ワタミだけではない。介護・保育でも労組結成 労組は何ができるのか?
6月16日、ワタミでユニオンショップ協定(特定の組合に企業の従業員をすべて加盟させる組合と会社との約束)が結ばれたというニュースが報道された。ワタミでは労働法違反や過労死事件が起き、労働環境が問題視されてきた。権利行使の上で、労働組合は不可欠だ。今回の労組結成はワタミの職場の改善につながるものと期待されている。
だが実は、今回のワタミのようにユニオンショップ協定を結ばなくとも、労働組合の権利は行使できる。ちょうど同日には、介護・保育業界で「介護・保育ユニオン」が発足した。こちらは企業ごとではなく、介護・保育業界の労働者ならだれでも参加できる。
保育園や介護現場における人手不足や低賃金、利用者の虐待の問題が大きく取り上げられている。介護・保育の分野でも労働法の権利行使を支える、ユニオンの取り組みの必要性は高まっているのである。
とはいえ、労働法の権利を行使するための労働組合も、その活動内容はなかなか一般にはわかりにくい。そこで本記事では、労働組合(ユニオン)が、介護・保育の現場でユニオンがどのようなことができるのかを解説しよう。
どのような人が参加しているのか?
まずは、介護・保育ユニオンのメンバーの職場の実態とユニオンに加盟した経緯を紹介しよう。
(1)介護職Aさん(30代、女性)の例~「いつか利用者を殺すことになるかもしれない」
介護・保育ユニオンは結成発表と同じ日に、全国展開する大手デイサービス「茶話本舗」を展開する、株式会社日本介護福祉グループへ団体交渉の申し入れを行った。当事者は、仙台市在住の30代の女性で准看護師とヘルパー二級の資格を持つAさんだ。
2014年3月、彼女は、体調を崩しており、短時間で働ける仕事を探していたところ、友人から声をかけられ、茶話本舗で働くことになった。ところが「人手が足りない」と労働時間は増していき、1か月の時間外労働は多い月で70時間を超えるまでになった。
事業所では、要介護度の高い利用者と優先して契約していた。「お金のためだった」というのが彼女の印象だ。それにもかかわらず、職員は経験の浅い者が中心で、人数も少ない。日勤で10人近い利用者を2名体制で回すことがほとんどだった。夜勤は1人体制。労働は過酷を極めた。休憩時間もまともにとれなかった。
賃金も低かった。契約上の時給こそ1100円であったが、2014年4月~2015年10月までの間に70万円程度の未払いが生じており、実際には時給770円台の計算になる(ユニオンによる計算)。
介護の仕事は、本来であれば、十分に余裕のある体制下で、技術をもったプロがやるべき仕事だろう。しかし、それを経験の浅い職員が低賃金で、人手不足の中で、行えばどうなるだろうか。
Aさんのいた事業所では、彼女が勤務した1年半ほどの間に3回も利用者を転倒させ、大腿骨骨折という大けがを負わせている。いずれも深夜や朝方に利用者がトイレに行こうと職員を呼んだ時に職員が気付かず、一人でベッドから立ち上がろうとした利用者が転倒し、大腿骨を骨折する事故だった。事故防止の改善がなされず、同じ事故を繰り返していたという。
Aさんが介護・保育ユニオンに加盟したのは「あの職場で利用者が殺されてしてしまうかもしれない」と思ったからだった。Aさんは、職場はやめたのだが、どうしても利用者や残った同僚のことが気になっていたのだ。
「介護職員だって、人間。休まなくてはいい仕事ができない」「利用者をお金目的に扱わないでほしい」。それが彼女の希望だ。
(2)保育士Bさん(20代、女性)の例~「保育のプロとしての仕事がしたい」
小学校の頃から保育士になりたかったというBさんは、2014年3月、短大を卒業し、大手保育園での就職を決めた。
就職してみると、職場の理不尽さに驚いたという。
まず、サービス残業が当たり前だった。早出や遅番のシフトの際にやらなければならない開園準備や閉園準備、毎月ある夏祭りなどのイベント準備は残業申請ができず、当たり前のようにサービス残業だった。さらに園長からのパワハラがBさんを襲った。強く当たられるので、サービス残業のことを問題と思っても言い出せなかったという。
入社から5ヵ月目ごろから腹痛などが目立つようになり、同年12月に心療内科から「適応障害」と診断された。休みがちになったBさんに追い打ちをかけるように、園長はつらく当たった。「あなたがいると迷惑だ」と何度も言われ、昨年8月、Bさんはついに休職。11月に退職となってしまった。
4か月後の今年の3月、Bさんは、短時間勤務で保育士の仕事を再開すべく別の大手保育園に赴任した。ところが就労一日目、彼女は虐待を目にしてしまう。園児を黙らせるために保育士が園児の口を手でふさいだのだ。近くには、園長もいたが、まるで当たり前のように何も言わない。彼女はこれでは続けられない、と怖くなり、彼女は3日目に退職してしまった。
それから悩んだ彼女は、やはり保育への思いがあきらめられなかった彼女は、ユニオンに相談した。今、彼女は保育園への申入れの準備を進めている。「保育士は国家資格。しっかりした仕事をするためにもそれなりの処遇にすべき」。彼女は記者会見でそう語った。
労働法だけでは労働者は守られない
Aさんの職場も、Bさんの職場も違法がまかり通っていた。法律を守ることは当たり前のことのはずなのに、それがなぜまかり通るのか。すこし考えてみよう。
賃金の支払いを受けながら働くときに、私たちが使用者(会社)と就労場所、仕事内容、賃金などの労働条件を決めるのが、労働契約だ。同法によれば、「労働契約」は、
「労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする」(労働契約法第3条1項)
とされている。だが、実際には、使用者(会社)の方が働く側より強いのは明白だ。たとえば、「残業をしてくれ」といわれて断れる労働者がいるだろうか? あるいは、個人が「対等」に給与の交渉ができるだろうか?
そもそも交渉しようとしても、まともに取り合ってもらうことすらできないだろう。実際には労使関係に「対等」はなり立っていないのだ。違法状態がまかり通るのも同じ背景があってのことだ。法律上の権利があっても、不利な力関係では「行使」ができないのだ。AさんもBさんも、契約内容どころか、違法な点を会社に指摘することができなかった。違法なことすら、個人では解決できないのが現実である。
労使の力の格差を埋める、労働組合(ユニオン)
この使用者と労働者の間のこの「力の格差」を埋め、問題解決できる手段が労働組合(ユニオン)だ。
会社には、労働組合との交渉に応諾し、誠実に交渉する義務がある。無視することだけではなく、不誠実な対応を取ることも禁止されているのだ。例えば、会社側は人事部長などの決定権限のある責任者が交渉に参加しなければ「不誠実交渉」になる。
またユニオン側には、会社との交渉の経験や法的知識の豊富な専門スタッフがおり、一緒に会社と交渉してくれる。専門家が一緒ならば、会社から一方的に条件が決められることはない。
さらに、会社と組合の話がまとまらない時には、労働組合は争議のために団体として行動することができる。個人が会社に対して抗議を行う場合とは違い、この団体としての行動は「正当な行為」として損害賠償の対象にならないなど、法的に保護されているのである。ユニオンの抗議活動によって社会的批判が会社向けられ、その圧力で、問題解決に至るケースも多い。
このように、個人では「対等」に会社と交渉することができない労働者にとって、会社と対等に交渉するための「武器」となる法律が労働組合法なのだ。労働法学の大家である西谷敏教授によれば、労働組合法の機能は次のようなものだ。
「団結権等を積極的に承認して、集団的労使関係を助成することによって、個別的次元では形骸化しがちな私的自治を集団的次元で回復することである」(西谷敏『労働法』)
「私的自治」とはまさに、個々人が市民社会で対等に契約関係を取り結ぶことである。労働組合は、市民社会の対等や平等を保障するために労働側に与えられた「特別な権利」なのだ。
まずは相談を
現在、多くのブラック企業には労働組合が存在しない。だが、会社に労組がないからと、加入を諦める必要はない。日本では企業別労組が多いが、法律上、企業別である必要はない。繰り返しになるが、冒頭のワタミのように、会社全体で協定を結ぶ必要は必ずしもないのである。
介護保育ユニオンのように、個人からでもはいれる組合がある。ぜひ労働組合に相談にして労働組合法上に定められた「対等交渉」の権利を行使してほしい。
無料労働相談窓口
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