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GDP2.6%成長で「消費税“増税”はどうなる?」は茶番! GDP至上主義は無意味

山田順作家、ジャーナリスト

■増税「見送り」「段階引き上げ」は目くらまし

8月12日、内閣府から、2013年4~6月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値が発表された。それによると、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.6%増、年率換算では2.6%増だった。この数値をどう見るか? 

見方次第で、来春(2014年)に消費税を8%に引き上げるのか、引き上げないのかが決まる。もちろん、この後改定値などが出るので、結論は10月になるという。

しかし、これはメディアが好んで使う「判断停止」論法である。実際は、数値がどうなろうと、消費税の引き上げは決まる。「見送り」や「1%段階引き上げ」などは、全部目くらましで、すでに政府も企業も8%引き上げ準備を進めている。IMFも引き上げを勧告しているのだから、「止めます」はありえない。それをメディアはわかっているのに、「どうなるのか?」と言ってみせているだけだ。

■やるべきことは消費税の増税ではない

はっきり言って、現在の日本の財政状況では、8%は子供騙しである。その先の10%でも効果が知れている。20%ぐらいにしないと、一息つけない。それなのに、「8%では足りない。もっと上げろ」という意見は出ないで、「やめたほうがいい」という意見が強いのだから、あきれてしまうしかない。

ただ、こう書く私は、増税を支持しているわけではない。増税して財政を持たせ、現在の日本政府を続けさせる意味はないと思っている。増税するくらいなら、現在の政府をいったん破産させ、徹底して小さな政府にし、経済はすべて民間にゆだねたほうがましだ。

そのためには、増税よりも減税し、公共事業費を削り、公務員を削り、徹底して規制緩和し、TPPもアメリカ以上に積極的になって全関税を撤廃し、オスプレイはもっと受け入れ、軍事費を減らし、移民を大量に受け入れる。そうして、日本を少なくともシンガポールよりも魅力的な国にすべきだ。そのくらいしないと、日本は持たない。

TPPで「国益を死守」などと言っている人を見ると、開いた口が塞がらない。これほどまでに経済衰退しているのに、いまさらなにを守るのか? それなら、すべてフリーにして、知恵を絞ってグローバル経済を勝ち抜いたほうがましだ。

オスプレイも憲法も、ほうっておいてもいい問題だ。

■2.6%は政府がつくった見せかけの数字

さてそれでは、以下、今回問題にされているGDPについて、もうちょっと考えてみたい。まず、今回の2.6%の中身だ。ポイントをまとめてみると、次のようになる。

1、 GDPの約6割を占める個人消費は、前期比0.8%増と3四半期連続のプラス。

2、 公共投資は1.8%増(補正予算に含まれる緊急経済対策の効果)。

3、 輸出は3.0%増(円安効果)。 

4、 設備投資は0.1%減で6四半期連続のマイナス。

5、 民間住宅は0.2%減と5四半期ぶりのマイナス。

以上の5つのポイントで重要なのは、4と5の民間部門である。これらは、どちらもマイナスなのだ。つまり、企業は設備投資を控えたままだし、住宅建設も落ち込んでいる。そんななか、GDPを押し上げたのは、公共投資と円安による輸出と、高級品購買の個人消費だけなのだから、これでは景気が回復しているとは言えない。

実際、日本工作機械工業会が発表した7月の工作機械受注額は一年前に比べ12.1%減で、15カ月連続マイナスとなっている。また、外需は17.9%減少の601億7500万円となっている。

つまり、今回の2.6%は、政府が税金をつぎ込んでつくった数字と言っていい。これでは、とても消費税を引き上げることなどできない。ただ、数字の中身などどうでもよく、どんな数字がでようといくらでも理屈がつけられるから、結局、消費税は上がる。そういうことになっている。

■GDP計算式は「政府支出」が含まれている

ところで、「経済指標の中で一番重要なのは国内総生産(GDP)である」とよく言われるが、本当にそうなのだろうか?

GDP=Gross Domestic Production)とは、「一定期間の間に国内で生み出された付加価値の合計金額」のことと定義されている。では、どうやって、それを算出するのだろうか?

GDPの計算方式で、よく見かけるのは次の2つである。

《分配面から見たGDP》

GDP(国内総生産)=雇用者報酬+(営業余剰・混合所得)+固定資本減耗+(生産・輸入品に課される税-補助金)

《支出面から見たGDP》

GDP(国内総支出)=民間消費+民間投資+政府支出+純輸出(財貨・サービスの輸出-輸入)

わかりやすいのは、後者の《支出面から見たGDP》のほうだ、それで、この式の右辺を見ると、「民間消費」「民間投資」「純輸出」の3つが民間部門(プライベートセクター)、「政府支出」が公共部門(パブリックセクター)である。

ということは、GDPを増やしたたければ、民間部門がどうであろうと、公共部門を増やせばいいことになる。要するに、政府が税金をつぎ込んで事業をすればGDPは増えるのだ。アベノミクスがやっているのは、これである。エコノミスト、評論家の一部が「景気を回復するためには財政政策で政府支出を増やせ」と主張するのは、GDPの計算方法がこうなっているからである。

■政府は自ら富を増やすことはできない

しかし、公共投資をいくらしたところで、国民は豊かにならない。高速道路、公共施設などは立派なものができるだろう。しかし、その工事があるうちだけ雇用は維持されても、なくなれば終わりだ。実需でないのだから、カネが降りてこなければ、そこで景気は腰折れする。

つまり、本当の景気回復は、民間部門の数字の改善にかかっている。景気が政府支出だけで回復できるなら、こんな簡単な話はない。ケインズでさえ、公共投資の必要性は説いたものの、公共投資が必要なのは不況期だけで、それを毎年のように期待することは社会主義への道であると、指摘している。

それなのになぜ、経済指標でもっとも大事とされるGDP 計算に、政府支出などというものを入れたのだろうか? そもそも、ここに間違いがあるのではないだろうか?

政府というのは、国民経済で生まれた富を再配分するだけで、自ら富は増やせない。いくらおカネを刷っても、富は増えないのは、誰にでもわかると思う。つまり政府支出が増えてGDPが増加しても、日本国民が豊かになったことにはならない。

■GDPは増えればいいというものではない

それなのに、いまのメディアや評論家は、GDP至上主義に陥り、GDPさえ増えればいいと思い込んでいて、その中身を吟味しようとしない。「GDP増=経済発展」は、中身次第である。つまり、民間部門の設備投資や消費が増えるから経済は発展するわけで、単にGDPを増やしも経済は発展しない。順序が逆だ。

安倍政権の国土強靭化計画では、「生活を守る、災害に強い国にする」という理由で、公共施設や道路の補修、さらに新規の公共事業が行われる。その規模200兆円という。

空洞化で工場もなくなり、人口減で過疎地が増えているというのに、まだ公共施設や道路をつくろうというのだ。

たしかに現在の先進国を見ると、GDPに占める政府支出の割合がどんどん増えている。政府が支出を増やせば、それが最終的に国民に回り、雇用が増えて景気がよくなると、エコノミストたちが言い続けたからだ。アベノミクスも同じ理屈である。

しかし、近年のアメリカの例を見ると、この見方は成り立たない。

■公共事業費をいくらつぎ込んでも無駄

2000年代に入ってから、アメリカでは公共支出が増加した。しかし、雇用の改善は見られず、景気が一時的によくなっても失業率は下がらないという「ジョブレス・リカバリー」(雇用なき景気回復)しか起こらなくなった。

政府支出の増加は、既得権益を持つ企業に吸収され、労働者にまでまわらないと言われている。そればかりか、政府が支出を増やせば増やすほど、労働者の所得が減ってしまう傾向にある。それなのに、FRBは景気が失速するのが怖くて金融緩和を続けている。

日本の公共投資も同じだ。日本では、公共事業費は1980年代にGDP比で10%近くまで達した。そうしてバブルが崩壊すると、景気の落ち込みを食い止めようと、毎年のように公共事業費をアップさせた。しかし、景気は改善せず、借金が積上るだけだった。そうして、1997年の金融危機のときから、公共事業費は削られることになり、2008年にはGDP比で4%まで低下した。

結局、公共事業で見せかけのGDPを増やそうと、民間部門が反応しない限り、景気は回復しないのである。それなのに、アベノミクスは公共事業を大幅に復活させた。それを歓迎しているのは既得権益側と、太鼓持ちエコノミストだけだ。

まったく、ばかげているとしかいいようがない。

■2016年からGDPの計算方法が変わる

ところで、GDPの計算方法が変わることになっている。これまでの国際基準が見直され、日本は新基準を2016年から導入することになっている。現在、GDPを計算する基準となっているのは、国際連合が定めた国民経済計算(SNA)である。この計算式が統一されているので、世界各国のGDPは国際比較できるようになっている。

この基準を国連は2008年に見直し、加盟国に修正を促している。これを、日本も受け入れた。

今回の見直しでは、これまで付加価値を生まない「経費」として扱われてきた研究開発費を、GDP計算に算入することになる。たとえば、国内の自動車メーカーが国内で生産・販売したクルマはGDPの中に含まれていたが、搭載する小エンジンを開発するための研究費用はGDPから除かれてきた。これが、新基準では付加価値を生む「投資」と見なされ、GDPに加算される。

内閣府によれば、研究開発費をGDPに算入すると、日本の名目GDPは3%以上押し上げられるという。一足先に新基準を導入したオーストラリアやカナダでは1.1~1.6%程度だから、3%はかなり大きい。アメリカですら最大2.8%と言われている。

これは、日本企業がグローバル化といっても、研究開発拠点だけはかたくなに国内に残してきたからだろう。しかし、今回のGDP速報値でも設備投資は増えていない。いずれにせよ、この現状を打破するには、もう日本は国内経済の成長を国内で担保するという考え方捨てるしかない。

企業は成長を求めてどんどん国外に出る。と同時に、外からの投資を引き込むしかないだろう。

つまり、もういい加減、「社会主義」と「鎖国」をやめるべきなのだ。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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