活動に地域を巻き込む2つのポイント
本連載で、各地の「ビズ」発の中小企業のイノベーションに地域がどう関わったかについて紹介してきた。活動を地域に波及させていく時、あるいは地域を巻き込んでいく時に欠かせないスキルがある。12年にわたり運営した富士市産業支援センターf-Biz(エフビズ)で私自身がしていた事を振り返って見えてきたポイントがある。
1 地域の強みやニーズに関する情報を常に意識する
地域の人、企業、団体、商品、サービス、それぞれの特徴、強み、全てがイノベーションのリソースになる。それらの情報を最大限入手し、全て頭の中の「一番手前の引き出し」に入れ、常に情報同士をリンクできるようにしていた。
地元新聞は当然の事、折り込み広告や情報誌も全て目を通した。エフビズの初年度は想定の数倍の相談が寄せられ現場は大忙しだったが、それでもほぼ毎週のようにセミナーを企画・開催して一緒に挑戦しようと呼びかけ、地域の事業者にエフビズに意見交換に来てもらう機会を作った。また自分達から事業者や団体などに声をかけ、互いの取り組みを学びあう場を作ったり、協力をお願いしたりした。
ちなみに、隣町には地元では何の特別感もなかった焼きそばを、日本を代表するご当地グルメにしてしまった故・渡辺英彦さんがいた。彼には私のエフビズセンター着任が決まるとすぐに連絡をし、力をあわせて地域を盛り上げたいとお願いした。
渡辺さんが快く賛同してくれた事で生まれた成果は数えきれない。エフビズで支援していた酪農体験レジャー施設の再生に協力してもらおうと考えた時は狙いがいくつかあったが、彼が所属する地域活性化団体のメンバーも加勢してくれたので、牛乳を使った新商品が複数生まれたほか、今でも話題になるセンスの効いた石像を建てるなど度肝を抜かれた。
2 本質を捉える力と新たな価値を生み出す発想力
相談の中には、頼まれた通りに対応しなければならないケースもあるが、案件の本質をとらえ、新たな価値あるいは魅力につながる企画を積極的に提案していた。先に触れた「引き出し」に地域の情報が満たされてくると、相談を受けていないにもかかわらず、「こうしたらいいのに」とアイデアが浮かぶ。もちろん提案には根拠がある。いま社会で何が起こっていて何が求められているかを認識しているから「こういう企画はどうか」となるのだ。
2011年に六次産業化法が制定された時、一次産業の従事者にとって異分野に挑戦する大きなチャンスだった。しっかり売れる取り組みになるよう応援する企画を山ほど打ち出した。
その一つに、地域で根強い人気を誇るクレープ店から農家にクレープ作りの秘伝を伝授してもらうという企画があった。我々はクレープ店も農家も個別に支援していたが、それぞれに関する情報が私の中でリンクしたのだ。農家は美味しくて売れるクレープづくりをプロから学べて、クレープ店は地元の農家の新鮮な果物を仕入れ新商品を出す機会にもなる。この取り組みは多くのメディアで取り上げられ、この農家は今でもクレープを販売している。
全国どの地域にも、活かされるべきものが必ずある。地域発のイノベーションをこの先もう少し紹介していく。
【日経グローカル(日本経済新聞社刊)480号 2024年3月18日 P37 企業支援の新潮流 小出宗昭連載第12回より】