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どのようにエステティックTBCの違法労働は改善されたのか?

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

今年3月、エステティック業界大手「エステティックTBC」の違法残業、休憩未取得、賃金不払いといった労働基準法違反について、労働基準監督署が是正勧告を出していたことが、エステ業界の労働環境の改善に取り組む労働組合エステ・ユニオンの記者会見によってわかった。

すでにエステ業界では他の大手企業でも労働法違反が度々指摘されている。また、エステ業界に限らず、日本には違法企業が蔓延している。違法労働の取り締まりは、日本社会の喫緊の課題である。本記事では、TBCでどのように違法労働が指導されたのかを紹介し、違法労働で苦しむ会社員への一助としたい。

エステ・ユニオンのブログ

エステティックTBCとは

エステティックTBCは実質的な業界最大手であり(売上高1位の「ミュゼプラチナム」は経営問題が報道されるなどしており、実質的にはTBCが業界最大手企業である)、本年設立40周年という、名実ともにエステティック業界のリーティングカンパニーである。エステティックTBCの企業概要は以下のようなものだ。年間売上高は360億円にも上り、従業員数も2000名を超える大企業だ。

会見をしたAさんの労働環境

まずは、違法労働の実態を見ていこう。

記者会見を行ったAさん(30代女性)は、子供が2人おり、週5日勤務、1日6時間半労働の時短勤務者で雇用契約を結んでいた。ところが、実際の労働環境は休憩がほとんどなく、定時前出勤・残業を含めると1日10時間近くの長時間労働を強いられていた。そして、そのような長時間労働に対して適切な賃金も支払われていなかったという。

また、長時間労働により、子供と過ごす時間が限定され、子育てとの両立が困難な状況に追い込まれていた。Aさんが労働基準監督署へ通報した内容の詳細は以下のようなものだった。

(1)育児との両立困難な長時間労働

【契約】10:45〜18:45(休憩90分)

【実際】9時頃~19時過ぎ(休憩はほとんど取れない)

Aさんは、朝9時頃から定時前出勤をし、サロンの掃除や顧客のカルテ(顧客の情報共有のために活用されている)の記入、10時からは全体で当日来店する顧客のカルテのチェックを行うなどし、11時からの開店に臨んでいた。また、顧客対応が延長したり、他の従業員を手伝ったりすることで残業が発生し、退勤は19時過ぎになることが多かった。

(2)適法な36協定のないままの残業

会社が労働者を残業させる場合、民主的な手続き(直接無記名選挙や挙手での選挙等)で従業員代表を選出し、労使協定(労働基準法36条が根拠になっていることから通称「36協定」という)を締結してサロンの残業時間の上限を決め、それを労働基準監督署へ届け出なければならない。 

ところが、Aさんは約15年同一のサロンで勤続をしてきたが、一度もそのような民主的手続きを経験したことはなく、残業を強いられていた。

(3)休憩未取得

休憩も社内規定で定める90分間は取れていなかった。そもそも顧客の予約表からも休憩が90分取れていないことは明確である上に、予約表上の休憩時間中は顧客カルテの記入や電話番、顧客対応の延長や次の顧客準備があり、休憩らしい休憩は取れることができなかった。さらに、土日祝日などの忙しい曜日は、おにぎり1つ食べれるかどうかの忙しさだったという。

(4)賃金不払い

以上のような定時前・休憩・残業の3点について、業務をしているにもかかわらず、会社は賃金を支払っていなかった。

エステティックTBCに対する是正勧告の内容

Aさんとユニオンが上記の問題について労働基準監督署へ通報をしたところ、監督官がAさんの働くサロンへ調査に入り、以下の労働基準法違反が確認されたため、2016年3月4日、エステティックTBCへ改善を求める是正勧告が出された。今回、是正勧告が出たということは、国がエステティックTBCの違法残業、休憩の未取得、早出・休憩・残業の賃金不払いを明確に違法と判断したということである。

国は、法定内残業(Aさんの場合、1日6時間半〜8時間までの分)に対し、働いた分の賃金が払われていないこと、適法な手続きで従業員代表を選出しておらず、適法な36協定がないまま残業をさせていたこと、1日6時間以上の労働に対して45分以上、1日8時間以上の労働に対して1時間以上の休憩を与えていないこと、週40時間・1日8時間以上の残業に対する割増賃金が払われていないことを認めたのである。

違法労働を改善させたユニオンの取り組み

では、どうしてTBCでは違法労働を国が認め、改善が指導される結果となったのだろうか。それは、労働組合であるエステ・ユニオンが、従業員の権利行使を支えていたからである。

エステ・ユニオンには、全国のエステティックTBCで働く従業員からの労働相談が殺到しているという。エステ・ユニオンの「TBCとの交渉の経過」というブログ記事には、ユニオンに加入したエステティシャンたちが自身の経験した過酷な労働実態や会社改善への想いを発信している。

エステユニオンに加入した従業員の声

私は、高校を卒業してから、「エステティックTBC」で約15年間働いてきました。今回、私がエステ・ユニオンさんに相談をして、会社へ改善を求めようと思った一番大きな理由は、約15年間働く中で、朝から夜までの長時間労働、休憩が取れない、実際に働いた分の賃金が払われない、毎月の目標達成のプレッシャーやそれができなかった場合の「自己購入」などの問題によって、多くの仲間たちが体調を崩して退職をしていってしまうのを見ているのが辛かったからです。

現在、私は、上に書いたような問題によって体調を崩してしまい、休職をしています。私が抜けてしまって、店舗のみんなに迷惑をかけてしまっていると思うと、とても申し訳ない気持ちで辛いです。ただ、今の私にできるのは、これまで働いてきた中で「おかしい」と思ってきたことを会社へ問いかけて、「早く誰もが安心して働ける環境を作ることなのかな」と、自分に言い聞かせています。

TBCには、今回の話し合いをきっかけに、労働環境でも業界トップ企業になって欲しいです。たかの友梨さんも改善したのだから、TBCもしてくれると私は信じています。

私の働いていたサロン以外でも色々な問題があるのかなと思います。相談や情報をお寄せいただけたら、それについても会社へ改善を求めていけますので、ご検討ください。もし良かったら、一緒に働きやすいサロンを作っていけたらと思います。よろしくお願い致します。

会社に対して、労働環境の改善をすることは1人では怖いことであるが、ユニオンには同様の問題を抱えた従業員が多数加入しており、専門家とタッグを組んで、粘り強く会社と交渉を続けている。

会社もユニオンとの話し合いの中では改善に向けて前向きな回答もしてきているという。

在職しながら改善して働くという要求以外にも、退職する際や退職後に、過去の問題を請求することもできる。請求行為を行うことによって、今残っている従業員やこれから入社する新入社員へ良い環境を作ることもできる。

違法行為には一人で悩まずに、積極的にユニオンを活用して是正を促していくことが有効なのだ。しかも、このような、違法行為の是正を促す取り組みは、個々の企業を超えて、日本社会全体の労働環境の改善にもつながる。

実際に、業界最大手の企業がこれまでの労務管理を反省し改善することは、業界全体の労働環境の改善に大きな影響を及ぼすだろう。エステティックTBCには、今回の従業員たちの改善要求を真摯に受け止め、労働環境でも業界をリードする企業になることを期待したい。

最後になるが、違法労働に悩む会社員には、ぜひユニオンに加入して改善交渉をすることをお勧めしたい。

無料相談窓口

エステ・ユニオン

TEL:0120-333-774(土日含め8時~22時で対応)

MAIL:info@esthe-union.com

HP:http://esthe-union.com/

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03-3288-0112

http://black-taisaku-bengodan.jp/

日本労働弁護団

03-3251-5363

http://roudou-bengodan.org/

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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