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策と策の攻防を勝ちきれず。パワープレーも無得点/レノファ山口

上田真之介ライター/エディター
ゲームを支配したが勝ちきれず=筆者撮影、この記事の他の写真・図も

 J2レノファ山口FCは3月24日、維新みらいふスタジアム(山口市)で栃木SCと対戦。PKで先制を許すと、後半は高さのある選手を前線に置いてパワープレーに出たが、無得点に終わった。2連敗で21位に後退している。

明治安田生命J2リーグ第5節◇山口0-1栃木【得点者】栃木=大黒将志(前半27分)【入場者数】5002人【会場】維新みらいふスタジアム

マッチアップの攻防。一瞬の隙が失点に

菊池と坪井が今シーズン初スタメン
菊池と坪井が今シーズン初スタメン

 試合を通してシステムの組み方で両指揮官が策を出し合った。

 今節はドストンがウズベキスタン代表に選出されてチャイナカップに出場しているため、センターバックのうち一人の入れ替えは確定的だったが、霜田正浩監督は前節から二人とも交代。ベテランの坪井慶介とルーキーで長身の菊池流帆を組ませた。さらに、三幸秀稔と吉濱遼平を並べるダブルボランチを採用。中盤の底を厚くして、相手のストロングポイントになっている大黒将志への供給やセカンドボールからの攻撃を防ごうとした。

ダブルボランチで守備の安定を図った
ダブルボランチで守備の安定を図った

 狙いは守備面で十分に機能し、「相手の一番嫌なところに人が立っていれば、なかなか相手もボールが入らない。(吉濱)遼平くんの良さも出ていたと思うので、そういう意味ではバランスは取れていた」と三幸。序盤から相手の攻撃を真正面から受けるような場面は、ほとんど作らせなかった。

 一方の栃木もレノファのゲームメークを読み、策には策で対応。栃木の田坂和昭監督は「山口の技術の高さ、スピード感は脅威で、少しの隙を与えればやられる」との想定から、前節途中から敷いた4バックをスタートから用いた。4-2-3-1でレノファのシステムに確実に噛み合わせ、守備に転じた時にすぐにチェックできるようにした。

 それぞれが明白な意図を持ち、相手のストロングを抑えながら攻めようとしていく。起きた現象も分かりやすく、双方ともに守備ははまるが攻撃のテンポが上がらないというもどかしい展開。前半25分頃までにレノファと栃木であわせて7本の有効なシュートを放っているが、そのうち5本はセットプレーの流れから。マッチアップした状態をかいくぐれず、レノファは左サイドを軸に組み立てたが、コンビネーションを生かして攻めきるまでには至らなかった。

 先に動いて状況を変えるのはどちらか。0-0のままハーフタイムまで進み、インターバルでのベンチワークがカギを握りそうなゲームになってきていた。

 ところが、均衡は思わぬ形で破られる。

大黒は左隅を狙った。GK山田はボールに触れたが惜しくも弾き出せなかった
大黒は左隅を狙った。GK山田はボールに触れたが惜しくも弾き出せなかった

 前半27分、昨年はレノファでプレーした大崎淳矢が右サイド深くでパスを受け、ドリブルで突破する。レノファは人数は足りていたものの、守備が重なって簡単に交わされてしまい、たまらずペナルティーエリア内で大崎にチャージ。すぐに西村雄一主審の笛が鳴り、2戦連続でPKを献上した。

 セットした大黒のシュートに対してGK山田元気もコースを読んだが及ばず、PKによってスコアが動くことになった。

菊池を前線へ。高さ生かすパワープレー

 後半は策がよりダイナミックにぶつかり合った。

 1点のビハインドを跳ね返す必要があるレノファは後半12分、左サイドバックの瀬川和樹を下げて守備の枚数を削り、3-5-2のウイングバックとして田中パウロ淳一を投入。マッチアップ状態を解消して、攻撃での自由獲得に動いた。「時間の経過とともに(栃木が)前線の人数を減らし、後ろに人数を掛けるのは分かっていたので、僕らも後ろの人数を減らして前に圧力を掛ける」(霜田監督)。意図通りに田中パウロはボールに多く触れ、クロスを供給する。

 栃木もすぐに応戦。田代雅也を入れてセンターバックを3枚に変更し、実質的な5バックでブロックを築いた。

 策のキャッチボールは続く。霜田監督は工藤壮人と山下敬大の2トップを残したまま、後半22分、高井和馬を入れてフィニッシャーを増強。田中パウロが左サイドからチャンスメークし、同30分に工藤、続く同33分に高井がシュートに持ち込んだ。だが、ブロックの間隙を突くシュートはいずれも栃木のGKユ・ヒョンの手に収まり、ゴールネットは揺らせなかった。

 試合はレノファのワンサイドゲームの様相を呈してきたが、栃木もセンターFWの大黒をピッチに残し続けたほか、ヘニキと大島康樹を送り出し、レノファ守備陣が彼らを意識せざるを得ない状況は維持した。レノファにとっては全員で敵陣内に入りたくても大黒などへのチェックを怠ることはできず、必ずしも攻撃枚数を劇的に増やせたわけではなかった。

高い打点でゴールを狙う菊池
高い打点でゴールを狙う菊池

 難局を打開する最終手段として、同34分からパワープレーにシフト。長身の菊池を最前線に置き、前貴之や田中パウロ、この時間から出場した楠本卓海などからロングボールを放り込んでいく。

 菊池と山下は相手のセンターバックやヘニキよりも長身で、「高さにも分があるし、(栃木が)クロスからの失点が多いという分析もあった。きれいにコンビネーションで崩すだけではなく、ゴールの中に人をなだれ込ませたいという意図があり、早めにスイッチした」(霜田監督)。工藤も「崩しのところに費やしていると時間は経過する。菊池を生かして前線で起点となり、そのこぼれ球を拾う。そのほうがやっている選手たちもチャンスになるのではないかという感覚があった」とハイタワーの周りからゴールを狙った。

 しかし、栃木にカウンターを食らったり、菊池へのクロスボールがずれたりして、シュートは最後まで枠を捉えられなかった。レノファは0-1で敗れ、2連敗を喫した。

レノファらしさを担保する「質」に課題

競り合う坪井と大黒。互いに特徴を出した試合となった
競り合う坪井と大黒。互いに特徴を出した試合となった

 見応えのある試合ではあった。後半は栃木のシュートが2本だったのに対してレノファは12本。試合を通してもレノファは相手の3倍以上のシュートを放った。そのうちの1本でも決まっていれば、選手もサポーターも重い足取りでスタジアムを後にすることはなかっただろう。

 策と策がぶつかった90分間で、何が勝敗を分けたのか。

 レノファは昨年1年間を掛けてスタイルを築き、今年は強度や戦術的な難度を引き上げてきた。上位2枠に入るためのプラスアルファを追い求め、開幕前にJ1勢と対戦したプレシーズンマッチで相応の手応えを得た。だが、いざ公式戦が始まってみると、求めてきたサッカーを出す前にミス絡みで自滅。相手に力でねじ伏せられたのではなく、敗因のほとんどが内側にあった。

 前節の愛媛FC戦も1-2の苦杯。試合途中からボランチ付近にまで下がってパスを配った吉濱は「(愛媛戦は)自分たちのミスでやられた。最初の15分以内で二つのミスが出て、失点には繋がらなかったがその延長でやられた」と話し、セーフティーファーストであるべきだと説いた。今節こそはミスを減らしながら、ゴールに向かっていきたい。それが共通認識だったが、一瞬の判断が遅れてスピードのあるプレーヤーにボールを動かされ、再びPKを献上した。

 ミスに致命的なミスを重ねたのは事実。90分を通して集中するのは難しいが、人数が足りていたゆえの油断はなかったか、プレーを他人任せにしていなかったか、内省する必要があろう。

 攻撃も前半はマッチアップした状態を解くことができなかった。左サイドでは山下が下がって受け、瀬川のオーバーラップを引き出したが、川田拳登や寺田紳一などがぴたりとくっつきクロスのコースは限定されていた。

 状況を打ち崩すための3バックへの変更は良策だったものの、試合最終盤は初スタメンの菊池を前線に置くパワープレー。ロングボールの放り込みはレノファらしいとは言えず、無得点だったことを考えれば、場当たり的というそしりは免れない。

 ただ、「相手よりも(菊池)流帆や(山下)敬大が触れていた。それがチャンスになる可能性が高かったからそれを選択しただけで、相手に高さのあるセンターバックがいて、常に跳ね返されていれば違う形になっていた」(三幸)と意図的なチョイスではあった。菊池は頭一つ分以上、相手よりも高い打点でボールに触り、持ち前の闘志も見せつけてゴールを呼び込もうと奮闘していた。もともと地上戦で戦ってきたチームゆえに、長いクロスの精度やボールへの入り方が未熟で、パワープレーを実らせるほどの確度がなかったと言うべきかもしれない。可能性は漂うがオプションに加えるのは時期尚早であろう。

前は攻撃参加回数が増え、後半はペナルティーエリア内でもプレー
前は攻撃参加回数が増え、後半はペナルティーエリア内でもプレー

 言及しておきたい前向きな要素もある。

 質の高い攻撃的なサッカーをレノファらしさと言うならば、前半は攻めあぐねたがボールは確かに保持し、後半はロストが少なく一方的に攻め込んだ。失点の場面と最終盤の10分を除けば、「レノファらしい」と言えるゲームだったのではないか。

 一番恐れるべきはサッカーが小さくなること。右サイドの起点となっている前は「決めきるところとか、勝ちにこだわるというところ。最後の最後で入らないというのが今日の試合は特に出た。クオリティーを上げるしかない」と気持ちを込めた。

 得るものが全くないような試合ではなかった。持つべきメンタリティーを取り戻し、築いてきたベースの中で愚直に質を高めていきたい。

 次戦は敵地で首位のFC琉球と対戦する。タピック県総ひやごんスタジアム(沖縄県沖縄市)で、3月30日午後6時キックオフ。レノファが琉球と対戦するのは2015年のJ3時代以来4年ぶり。次のホーム戦は4月3日午後7時から。維新みらいふスタジアムに徳島ヴォルティスを迎える。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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