服部半蔵が大鼠にプロポーズしたわけがないという、当然の理由
今回の「どうする家康」では、服部半蔵が大鼠にプロポーズしていた。むろん、これはフィクションであり、あり得ないわけだが、その辺りの事情を考えてみよう。
改めて、ドラマの場面を振り返ってみよう。松本まりかさんが演じる大鼠は怪我をしてしまったが、武器を使用するトレーニングを行っていた。しかし、利き手と思われる右手を怪我したので、うまく武器を使いこなせず、いらだちを隠せない。
それでも大鼠は、山田孝之さんが演じる服部半蔵に対して、仕事が欲しいと申し出る。ところが、半蔵は仕事はしなくてもいいだろうと述べたうえで、自分の依頼した仕事で大鼠が怪我をしたことを詫びた。
同時に半蔵は、大鼠に「もらってくれる男もいないだろうから」と言いながら、一輪の黄色い花を差し出した。その前に半蔵は、誰かの飯を炊いて、着物を洗い・・・などと言っていたので、明らかなプロポーズである。
半蔵が言うには、女の幸せとは男にかわいがってもらうことだった。ところが、大鼠は黄色い花をいきなり食べると、「殺すぞ」と半蔵に言ったので、大変驚いてしまう。こうして半蔵は、大鼠に瀬名が武田と密通しているという情報集めを依頼した。
これが事実かと言えば、明らかなフィクションである。半蔵は徳川家康配下の忍者の頭目のように思われているが、実際はそうではなく旗本だった。また、「くノ一」と称される、大鼠のような女性忍者はいなかったと指摘されている。
半蔵の妻は、家康の家臣だった長坂信政の娘だったと言われている。ただ残念なことに、信政の生涯については不明な点が多い。ましてや、その娘に関する史料は、ほとんど残っていないのが現状である。
半蔵の子・正就が誕生したのは、天正4年(1576)のことである。半蔵が結婚した時期は、おそらく天正3年以前に遡ると考えられる(誕生月によっては天正4年の可能性もある)。
半蔵と架空の人物と思われる大鼠のやり取りは、ドラマのちょっとしたスパイスのようなものだろう。ただし、半蔵は松平信康事件で重要な役回りを演じるので、その活躍を大いに期待しよう。