「切り身の魚が泳ぐ」世界で僕は鶏をさばく
「桃のタネよりスイカのタネの方が大きいんだよね」
子どもたちが食べ物の「元の姿」を知らない、という話は10年以上前から耳にしてきた。
魚が切り身のまま海を泳いでいると思っている。
桃のタネよりスイカのタネの方が大きいと思っている(スイカの方が果実が大きいから)。
ピーナツは木にぶら下がっていると思っている。
などなど。
筆者は青年海外協力隊として赴任する前、長野県の駒ヶ根訓練所で3ヶ月近くを過ごし、その際、野外訓練の一環として、生きているニワトリをさばく訓練を受けた。協力隊の候補生は当時200人以上いた。1桁ずつのグループに分かれ、1グループにつき、生きているニワトリ1羽ずつがあてがわれた。強烈に記憶している。帰国してから訓練所の体験談をするシーンは何度もあるが、必ず「ニワトリをさばく訓練」の話はしている。
2017年10月18日付の岩手日報には、岩手県内の小学校3・4年生14人が農場と工場を訪れ、ひよこからニワトリになるまでの過程を学び、鶏の解体を学んだ記事が掲載されている。3年生の男子が
と感想を語っている。
動物の解体ワークショップを定期開催する慶應義塾大学生
慶應義塾大学 環境情報学部 環境情報学科の菅田悠介(すがた・ゆうすけ)さんと初めて会ったのは、2016年5月。私は農林水産省の食品ロスの担当部門の室長とともに、文京区と文京学院大学が共同で開催する文京ecoカレッジ『リサイクル推進サポーター養成講座 今日から実践!2R』(平成28年度)で、「フードロス(食品ロス)削減対策について」について講演する講師として、文京学院大学へ来ていた。
そこへ、浴衣のような着物のような服を着た、若い男性が参加者として登場した。誰だろう。後でご挨拶したところ、慶応義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)の2年生だという。人と違う行動をしたり意見を言ったりする人は一目置くので、面白い人だなあと思って拝見していた。
そうしたら、今年になって「将来も食料廃棄の仕事をしたいと思っているので、井出さんの会社でインターンできるか気になったので連絡しました」と連絡があった。そこで、菅田さんの活動について教えて頂くことにした。
彼は、食べ物がどんなふうにできているのか、その背景や、そこに込められた思いを理解しない人が増えたことで、安易に食べ残しをする人が増えた(食品ロスが増えた)と考えている。そこで狩猟を学び、猟師になった。動物が食べ物へと加工される過程を目にすることで、食への関心が高まり、考える機会が増え、食べ残しが減るのではないかと考え、定期的に動物解体ワークショップを開催している。
2018年3月24日・25日に、鶏の解体ワークショップを開催したという。その様子を教えていただいた。次のような流れで行なわれた。
以上
菅田さんによれば、今回の解体ワークショップを通して「食品ロスが減ることに寄与する」実感が得られたと語る。解体したニワトリを食べる時、参加者が意識して最後まで食べ切ろうとしていたことが印象に残ったのだそうだ。参加者が、普段は無意識に食べている「日常」が、解体という「非日常」と出逢い、食について言語化しようと考えている様子が見られるという。たとえば、スーパーの精肉コーナーや焼き鳥屋へ行った時、綺麗に、まるで「モノ」のようにパッケージングされていることに驚き、どの部位にいくらの命が費やされているかまで、思いを巡らせるようになり、価値観が変わった、と、参加者が語るのだそうだ。
普段は、コンビニで、すでに揚げてあるニワトリ(フライドチキン)を100円で買えるかも知れない。でも実際、解体をしてみると、本当に大変だ。生きているニワトリを捕まえて、首をひねる。ここで、もう、「可哀想・・・」という感情が芽生える。首を切って血抜きし、お湯につけ、毛を抜き、細かな毛を炙ってむしり取り、腱を切り、骨を折り、皮を切って、部位ごとに分けていく。調理して、ようやく、食べられる。時間と手間がものすごくかかる。
菅田さんは、「当たり前や常識について疑ってみることが大事」だと語る。普段、何気なく食べている食べ物や、目にしているもの。それを一度疑ってみること。驚きを感じること。
普段食べているものが、どこから来ているのか。いただいている命の”もと”を知ること、たどることは、食への感謝に繋がり、食べ物を残さない、捨てないことに繋がるのではないだろうか。