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京都最大の裏表を暴こう―観光地としては一流だが、地域住民・子育て世代にとっては三流であるー

にしゃんた社会学者・タレント・ダイバーシティスピーカー(多様性語り部)
外国人口コミランキング1位に選ばれた伏見稲荷の千本鳥居。 写真:haru012

全国あちこちの駅などでよく見かけるポスターがある。京都の文化財などを写した写真の上に大文字で「日本に、京都があってよかった」と書かれている。このポスターが登場するようになったのは平成19年からで、今年で8年目を迎える。京都を表現するに当たってこの言葉がよほどしっくりくるのか、年に2回ポスターの写真が変わるものの、この謳い文句だけは変わらない。

この街には1200年にわたってこの国の都として築き、残された遺産がある。1994年には『古都京都の文化財(17ヶ所の寺院、神社、城で構成)』としてユネスコ世界遺産にも登録された。重要文化財も日本一で291件を所有する。深い歴史の甲斐もあり京都人気は絶大である。来客者数は常に右肩上がりで、2015年では5000万人、外国人観光客も100万人を超えた。

京都ならば観光客を誘致するためポスターを貼るなど特別な努力をしなくても人はやってくるに違いない。京都は日本人の心であり、あこがれの都市である。この街に対してだけは疑いの念はなく無条件に敬うのはこの国の民である。ご法度と化しているか事実京都に対して批判する声は聞かない。物事に対し冷静な心、客観視を無くし、考えることを怠ることほど危ないことはない。

そんな危機感からあえて今回は京都について考えることにする。京都を見る立ち位置は大きく2つで、観光客にとっての京都と住民(当事者)にとってのそれである。観光客に対しての最大の引きで、京都の売りは世界遺産である。紛れもなく素晴らしい。しかしそれは「日本に富士山がある」というのと余り変わらない。富士山同様世界遺産も、また今生きる人々の功績ではなく、歴史の賜物に過ぎない。京都に対する私の仮説は次の通りで、「京都は、観光客にとっては一流(最高)だが、地域住民・子育て環境としては三流(最低)」である。

1. 京都、エンゲル係数が日本一高い。

まず、目につくのは、この街のエンゲル係数の高さである。日本一高い。念のためにエンゲル係数とは、エスンスト・エンゲルが19世紀に発見し、日本では大正時代から用いられている「家計の消費支出総額に占める食料費の割合で、それが低ければ民はそれだけ豊かである」と分析したもので、さらには「収入が増えるに従い食料支出の割合は低下する」という内容の法則である。

総務省が2人以上の世帯を対象に行った家計調査によると、京都のエンゲル係数は2013年で28.7%と日本で最も高く、1位の座を譲らなくなってもう長い。観光客によって物価が釣りあげられていること、さらには地産地消の値が低いにもかかわらず、過剰なブランド化も原因となっている。例えば、各都道府県の中でも京都の特産品などを登録する地域団体商標では出願146件で登録59件といずれも全国で1割以上を占めており、日本一高い。ブランド化された京都産のモノは高価で一般の京都人の口には入らない。観光客にとっては、旅行という限られた期間においてこの地の高い出費に絶えられても、365日ここに消費基盤を置き、住み・子育てする者としてはこの地は貧しいと言わざるを得ない。

2. 京都、特殊出生率は日本一低い。

合計特殊出生率とは、15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したものである。厚生労働省が発表した2008~12年の市区町村別の人口動態統計によると1人の女性が生涯に産む子供の平均数を示す合計特殊出生率が最も低かったのは京都市東山区の0.77で(次に、東京都豊島区(0.81)、大阪府豊能町(0.82)と続く)。特殊出生率の全国平均は1.38で京都は平均の半分程度に留まっている。

因みに合計特殊出生率が最も高いのは徳之島の伊仙町(鹿児島)の2.81で、京都東山区の約4倍である。伊仙町に続くのは、久米島の久米島町(沖縄県)(2.31)、宮古島の宮古島市(沖縄県)(2.27)で上位30位のうち25市町村が九州・沖縄地方の島嶼(しょ)部の自治体である。厚労省人口動態・保健社会統計課はそれらの原因を「島嶼部は地域や家庭が連携して子育てをする環境が整っており、下位に都市部が集中している点は、仕事に励む女性が多く、20代を中心に未婚者が多いことが影響しているため」と分析している。

特に経済的、社会的な事情により子どもを産めないとする環境は、紛れも無くその地域のゆとりのなさ、そして貧しさの証に過ぎない。京都は子どもを産む環境としては最下位であることをここで証明している。併せて日本が国策で進めている女性の社会進出がややもすると合計特殊出生率の更なる低下につながらないかと言う警鐘を鳴らしている。

皮肉にも東山は、京都市の観光地の中で最も人気で、清水寺、八坂神社や祇園などなど最も観光客が集まる神社仏閣が集中している地域である。観光地としての魅力と住民として子育て環境としての魅力は反比例していることが明らかである。

3. 京都、喫煙天国である。

京都は喫煙者天国である。京都市は、飲食点の売上げが下がるなどと言い、観光客に配慮して禁煙対策を後回しにしている。京都市では煙の横流れによる受動喫煙から人を守るような壁で囲んだような喫煙所は京都駅に一箇所あるだけである。他は道路にさえ置かなければ何処ででも灰皿の設置は認められ、京都の一部の観光地、および一部の繁華街の道路上を除いて喫煙は何処ででも許可されている。喫煙者天国である。「禁煙努力義務」という解釈が何方とも採れる中途半端で、しかも小さく書かれた文字をたまに見かけるが、何の効果も効力もない。何よりも行政のやる気が感じられない。なぜ誤魔化しているのか?なぜ受動喫煙の加害者に気を使う必要があるのか?観光地には人が住んでいて、ましては多様な文化背景の者が来る以上、余計に阿吽の呼吸に頼ることなく、YESとNOを明確にしたルールづくりと見える化(掲示)が必要になってくる。

日本は、小学生以降、登下校のルートが指定される。私は数名の児童と登校を共にして調査したが、いずれの登下校のルートにも喫煙所が数箇所に置かれている。京都の道は狭く、公道ぎりぎりの私有地に灰皿が置かれ、通学路上に立って喫煙する大人が煙を吹かす数センチの所で受動喫煙しながら子どもは学校に行き来する。あるいは学校の真隣が店前で灰皿を置いて喫煙させるコンビニで、その前を同じく受動喫煙しながら通過させるよう登下校ルートが決められている。京都には、せめて登下校時においてだけでも、受動喫煙から児童を守るという発想はなく、何の対策も講じていない。「京都は、子育て環境としては最低」と言わずしてなんと表現しようか。なぜ観光客が多い地域を「喫煙禁煙」に出来て、通学路は出来ないのか?現状、行政がどっちに重点を置いているかが明確である。観光地より子供の登下校ルートの禁煙化が先ではないか。

京都の向こうに日本が見える

あなたの街は、市民として、子育て環境として最高ですか?最低ですか?この記事がそのことを考える踏み台になればと願う。実は、なぜ京都を今回、取り上げたかについては一つ思いがある。京都は、いろんな意味で日本の縮図であると考える。日本という国に京都と同じように過去の栄光に囚われたおごりは無いか。外ばかりを見ていて、住民をおろそかにしてはいないか?日本もこれから観光客誘致に力を入れていくが、そこに住む人の幸せを最優先に考えられているのか?観光からの恵みを国民の幸せのために分配されるのか?

京都を、日本人の心、日本のふるさとであると見ている観光客は、歴史だけではなく、現状はどうなのかなど、この街をより客観的に多角的に見る目も持ち合わせる必要があろう。同時に京都の行政に関わる者には京都ブランドや、過去の遺産に胡坐をかいていることなく、上辺だけで誤魔化すのではなく、今この地に住む人間、特に子育て家族にとってどれほど豊かな街であるかを己に厳しく問いかけた政策の実施が求められる。

写真:JerryLai0208
写真:JerryLai0208

京都の地域住民、子どもたちに「日本に、京都があってよかった」と言わしめてこそ京都は一流になる。

この街には「京都人は外国人と学生さんにやさしい」という一寸した言葉がある。この両者とも共通して一時滞在でいずれこの街を出て行ってくれるため、やさしいという解釈のようである。一時滞在では解らないことも長くいると気づくこともある。筆者は京都に四半世紀越え住んでいる。18歳で一文無しで京都にやって来て、学生と外国人の両方を同時に経験し、現在では大学の教員をしながらこの街で子育てをしている。今回の内容は、そんな当事者として発見した「京都最大の裏表」である。

※ 上記の記事と関連のある記事

日本の接客は世界遺産である

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インバウンドで我が街を盛り上げたい全ての自治体も参考になる京都が世界一の観光地であり続けるための条件

上記の記事の英語に翻訳された記事Revealing the largest double face of Kyoto ―First class as a tourist site, but third class for residents and families with childrenー

社会学者・タレント・ダイバーシティスピーカー(多様性語り部)

羽衣国際大学 教授。博士(経済学)イギリス連邦の自治領セイロン生まれ。高校生の時に渡日、日本国籍を取得。スリランカ人、教授、タレント、随筆家、落語家、空手家、講演家、経営者、子育て父などの顔をもっており、多方面で活動中。「ミスターダイバーシティ」と言われることも。現在は主に、大学教授傍ら、メディア出演や講演活動を行う。テレビ•ラジオは情報番組のコメンテーターからバラエティまで幅広く、講演家として全国各地で「違いを楽しみ、力に変える」(多様性と包摂)をテーマとする ダイバーシティ スピーカー (多様性の語り部)として活躍。ボランティアで献血推進活動に積極的である。

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