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オスカーに輝けば、悲願の100億円に達する?「君たちはどう生きるか」【アカデミー賞の秘かな愉しみ】

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(C)2023 Studio Ghibli

宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』が、間もなく(日本時間・3月11日)開催される、映画界最大の祭典、アカデミー賞で受賞するかどうか期待が高まっている。

長編アニメーション賞にノミネートされている同作だが、受賞の確率はかなり高い。ライバルは『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』で、この2作は接戦が予想されている。『君たちは』が受賞を果たせば、宮崎監督にとって2003年の『千と千尋の神隠し』以来、21年ぶりのアカデミー賞長編アニメーション賞で、2014年の名誉賞(日本人では黒澤明監督に次ぐ2人目)も入れれば3つ目のオスカーとなる。ノミネート自体は今回が4度目で、『ハウルの動く城』と『風立ちぬ』はノミネート止まり。受賞に至らなかった。

2014年のガバナーズ・アワードでアカデミー賞名誉賞を受け取った宮崎駿監督
2014年のガバナーズ・アワードでアカデミー賞名誉賞を受け取った宮崎駿監督写真:ロイター/アフロ

アカデミー賞受賞は、イコール世界的な栄誉ではあるが、今回の『君たちは』の受賞には、もうひとつの期待がかけられている。それは日本での興行収入100億円の大台乗せだ。宮崎駿作品の『君たちは』以前の日本での興収推移は次のようになっている。

1989年『魔女の宅急便』43億円(推定)

1992年『紅の豚』54億円

1997年『もののけ姫』201.8億円

2001年『千と千尋の神隠し』316.8億円

2004年『ハウルの動く城』196億円

2008年『崖の上のポニョ』155億円

2013年『風立ちぬ』 120.2億円

『もののけ姫』以降は、すべて3ケタの億の数字を記録している。日本における他作の数字を考えれば異例の好稼働。年間で興収100億円を超える映画は、だいたい2〜4作品というパターンが常だからだ。監督の名前で100億円突破が視野に入るのは、現在、宮崎駿と新海誠くらいだろう。

たしかに前作『風立ちぬ』あたりで数字の下降が顕著になったとはいえ、『君たちは』は一時、宮崎駿の引退作品などと言われたことで、最後の花道として100億円以上の興収を、多くの人が信じていたのも事実。しかし前情報を一切流さない宣伝戦略や、公開されても日本国内では過去の作品と比べても賛否両論だったことで、思いのほか動員が伸びなかった。2/27現在、興行収入は89.2億円。それでも一本の映画として考えれば、異常に高い数字ではあるが……。

しかし、アカデミー賞受賞が100億円の追い風になる可能性はある。『君たちは』は2023年の7月公開で、そこから数週の数字から最終的には70〜80億円の着地が予想されていた。しかし年末に近くなるとアメリカなど海外での大ヒットや高評価、さらに受賞が続いたことで、日本でも息の長い興行が継続。2/27現在も、東京都23区だけで、TOHOシネマズ新宿や日比谷、新宿バルト9、グランドシネマサンシャイン池袋など15ヶ所のシネコンで『君たちは』が上映されている(1日1回だが)。つまり今もじわじわと興行収入が加算されており、90億円突破は確実だ。

この「じわじわ状態」が3月11日のアカデミー賞まで続き、もし受賞となったら、再びメディアで大きく取り上げられ、映画館での集客に期待がかけられる。かつてに比べ近年は、アカデミー賞受賞による日本でのヒットの効果は小さくなっているものの、受賞に備えて『君たちは』には何か大きな宣伝戦略が考えられているはず。何もしなくても受賞すれば興収95億円くらい行くだろうが、どうせなら勢いをつけて100億円に乗せたいはずだからだ。しかし、あと10億円の壁はかなり高いのも事実。近年の100億円超えの他作に比べ、本作に関してはリピーターもそれほど多くないという印象。何とか時間をかけてでも100億円到達してほしい。

では、本当に受賞なるのか? 前述したとおり、今年のアカデミー賞長編アニメーション賞が2強の争いなのは、前哨戦の結果からも歴然だ。

ゴールデングローブ賞:君たちはどう生きるか

放送映画批評家協会賞:スパイダーマン

アニー賞:スパイダーマン

英国アカデミー賞:君たちはどう生きるか

全米製作者連盟賞(PGA):スパイダーマン

と、やや『スパイダーマン』がリード。このうちアニー賞と英国アカデミー賞、PGAは、米アカデミー賞と投票者も重なっており、その3つでも『スパイダーマン』が優勢だが、拮抗してはいる。

ただしアカデミー賞でもポイントになるのが投票者の「心理」。宮崎駿は『君たちは』の完成後、引退を撤回したものの、次回作の公開が正式にアナウンスされたわけではない。もしかしたら本当にこれが最後の作品になるかもしれない。また、『スパイダーマン〜』は3部作の2作目で、しっかりした結末が訪れない作品。しかも1作目がすでにアカデミー賞を受賞している。そう考えれば、『君たちは』の逆転も予想可能である。

最後に、もうひとつ気になるのは、アカデミー賞授賞式に誰が出席するのか……だが、プロデューサーか、それとも? 

悲願の興行収入100億円突破も含め、授賞式当日、およびその後の動向まで、『君たちはどう生きるか』が多くの話題を提供してくれるのは間違いなさそうだ。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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