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『あのクズを殴ってやりたいんだ』ドラマ史に残る最終話の「殴ってやった」名シーン

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:アフロ)

目を瞠った『あのクズを殴ってやりたいんだ』の殴るシーン

火曜ドラマ『あのクズを殴ってやりたいんだ』の最終話の「殴る」シーンには目を瞠った。

見事であった。

『あのクズを殴ってやりたいんだ』という刺激的なタイトルに負けない最終話であった。

殴っていたのはボクサー

ただ、殴っていたのは「クズ」ではない。

女性ボクサー。つまりボクシングの試合の相手選手である。

プロのボクサーとなった主人公が最初の試合で戦った相手は、実力派で、ダウンも奪われて、追い込まれていた。

でも、最終第4ラウンド、起死回生のパンチを決める。

興奮した。

倒れた相手を数えるテンカウントを、息を殺して見入っていた。

奈緒のボクシングはめちゃかっこいい

ボクシングのシーンをこれほど力を入れて見たのは、テレビドラマではかつてなかったとおもう。

このボクシングシーンだけで、私にとって『あのクズを殴ってやりたいんだ』は忘れられないドラマとなった。

奈緒のボクシング、めちゃ、かっこいい。

本筋は恋愛ドラマ

ドラマは恋愛ストーリーだった。

火曜10時といえば、ラブストーリードラマの定番枠である。

今回も「クズ男を好きになりがち女性」ほこ美(奈緒)と、クズ男ぽい葛谷という名前の男(玉森裕太)の恋愛ドラマであった。

第1話冒頭、ドラマが始まったのは、ボクシングシーンだった。

ヒロインがダウンして、わたし何やってるんだろうとつぶやいているところで、結婚式シーンとなる。

結婚式当日に花婿に逃げられる花嫁

ヒロインの結婚式当日からドラマが始まったのだが、花婿が現れず、花嫁姿で街を走ることになる。

まあ、何年かに一度は見かける恋愛ドラマの定番シーンである。

ラブストーリーとしては、かなり定番の展開を見せていた。

脳震盪を起こしても再度立ち上がる

ただ、このドラマが違っていたのは、恋愛ドラマかつ、熱血スポーツものだったところである。

うまくカムフラージュしていたが、でも、熱血努力物語でもあった。

とちゅう、騙されたような形で、ヒロインは、実戦形式の練習(いわゆるスパーリング)で実力の違う相手に叩きのめされてしまう。

倒れて脳震盪を起こし、病院にかつぎこまれそのまま入院となる。

みんなは心配するが、それでも私は戦うと、彼女はリングに立つことを選ぶ。

まさに「熱血スポーツ」ドラマ

これはどう見ても「熱血スポーツもの」である。

彼女は市役所に勤めるふつうの社会人だったのだが、結婚失敗を機にボクシングを始めて、そこにのめりこんでいく。

まわりもその才能に気づく。まさにスポ根ものの展開である。

その視点から見て、とてもわくわくするドラマであった。

プロデビューの4回戦ガール

最終話は、プロデビュー戦が丁寧に描かれる。

プロデビューだから、4回戦ガールである。でも、有名選手の世界タイトルマッチのような仕立てで展開していて、わかりやすかった。

あんなにわかりやすく青コーナーの選手が青一色になり、赤コーナーの選手が赤で染めているというのは、後楽園ホールあたりでは見たことないのだが(ラウンドガールが歩くのもふだんの後楽園ホールでは見たことがない)まあ、そのへんはわかりやすく仕上げてあってご愛敬というところだろう。

試合は4ラウンドだけ。この試合を克明に描いて、見応えがあった。

ラブストーリーなボクシングドラマ

試合はどちらも顔面にどんどんヒットさせる壮絶な殴り合いの展開となる。

ここは大事なパンチという部分でスローになる。ボクシング素人にとっても、めちゃわかりやすい。

相手選手がおもいっきり顔を狙ってきたので、ヒロインはガードするが、顔には打ち込まず空いたボディに強い一発が入り、衝撃をうけてガードが落ちたところに、顔面にきれいに入れられてしまって、ヒロインはノックダウンする。

そのまま立ち上がらないかとおもったところで、大好きな葛谷くんが駆けつけてリングサイドから声を掛けるので、その声で跳ね起きる。

このあたりはラブストーリーなボクシングドラマとして、とてもいい。

睨みつける奈緒の表情のかっこよさ

第4ラウント、のこり30秒となって、このまま判定だと負けになると言われているとき、相手を睨みつける奈緒の表情が痺れるようにかっこいい。

最後は打ち合いになる。

ヒロインのパンチが相手の顔に入り、相手が反撃してくる。

アッパーカットが見事に入る

試合終盤、相手の左の決めのパンチがヒロインの顔にまっすぐ向かってきたのだが、ヒロインはその強烈なパンチを右手で止め、さらに相手が右のアッパーを繰り出してくるのを、また右手で叩き落とす。ここがかっちょいい。

この連続防御ワザに感心していると、さらに相手は左で顔面を狙って大きく振ってきたので頭を下げてかわし、態勢が崩れた相手の顎をめざして、主人公がフルスイングしたアッパーカットを放つ。

見事に顎に入る。

美しいシーンだった。

今年の全ドラマのなかでもっとも美しく殴るシーン

今年一年の全ドラマのなかで、もっとも美しく「人を殴り倒すシーン」だったとおもう。

パンチを決めたヒロインは何が起こったのかわからない無我夢中の表情をしている。

それもいい。

相手はダウン。

立ち上がれずにほこ美の勝利が決まる。

鮮烈で強烈なシーン

およそ10分足らずのボクシングシーンであったが(10分はけっこう長い)見応えがあった。

あまりに見事なシーンなので、このボクシングシーン、とくに最後にきれいに殴り上げるシーンを、もう15回くらい見直している。

見返したくなるのだ。みんな見返してないのだろうか。

鮮烈で強烈なシーンであった。

素敵な熱血ボクシング恋愛ドラマ

試合直後に、まだ勝ち名乗りも受けてないのに、ほこ美はクズ男と抱き合っていた。

まさに、熱血ボクシング恋愛ドラマであった。

ボクシングという部分に比重を置いてみるかぎり、とてもとても素敵なドラマである。

女性ボクシングドラマとして名作だったと言っていいだろう。

恋愛ドラマとしては、ハッピーエンドでよかった、というあたりになる。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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