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まさかのアウトロー任侠ドラマ『Believe―君にかける橋―』 テレ朝が木村拓哉に託したもの

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

『Believe―君にかける橋―』は脱獄ドラマ

木村拓哉のドラマは、始まる前は「建設屋の物語」だとおもっていたが、違っていた。

「脱獄もの」であった。前半はそう展開する。

『Believe―君にかける橋―』である。

1話冒頭は判決シーンであり、そのまま刑務所へと収監される。

彼の罪は巨大な大橋の崩落事故を起こした責任を問われたものだ。業務上過失致死で、執行猶予がつかなかった。

刑務所内のドラマとして始まった

まず、刑務所内のドラマが展開される。

刑務所では、いまは刑務官も受刑者を呼び捨てしない、というような刑務所内部も描かれる。同室の受刑者を演じて相変わらず一ノ瀬ワタルはいい味わいである。

まさか、こんなにきちんとムショもののドラマだとは。

作業中の受刑者が手を挙げると、見張っている刑務官が大声で「ようけーんっ!」と聞くのが物珍しい。

脱獄していまだ逃亡中

そして、脱獄する。

協力者を作り、隙を見て逃げる。

でも、単独で簡単に逃げられるものではない。

刑務所側の人間も、彼の脱走を察知していながら、見て見ぬふりをしていたから、彼は破獄できた。

3話で破獄して、6話でいちど捕まるが、ふたたび刑事に見逃され、逃げ続ける。

いま、まだ逃走中である。

大きな陰謀を暴くため

脱走しているのは、大きな陰謀を暴くためである。

巨大な橋の崩落の罪で彼は服役しているが、それは彼が一人で罪をかぶっていいものではなかった。彼は真相を知らされていない。そのためにもがきつづける。

キムタクが演じるのに不足ない役

主人公は大手ゼネコンの部長、大きな橋を設計する仕事をしていて、社会的に高い地位にある男だ。キムタクが演じるのに不足がない。

ドラマでは冒頭から罪を認めて、刑務所に入ったエリート。

でも刑務所内では、もとエリートかどうかは勘案されない。その身体能力でもって、ただ脱獄するだけである。

エリートだろうと、脱獄すればただの脱獄囚である。

人に助けられて、進んでいく姿がスリリングである。

巨大な悪を倒すまでの「ひねり」

巨大な悪を一人の力で暴こうとするのは、ドラマの定番である。

ただ、正義へ向かう一本の道ではドラマがもたないので、どんな物語でも、ひねりが入る。

ドラマ『アンチヒーロー』では、最初は主人公が「悪」側であるかのように描かれた。主人公一味がめざしている道と悪の姿がわかるのは、お話がかなり進んでからだった。

ドラマ『Re:リベンジー欲望の果てにー』は、悪者によって逆境に追い込まれた主人公が再びもとの立場を取り返すためのドラマ、のように始まった。が、あっさり主人公は権力を握り、やがて彼自身が悪事に手を染めるという予想外の展開を見せている。

初期のつまらなさをひっくり返ってなかなかおもしろい。

犯罪者がさらに犯罪を犯している

『Believe―君にかける橋―』がめざす先は、真実の追究、大きな事故の本当の原因をつきつめること、である。

でも、主人公は、脱獄中だ。

犯罪者がさらに犯罪を犯しているところだ。

でも協力者がいる。

それが引きも切らない。

侠気のドラマだから木村拓哉

脱獄中だとわかっても、心情を察して、協力する人が出てくる。

任侠ものの基本だ。

法は法だが、もっと大事なものがある、というのは昭和のむかしはかなり流行った物語構成だが、あまりいまどきではない。

アウトローの物語だからだ。

でも『Believe―君にかける橋―』はアウトローの任侠を描いて、物語を引っ張っていく。

侠気(おとこぎ)のドラマである。

だから木村拓哉なのだろう。

次々と現れる任侠な協力者

脱獄を見逃して、彼に協力する者は、つぎつぎと出てくる。

土木部の部下(一ノ瀬颯)、刑務所での同房者(濱田龍臣)、刑務所の看守長(上川隆也)、工務店の社長(田中哲司)、その娘(河村花)、双子の弟を崩落事故で亡くした刑事(竹内涼真)。

協力者は毎回、つっけんどんに現れて、最後はきちんと助けてくれる。

言葉は信じられないが、彼らの行動は信じられる。

それが繰り返し描かれる。

人は「言葉」ではなく「行動」で判断しなくてはいけない。

これがこの任侠ドラマのひとつの主張だ。

木村拓哉に託されたもの

アウトローを助けるふつうに生活する人たち。

彼らの心情を描き、そこが熱い。

そして、いまどきではない。

木村拓哉に託されたのは、この「いまどきではない交流」を目の前に存在させてほしい、ということだ。

日本のドラマのメインストリームに立ち続けていた男に「逃げ惑ってもまだ人の信頼を得る男」を演じて、ストーリーを越える何かを伝えてほしい、と「テレビ朝日開局65周年記念」の心持ちが預けられているのだ。

65周年の本気

出演しているメンバーにも「65周年」ならではの本気が感じられる。

まだそれほど評判とは言えないかもしれない。

でも、心情は見るにつれて、じわじわ強く伝わってくる。

アウトローの任侠なドラマ。

まったくもって今どきではない。

どうあっても最後まで見届けないといけない、という心持ちになっているところだ。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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