被災者無料法律相談の期間を延長する法改正を~能登半島地震から1年の期限迫る #災害に備える
令和6年能登半島地震と法律家の役割
2024年1月1日におきた能登半島地震は、災害関連死を含む死者が400名超、全半壊住家が約3万棟に及び、東日本大震災以降最大級の被害となっています。災害直後から、公費解体に関連する相続未登記不動産や隣家所有者の同意取得等に関する相談、罹災証明書の発行や住家被害認定結果についての相談、建物や塀の倒壊による隣家への被害についての相談、災害関連死に関する相談、個人のローンが支払えなくなった場合に利用できる自然災害債務整理ガイドラインに関する相談等、生活再建に関するあらゆるリーガル・ニーズに弁護士らが相談対応してきました。その相談件数は1000件を優に超え、なお高いニーズが維持されています。
特定非常災害による無料法律相談は1年限定
能登半島地震は、史上8度目となる「特定非常災害」に指定され、これに連動して、総合法律支援法の規定により「令和6年能登半島地震による災害についての総合法律支援法第30条第1項第4号の規定による指定等に関する政令」がつくられ、日本司法支援センター(法テラス)が、被災者を対象とした、資力不問での無料法律相談事業を実施しています(「令和6年能登半島地震が8例目の特定非常災害指定 行政手続や相続放棄の期限延長や半壊住宅の公費解体も」参照)。この総合法律支援法による無料相談の期間設定は1年が上限になっています(法第30条第1項第4号)。能登半島地震では、上限いっぱい設定され、現行法では2024年12月31日までとなります。
複合災害の発生と復旧・復興の長期化
能登半島地震では、その地理的特性や高齢化率の高さ等も相まって、未だ公共インフラ復旧のままならない地域も多く、住家の公費解体も実施できていない被災者が多数残っています。復旧・復興事業に想像以上に時間がかかっていることはだれの目にも明らかです。加えて、2024年9月には奥能登地方を中心とした豪雨災害が発生し、仮設住宅の浸水や重畳的な土砂崩れが多数発生しました。1月1日の地震の影響が残っており、能登半島地震と能登豪雨との複合災害となってしまったのです。
そのような中で、これから住宅の再建に進む被災者にとっては、法律家のサポートはまだまだ欠かせません。すこしでもリーガル・アクセスのハードルを下げるためには、せめて無料法律相談の期間を延長することが求められます。それには、総合法律支援法第30条第1第4号で定められている上限「1年」を柔軟に延長できる法改正(あるいは特別措置法等による対応)が必要です。
日本弁護士連合会(日弁連)は、2024年10月22日付で「総合法律支援法における被災者法律相談援助に関する実施期間の改正等を求める意見書」を公表し、総合法律支援法の「第30条第1項第4号を改正し、日本司法支援センターによる同号の法律相談の実施期間の上限を、現在の1年から少なくとも2年に伸長するとともに、実施期間が上限に達した場合でも、政府の決定により、2年を超えて延長することができるようにすべきである」と法改正の提言をしています。また、各地の都道府県弁護士会も同趣旨の意見書を相次いで公表しています。
東日本大震災では約10年間の無料法律相談措置が実現
2011年3月11日の東日本大震災では、まだ総合法律支援法に被災者無料法律相談の規定がありませんでした。2012年3月に「東日本大震災の被災者に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律」(震災特例法)が超党派全会一致の議員立法にて制定され、被災者であれば、資力を問わず法テラスによる無料法律相談、裁判手続の代理援助等、裁判外紛争解決手続(ADR)や行政不服申立手続等の代理援助などを受けられるという幅広い支援を実現しました。当初は3年間の時限措置でしたが、法律相談等のリーガル・ニーズは極めて高く、複数回の延長の法改正をして、2021年3月31日まで無料法律相談等の期間が続きました。とくに、公営住宅入居や住宅再建までに数年以上の長期間を要する地域が多かったことが延長の決め手になったと分析されています。
能登半島地震は、その復旧・復興の過程をみるに、未だ恒久的な住宅再建へと至っていない被災者が多数です。東日本大震災のように、お金や住まい等に関する長期のリーガル・ニーズ発生が予想されます。少なくとも、2024年12月31日までになっている無料法律相談期間は延長されるべきです。また、東日本大震災のように、裁判外紛争解決手続(ADR)を含む代理援助等もできるよう、援助の範囲を無料法律相談以外へ拡大することも求められます。
令和6年9月能登豪雨を特定非常災害に
法律家のみならず、各方面から提言されているのは、令和6年9月21日発生の能登豪雨を「特定非常災害」に指定すべきであるという意見です。豪雨による800件を超える仮設住宅浸水被害、土砂災害、インフラ復旧状況、能登豪雨前の段階でも公費解体完了が早くとも2025年の秋以降になること等を考えると、能登豪雨災害の特定非常災害指定も合理的なように思えます。
日弁連は、2024年11月13日付で「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律等の適用に関する申入書」を公表し、能登豪雨を特定非常災害とするよう国へ提言しています。特定非常災害になれば、連動して総合法律支援法に基づく無料法律相談事業の規定を発動し、最大で2025年9月まで無料法律相談事業を実施できます。これにより、能登半島地震の被災者も複合災害被災者として延長の恩恵を受けられます。ただ、これは今回だけの偶然であり、根本的な対応にはなりません。総合法律支援法自体の改正に踏み切り、来るべき巨大災害へ備えることが望まれます。
参考文献
内閣府「特定非常災害特別措置法」
日本司法支援センター「令和6年能登半島地震支援」
岡本正「被災したあなたを助けるお金とくらしの話 増補版」弘文堂
岡本正「災害復興法学」慶應義塾大学出版会
岡本正「災害復興法学Ⅱ」慶應義塾大学出版会
岡本正「災害復興法学Ⅲ」慶應義塾大学出版会