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メディアで誤解広まる:ロシア軍の長距離ドローン攻撃の「未到達」は迎撃失敗ではなく囮機の燃料切れ墜落

JSF軍事/生き物ライター
ウクライナ国境警備隊より墜落したロシア囮無人機ガーベラ(2024年11月25日)

 ウクライナに対するロシア軍の長距離ドローン攻撃は7~8月頃から目標に届かない「未到達」の報告が増え始めると同時に飛来数が激増し、9月以降には安価な囮用の無人機が大量に混じり出したことが確定的となり、10月にはウクライナ空軍司令部は毎日行っている迎撃戦闘の報告で「攻撃無人機」という表記を止めて「敵性無人機(つまり囮機を含む)」へと変更しています。

例:ドローン飛来100機・撃墜50機・未到達50機

※このケースでは1機も突破されていない。

 ドローン未到達のほとんどは囮機が任務を果たして燃料が尽きて勝手に墜落したものと見られています。他には一部の自爆機が電子戦で自己位置を見失って迷走した場合も含まれています。

 ところがメディア報道ではウクライナ空軍司令部の迎撃戦果の報告を誤読するケースが相次いでいます。「未到達」とは原文では”локаційно втрачено”とあり位置を失った、つまり迎撃していないのに勝手に墜落してレーダーから見失った「航跡消失」と表現されているのですが、これを迎撃を突破したと誤解した記事まで出て来ています。そのような誤報はウクライナ防空体制が破綻したと勘違いされてしまうので非常に困ります。

間違った報道の例:その1

ウクライナ軍は17日、ロシア軍が極超音速ミサイルだとする「キンジャール」や巡航ミサイルなどあわせて120発のミサイルと90機の無人機で攻撃を仕掛け、このうち102発のミサイルと42機の無人機を撃墜したと発表しました。

出典:ロシア軍 ウクライナのエネルギー施設を攻撃 全土で計画停電へ:NHKニュース(2024年11月18日)

※11月17日のウクライナ空軍司令部の報告では無人機について「90機飛来・42機撃墜・43機未到達(うち2機がロシアに迷走)」と報告している。しかし「90機飛来・42機撃墜」と勝手に端折って記事にしてしまうと読者は48機が迎撃失敗して突破したと勘違いしてしまう。実際には無人機の突破は5機のみである。

間違った報道の例:その2

ウクライナ軍は今回、ロシアのミサイル91発のうち12発、ドローン97機のうち62機の迎撃に失敗した。

出典:ウクライナ、露軍インフラ攻撃で停電など被害拡大 防御、より困難に:毎日新聞(2024年11月29日)

※記事は11月28日の迎撃戦闘について報じているが、同日のウクライナ空軍司令部の報告では無人機について「97機飛来・35機撃墜・62機未到達」と報告している。つまり実際には無人機の迎撃は失敗しておらず脅威となる目標は全機撃墜に成功、突破は1機も出していない。

 特に11月28日の迎撃戦闘は「ミサイル91発飛来・79撃墜」で迎撃率87%、「ドローン97機飛来・35機撃墜・62機未到達」で迎撃率100%という非常に高い数字です。このためドローン迎撃率の誤解が記事の間違った論旨に重大な悪影響を及ぼしているように思えます。

 11月28日の迎撃戦闘では囮無人機は全く効果を発揮しておらず、自爆無人機は全て撃墜されて突破はゼロでした。また囮含むドローンが巡航ミサイルの突破を援護できていたような様子も見受けられません。ミサイルの中では遅い部類の亜音速巡航ミサイルでも自爆ドローンよりも3倍以上速いので、同調した攻撃は難しいのです。11月28日の攻撃を過去1年間の巡航ミサイルのみの大規模攻撃と比較しても突破率に変化は見られません。

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軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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