今まで見たノルウェー映画で最高点『テルマ』
これまでのノルウェー映画とは大きく異なる作品が登場した。ヨアキム・トリアー(Joachim Trier)監督による新作映画『テルマ』(Thelma)。9月15日にノルウェーで公開を迎えた。現地メディアからは高評価を受けている話題の作品だ。
今まで数々の北欧映画を見てきたが、『テルマ』はそのどれとも異なっていた。筆者個人的には、最もおすすめのノルウェー映画だ。
主人公は、宗教を重んじる過保護な両親から離れて、首都オスロで暮らし始めた女子大生テルマ。女友達であるアーニャに惹かれ始めてから、周囲で次々と奇怪な現象が起こる。
「スリラー映画」、「ホラー的な要素もある」とされているが、「怖い」という以前に、考えさせられることがたくさん詰まっている。
筆者はホラー映画は怖くて見ることができないタイプなのだが、この映画は大丈夫だった。鑑賞後も「あれはどういう意味だったんだろう」と黙々と考えてしまったのだが、それが楽しかった。
ノルウェー映画といえば、現代社会の課題や人間関係を扱うものが多い。『テルマ』はこれまでとは違う形で、同性愛、宗教、親と子の関係、復讐などのテーマを含んでいた。これまでのノルウェー映画のイメージと『テルマ』は、どこか違った。
オスロ大学やノルウェーの自然が舞台として何度も登場し、オペラハウスなどの人気の観光スポットも出てくる。
9月末は、オスロ・イノベーションウィークとオスロでの国際映画祭Oslo Pix の計らいで、監督を交えて映画が上映された。
上映前に、トリアー監督は、「連続する強い光の反射と、ヘビが苦手な人は注意してください。ドキドキするシーンがあるので、隣の人と手をつないで見るのもいいかもしれません」と話す。
一時期、監督は新しい映画のアイデアが湧かず、オスロに戻り、数週間くだらないホラー映画などを何本も見たという。その体験が、父と娘の変な関係や「怒り」をテーマとした今作品につながった。
「みんなに『何か』を見せたかった。答えのある映画には興味ない」。
謎が残るストーリーのため、鑑賞後に「きっとこうなのだろう!」と興奮して話しかけてくる人が多いそうだ。そのことが嬉しいと、監督はトークショーで話した。
トークショー後に監督と話した際、すでに日本でも上映が決定しており、日本でどのような評価を受けるか楽しみだと笑顔で語っていた。
※トリアー監督による『オスロ、8月31日』も、ノルウェー社会の一面が描かれており、おすすめだ。
Text: Asaki Abumi