【熊本地震】災害復興学会と関西学院大学が政策提言~被災者生活再建支援法の拡充など求める
阪神・淡路大震災から受け継がれた叡智を熊本地震へ活かす
2016年5月16日、日本災害復興学会と関西学院大学災害復興制度研究所は、「平成28年熊本地震に関する共同提言」を発表しました。全17項目を以下に抜粋します。
第1 東日本大震災以降に改正された最新の法制度に基づく施策の確実な実行
1 基本理念規定(災対法2条の2第4、5、6号)に掲げる、人命の最優先保護、被災者の事情を踏まえた適切な援護、速やかな災害復興等の実施状況の点検及び改善
2 被災者の心身の健康・居住場所確保、災害時要配慮者への必要な措置、的確な情報提供、専門家等も活用した相談の実施(災対法8条2項第14、15、17号)
3 避難所の生活環境の整備(災対法86条の6)と避難所に避難していない在宅被災者等への適切な措置(災対法86条の7)
4 被災者台帳の導入と被災者援護等に向けた個人情報の利活用(災対法90条の3、4)
第2 東日本大震災と同等の施策の実現
1 被災ローン減免制度の徹底活用(個人向け)と、熊本地震事業者再生支援機構(事業者向けの債権買取・再建支援)の創設
2 被災マンション法、大規模災害借地借家法の適用
3 災害援護資金貸付の緩和措置(利息減免、保証人不要、免除要件緩和)の実施
4 義援金の差押禁止の立法措置
第3 過去の災害経験・教訓を踏まえ、被災地の現状に即した施策の実現
1 災害救助法の弾力的適用(特に住宅応急修理とみなしも含む応急仮設住宅の対応)
2 広域避難の実現と避難者への支援の確保(情報提供、個人情報共有、生活保障等)
3 生活保護制度と被災者支援制度の間の調整(義援金等の収入認定の誤り等の是正)
4 関連死の防止に向けた必要かつ最大限の措置と、各市町村における認定と審査の実施、発生事例の丁寧な把握・分析
5 災害弔慰金・見舞金の仕組みの見直し(「主たる生計維持者」基準の見直し等)
6 被災者生活再建支援制度の拡充と、住宅再建にとどまらない生活再建の支援
7 地盤被害の補修に対する十分な公的補助8 自治体による独自施策の実施を促進(熊本県と大分県の支援格差の是正等)
9 被災地の自由裁量を保障した民間財団方式による「復興基金」の早期設置
まずは既存の法制度を徹底活用することから
生活再建や災害復興支援のためには、「過去の教訓を素早く実行する」「既存の制度を使いこなす」ことが大切になります。なかでも、「災害救助法の柔軟かつ徹底的な活用」は重要です。
提言は、「いわゆる『一般基準』に固執することなく災害救助法を弾力的に適用していくことを求めます。特に、居住場所の確保については、これまでに採用されてきた「特別基準」を設定するとともに、被災地・被災者のニーズに応じてあらたな「特別基準」の設定を検討して下さい」と述べています。災害救助法では、災害救助主体である県が行う措置が列挙されています。「告示」(災害救助法による救助の程度、方法及び期間並びに実費弁償の基準)によって最低基準が示されています。避難所を1日1人当たりいくらで運営する、食費はいくらである、などです。これを「一般基準」と呼んでいます。ところが、要介護者・障害者への支援、風呂や外部施設利用などの生活環境改善、一次的な宿泊施設などへの退避、バリアフリー対応などをしようとすれば、一般基準を上回り、予算に不安が生じます。そこで、県と国が協議することで、金額などの上乗せの基準を作ることができるようになっています。これを「特別基準」と呼んでいます。
ホテルや宿泊施設の利用を促したり、公営住宅に早期の段階で一時入居を認めたり、といった対応は、避難所の指定の態様としてマニュアルにも記述されています。ところが、民間施設を利用した場合は、その対価を支払う必要が生じ、結局、定められた「一般基準」の費用を超えてしまうのです。そこで、金額を上乗せする「特別基準」を作ることが求められます。今回も、国と県の内部協議の中で、措置されているように聞いています。今後は、法運用を外部からチェックできるよう、通知・事務連絡などで公表されるべきと思われます。これは、中長期では、次の災害へのナレッジの集積にもなり、災害に備える自治体にとっては「防災・危機管理」となります。
関西大学の山崎栄一教授は、今回の提言に策定にあたり、「災害救助法の運用については、従来の『一般基準』『実現済の特別基準』を超えきれないという制度上の壁がある一方、未だに十分な食事や生活環境を供給しきれていない状況を見ると、別の阻害要因が存在しているといわざるを得ない。今回の災害は後者の存在を強烈に感じる。その阻害要因にメスを入れないと、同じような事態が何度も繰り返されるだけである。まさに、法制度がうまく機能しない原因として、それが制度上の壁によるモノか、別の阻害要因によるモノかを分けながら調査・分析をしていく必要がある。』と述べています。
少なくとも、従来の「特別基準」の水準については、過去の通知(例えば厚生労働省の東日本大震災のページ)を改めて発出するなど、国が速やかにリーダーシップを発揮することが望まれます。
「半壊」「一部損壊」という支援の狭間への対応
「り災証明書」という制度があります。東日本大震災を受け、2013年の災害対策基本法改正によって、自治体に発行義務があります。り災証明書の機能の一つは、住家被害について「全壊」「大規模半壊」「半壊」「一部損壊」などを証明することにあります。この被害の程度によって公的支援や義援金の配分が決定されます。また、り災証明書などが添付書類となり、公共料金の減免措置なども受けることができる場合があります(もちろん、り災証明書の発行を待たずして支援できるものも多くあります)。
特に「被災者生活再建支援金」は、「り災証明書」の判定によって金額が決まります。概要は以下の通りです(内閣府資料より抜粋)。
つまり、住家が「半壊」以下の場合には、被災者生活再建支援金は支給されません。最初に使途制限なくして給付される「基礎支援金」もありませんし、再建時に追加支給される「加算支援金」もありません。
熊本地震後、被災者生活再建支援法やり災証明書についてメディアで解説をする機会をいただきましたが、「半壊」以下の被害に、公的給付がほとんどないことについて、一時スタジオが静まってしまう反応があったことを覚えています。現地取材のニュース映像でも、被災された方が、もし、「一部損壊」という判定なら、事実上家にも住めないのに、支援も得られないと、将来への不安を述べられていたことも忘れられません。
5月16日時点の住宅被害状況は、全壊「2,848棟」、半壊「5,333棟」、一部損壊「33,726棟」です(内閣府防災担当のページより)。現状では公的支援がほとんど受けられないと見込まれる「半壊」未満の件数が膨大です。確かに、どこかで線引きをする必要性があるとも考えられます。(1)しかし、今回の地震では、盛土した宅地が被害を受け地盤が緩んでいるものの、家屋自体に損傷がなくどのような判定になるか分からない、(2)大きな地震が群発していることで帰宅が躊躇される、などの事態が起きています。「半壊」や「一部損壊」認定であっても、「自宅に住むことができない」ことに変わりはありません。何らかの手当は不可欠だと思われます。引越し代さえあれば危険な住宅から退去したいが、その資金もないという声もあるようです。
提言は、「被災状況に応じた支援金の増額を検討し、半壊・一部損壊世帯にも支給されるように支給の範囲を拡大するとともに、住宅再建にとどまらず、収入減世帯に対する所得・収入保障など生活再建の支援に対しても支援金が支給されるよう求めます」としています。「半壊」「一部損壊」への一定の支援は、極めて広範囲の地震被害が起きた災害では、被災者が次のステップを踏むきっかけになる効果的な施策ではないかと考えらえます。
復興基金による柔軟なスキーム構築を
兵庫県弁護士会の津久井進弁護士は、今回の提言に関与し、「災害から立ち直る生活再建のあり方は『人間の復興』つまり、一人ひとりの被災者の個々の状況に応じた支援が基本となるべきだ。なぜなら、同じ自然災害であっても、被害の現れ方は人によってそれぞれ異なるからだ。既に数多くの支援制度があるが、それらの統一した基準作りに腐心していた従来の姿勢を改め、むしろ一人ひとりの状況に応じて適切に組み合わせたパーソナルサポートこそが求められる」としています。そして「地域のコミュニティにも配意した柔軟な支援が欠かせない。公平性や統一性が強く求められる行政による支援では、ニーズに応えられない。そこで、自由裁量を持った『復興基金』が必要となる」と続けます。
今回の17項目の提言は、「雲仙普賢岳災害以降、大きな災害が起きた場合、『復興基金』を創設し、被災地の災害復興に役立てております。熊本地震においては、被災地の自由裁量を保障した『民間財団方式』による復興基金を早期に創設することを求めます。」との提言で締め括られています。官民の垣根を超えた、柔軟な資金が、現場のアイディアを活かし、効果的な支援と復興を加速するものと考えられます。
(参考情報)