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社員に「自律型人材」になってもらう(?)には ―自律を求めれば求めるほど受身になるという真実―

三城雄児治療家 ビジネスブレークスルー大学准教授 JIN-G創業者
「もっと自律的な人材になれ!」と叱るとどうなるでしょうか・・・(写真:アフロ)

人事担当者 vs 新人

以前に、人事の大学(http://j-daigaku.com)のイベントで、「人事担当者vs新入社員」というイベントを実施したことがあります。人事担当者10名と新入社員10名を、それぞれ様々な会社から呼んで、お互いに何を求めているのかをディスカッションをするというものです。

その際に、「新入社員研修において人事担当者は新人に何を求めるか?」という問いかけに対して、参加者の人事担当者からは、「自分の頭で考え、自ら行動できる人材であってほしい」「言われる前に行動する社会人であってほしい」「創造力の高い人材になってほしい」といった声が多くあがりました。一方で、同じく参加者の新入社員側からは、「社会人として成功するために何が必要なのかを教えて欲しい」「わからない事務処理の仕事についてあらかじめ教えておいて欲しい」「何から手をつけていいのかわからないから教えて欲しい」という声でした。私は人事担当者と新入社員の間に入って、中立な立場で双方の意見を聞いていましたが、この両者のギャップは、とても面白いと感じました。

教育する側は、教えなくても自分で考える「自律」を求めているのに対し、教育される側は、まずは教えて欲しいと考える「受動」の態度だったのです。

なんとなく、この後の展開がわかりますよね?

人事担当者の期待と新人の期待のギャップ

人事担当者

「これからは高度成長期とはビジネス環境が異なるから、若手の皆さんの発想が重要なのです。だからこそ、自分で考えて、どんどんと上司に対して提案をしていって欲しい。」

新入社員

「提案して欲しいと言われても、目の前の仕事の内容もよくわからないから、提案したくても、提案できません。どうしたらいいのか教えてもらえませんか?」

人事担当者

「目の前の仕事についても、自分で調べれば何とかなるはずだ。今はインターネットもあるし、周囲の先輩たちに自ら聞いてまわるなど、自分から動いていくことが重要だよ。」

新入社員

「はい、わかりました。では、これからは自分で調べてから発言します。また、インターネットなどの情報も活用して提案するようにします。」

数ヶ月後・・・

人事担当者

「どうだい、最近は上司に対して提案できるようになったかな?」

新入社員

「いや、上司も忙しそうで、なかなか相手にしてもらえないし、僕自身まだ自分の仕事もロクにできないのに、提案なんて気持ちにもなれないです。」

人事担当者

(新人研修であれだけ自律せよと伝えたし、上司にもコーチングのスキルを教えて部下に考えさせることを徹底したのに、なかなか伝わらないものだなぁ・・・)

自律型人材になることを求めてはいけないのか?

さて、いかがでしょうか?

上記の新入社員と人事担当者のやりとりをみて、自律型人材の育成に何が必要なのかを、職場でディスカッションしてみると良いと思います。

「人事の大学」の人事担当者 vs 新入社員のイベントでも、このディスカッションを実施しました。

その際にでてきた結論は、

「自律型人材になることを強要すれば受身型人材が育つ」

「自律型人材にするためには基礎を早めにしっかりと教えてあげる必要がある」

というものでした。

ビジネスの世界にも「守破離」が必要

Wikipediaからの引用

守破離(しゅはり)は、日本での茶道、武道、芸術等における師弟関係のあり方の一つ。日本において左記の文化が発展、進化してきた創造的な過程のベースとなっている思想でもある。個人のスキル(作業遂行能力)を3段階のレベルで表している。

まずは師匠に言われたこと、型を「守る」ところから修行が始まる。その後、その型を自分と照らし合わせて研究することにより、自分に合った、より良いと思われる型をつくることにより既存の型を「破る」。最終的には師匠の型、そして自分自身が造り出した型の上に立脚した個人は、自分自身と技についてよく理解しているため、型から自由になり、型から「離れ」て自在になることができる。

武道等において、新たな流派が生まれるのはこのためである。

個人のスキル(作業遂行能力)をレベルで表しているため、茶道、武道、芸術等だけでなく、スポーツ、仕事、勉強、遊び等々、世の中の全ての作業において、以下のように当てはめることができる。

守:支援のもとに作業を遂行できる(半人前)。 ~ 自律的に作業を遂行できる(1人前)。

破:作業を分析し改善・改良できる(1.5人前)。

離:新たな知識(技術)を開発できる(創造者)。

例(落語)

守:古典落語を忠実に表現することができる。

破:古典落語をより面白くアレンジすることができる、あるいはよりわかりやすく表現することができる。

離:経験を活かし新作落語を作ることができる。あるいは、落語から進化した新たな芸風を作ることができる。

出典:Wikipedia

上記からもわかるように、創造をする段階に至るためには、「守」としての型をまず確立することが重要そうです。

先に紹介した人事担当者が新人に求めていたことは、いきなり「離」を求めている訳で、社会人経験の少ない新人にとっては戸惑いしか起こらなかったということです。

自律型人材とは内発的動機づけに基づく行動をとる人

では、自律型人材というのは、どうやったら育てられるのでしょうか?

ここで、私自身の経営者としての体験からお話ししたいと思います。

私は、銀行員をやめてからベンチャー企業に就職した際に、「なんでもやって良い」という社風に最初は戸惑ったのですが、その後、それがとても愉しくなって、ベンチャー企業への転職後は、ビジネスが愉しくて愉しくてたまらなかったのを覚えていました。

そこで、自分で経営する会社も「なんでもやって良い」という社風にしようと、社員全員に「自律」を求めたのです。この自律を求めたのが失敗の始まりでした。自律とは、社長から求められるものではなくて、自分から求めるものだからです。

社員:

「社長! これどうしたらいいですか?」

社長:

「ん? 君はどうしたいの?」

「まずは自分の意見を持ってから相談してくれるかな?」

社員:

「あ、はい。わかりました。自分で考えてからまたきます。」

さて、おわかりですね。

冒頭にあげた人事担当者と新人のやりとりと同じです。

この後の社員の心境を想像すると、きっと自律しなきゃ、自分の意見を持たなきゃ、どうしたらいいんだろう、僕にはできるのだろうか?あぁ、自分の意見を持つって難しい・・・、という感じだったでしょう。

内発的動機づけ vs 外発的動機づけ

自律というのは、本来、愉しいからやる、やりたいからやるという「内発的動機づけ」(心の中から沸き起こる気持ちに基づくモチベーションのこと)によるものであるはずです。しかし、上記の例では「外発的動機づけ」(他人や環境といった外部から求められて引き起こされるモチベーションのこと)によるものになってしまっているのです。

社長や上司から「自律しろ、自律しろ」と言われ続ければ、永遠に自律はできないでしょう(笑)

モチベーションをあげろという指示がモチベーションを下げる

常にモチベーションが高い人材を育てるために、モチベーションを上げろと周囲が指導するのは意味がありません。

特に、社長や上司がモチベーションを上げろということは、「外発的動機づけ」を強化します。外発的動機づけは、外部の刺激がなくなれば行動のモチベーションは一気に無くなります。

冒頭のテーマに戻します。

自律を促すにはどうしたらいいか?

ここまで、自律型人材を育成するには、自律を促してはいけないということを書いてきました。では、どうしたらいいのでしょうか?

Why are you here?を持つこと

私は自律型人材が増えるためには、一人ひとりが自分自身の目的(人生のゴールや仕事のゴール)を持つことだと思います。

“Why are you here?”がキーワードです。

なぜ仕事をするのか?

なぜこの会社にはいったのか?

この仕事で実現したいことは何なのか?

これらを「自分を主語にして」語る(=想う)ことができる状態があることです。

しかも、周囲の期待に答えるために考えてもらうのではなく、自分自身の心の中を観察してもらって、自分で自分のために感じとることです。

この「感じとる」という感覚が最も大切です。自分の内面を探求して、真の自分の声に耳を傾けてもらうのです。

誰かに話すときにも、本音で語ってもらえるようになることが大事です。

しかし、多くの職場では、この「本音で語る」が難しい環境にあります。まずはここを安心・安全の場にすることからスタートです。

喉が乾いていない馬に水を飲ませることはできない

なんでもかんでも「自分で考えろ!」と指示することで不安を煽るのではなく、「自分はこの会社で期待されている」「自分は基本的なことはできている」という安心できる環境を、まずは与えてあげることが、矛盾するようですが、自律型人材の育成の近道なのだと、今は思います。

イギリスの有名なことわざがあります。

You can take a horse to the water, but you can’t make him drink.

馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない

出典:イギリスのことわざ

水を飲みたいかどうかは馬次第なのです。

「水を飲め」と命令するのではなく、まずは馬が「水を飲みたい」と思えるような、安心・安全な環境をつくってあげましょう。

タイトルの「自律型人材になってもらう(?)」に「?」をつけました。

「自律型人材になってもらう」と思っている時点でダメですね(笑)。

治療家 ビジネスブレークスルー大学准教授 JIN-G創業者

早稲田大学政治経済学部卒業。銀行員、ベンチャー企業、コンサルファームを経て、JIN-G Groupを創業。グループ3社の経営をしながら、ビジネス・ブレークスルー大学准教授、タイ古式ヨガマッサージセラピストの活動に取組む。また、会社員としてコンサルファームのディレクターとしても活動し、新しい時代の働き方を自ら実践し、お客さまや学生に向け、組織変容や自己変容の支援をしている。組織/個人に対して、治療家として、東洋伝統医療の技能を活用。著書に「21世紀を勝ち抜く決め手 グローバル人材マネジメント」(日経BP社)「リーダーに強さはいらないーフォロワーを育て最高のチームをつくる」(あさ出版)がある。

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