと言っていいでしょう。

画像引用元:カワサキモータースジャパン

モトエンスー(moto enthusiast)

バイクを楽しむライター。バイク歴15年で乗り継いだ愛車は10台以上。ツーリング/モータースポーツ、オンロード/オフロード、最新バイク/絶版バイク問わず、バイクにまつわることは全部好き。

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