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JR石勝線寸断で心配される物流問題 ネット上で騒がれる釧網本線迂回論は暴論だ

鉄道乗蔵鉄道ライター
豪雨被害を受けたJR石勝線(写真:JR北海道公開資料より引用)

 2024年8月31日、JR北海道の石勝線が豪雨災害により運休となった。理由は川端ー新夕張間の線路内に土砂が流入したというものだ。石勝線は、札幌と十勝・釧路地方を結ぶ幹線ルートで、この路線には、札幌ー帯広間を結ぶ特急とかち号と札幌ー釧路間を結ぶ特急おおぞら号のほか、貨物列車も運行されている。特に貨物列車は、十勝地方で生産される農産物を本州方面に出荷するための重要な役割を果たしている。

錯綜する運行再開の見通し

 運行再開の見通しについては、北海道新聞では「9月2日にも復旧」と報道された一方で、筆者が先ほど札幌駅の掲示板を確認したところ「少なくとも9月2まで運休」とあり情報が錯綜している様子である。改めて各社の報道内容を確認したところNHKの報道では「作業に危険が伴うことから、現場の線路の状況や土砂の流入状況の確認をまだ行えないことから、1日に状況を把握した上で復旧作業を進める」とされていた。

 災害で鉄路が寸断される度に話題となるのが、貨物列車の迂回ルート確保の必要性だ。JR北海道と北海道庁は2024年3月31日をもって根室本線新得ー富良野間を廃止してしまった。これにより、十勝・釧路方面から札幌方面に向かう路線は石勝線ルートのみとなってしまい、石勝線の寸断が即、十勝・釧路方面から札幌・本州方面への鉄道の寸断につながる事態となっている。

ネット上の釧網本線迂回論は暴論!?

 こうした話をすると、ネット上では釧路ー網走間を結ぶ釧網本線を迂回すればよいと指摘をされる方が必ずいるが、釧路・網走回りでは距離が遠くなり過ぎてしまい迂回路としては非現実的だ。例えば、帯広ー札幌間は石勝線経由では220.2kmだが、釧網本線で釧路・網走を迂回するとその距離は671.9kmとなりおよそ3倍に伸びる。これが、廃止された新得ー富良野経由であれば帯広ー札幌間は263.6kmとなり、距離は1.2倍程度で済む。

 廃止された新得ー富良野間については、2016年の豪雨災害で東鹿越ー新得間が寸断されたままの状態となり最後まで復旧されることがなかったことや1997年以降貨物列車の運行がなかったことから、「そもそも無くても問題ない路線だった」と主張される方がいる。

 しかし、これはJR北海道と北海道庁が復旧を放置し、なくても困らないという既成事実を積み上げた結果であり、日頃からの利用促進活動や貨物列車迂回の訓練運転などを行っておけば、「なくても問題ない路線」という意見は生まれにくくなることから、JR北海道の経営姿勢や北海道庁の政策姿勢の問題の結果とみることもできる。

 例えば、新潟県のえちごトキめき鉄道はねうまライン(直江津―妙高高原間)と長野県のしなの鉄道北しなの線(妙高高原―長野間)では、首都圏や名古屋方面から長野方面への貨物列車のメインルートとなっている中央本線が被災した時に備えて、貨物列車の迂回運転ができるように整備がされている。これは、自然災害や大火災、テロ攻撃などの緊急事態に備えて被害を最小限にとどめておくためのBCP(事業継続計画)や、国家のリスク分散の観点からも必要な備えであるという。

 一部では貧弱な鉄道輸送ではなく、全面的に船舶輸送に切り替えるべきと主張される方もおられるが、船舶輸送のみであった青函トンネル開通前の北海道物流は、天候に左右されやすく安定性を欠いていたことから、より安定性な物流ルートを確保する目的で津軽海峡に海底トンネルが掘られた歴史的経緯がある。

国家リスク分散の視点が重要

 北海道の十勝・釧路地方は日本の食料生産基地であることから、この地方と札幌や本州方面を結ぶ鉄道路線の多重化についても、日本の食料安全保障上の国家リスク分散の観点から必要な備えと言える。「なくても問題なかった」や「そもそも貨物列車が運行されていなかった」という近視眼的な視点ではなく、国家リスク分散の観点から必要な鉄道インフラを整備するという視点が重要なのである。

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。ステッカーやTシャツなど鉄道乗蔵グッズを作りました。

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