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元コンサドーレ札幌GKク・ソンユンの大邱FC移籍の本当の理由 札幌に戻る可能性はあるのか?

金明昱スポーツライター
大邱FCに移籍した元コンサドーレ札幌のGKク・ソンユン(写真:田村翔/アフロスポーツ)

 コンサドーレ札幌は5月29日にGKク・ソンユンが大邱FCへ完全移籍することを発表した。

 2013年からセレッソ大阪でプレーしたが、正GKのキム・ジンヒョンがいたため、在籍した2シーズンは公式戦に出場できなかった。

 15年から札幌へ移籍してレギュラーの座をつかみ取ると16年にはJ1昇格に貢献。昨年はルヴァンカップ決勝進出を果たして、チームに欠かせない守護神として君臨した。

 J1、J2合わせて167試合に出場。16年にはリオ五輪にも出場し、19年は韓国代表としてAマッチにも2試合出場している。

 ク・ソンユンはチームを離れる前に「今シーズン、頑張って皆さんと一緒に戦って、チームの目標であるACLやリーグタイトルを目指して頑張りたかったのですが、自分には国の義務があります。早く戻ってきたいという思いがあり、予定より早く帰国することに決めました。韓国のチームでは、人間として選手としてもっと成長して、いつかまた札幌に戻ってきてプレーして、皆さんと熱い試合をしたいです」とファンに向けてメッセージを残した。

 大邱FCへの移籍の理由は、「国の義務」である兵役が関係しているという。それに、いつか札幌に戻ってきたいとも語っている。

 実際のところはどうなのだろうか。

軍隊チームに入るための韓国行き

 ク・ソンユンは大邱FC入団後のインタビューで「大邱のホームスタジアムの熱い雰囲気の中でサッカーするチームに来ることができて、とても楽しみです。Kリーグでプレーするのは初めてなので、新人の気持ちで来ました。リーグ優勝のために全力でプレーしたい」と、チームの勝利に貢献すると誓っている。

 そんな中、現地報道からは、ク・ソンユンが韓国行きをこのタイミングで決めたいくつかの理由が見えてきた。

 やはり大きな理由は、日本でも報じられたように、“軍の入隊”が差し迫っていることだ。

 大邱FC移籍を報じた韓国のスポーツ・芸能総合ニュースサイト「OSEN」のウ・チュンウォン記者に話を聞いた。

「ク・ソンユンは軍隊に行かなければならないので、入隊後もサッカーを続けるには、Kリーグ1部の国軍体育部隊(軍隊チーム)の尚武(サンム)に所属する必要があります。尚武に入団するには、規定上、国内チームに所属する必要があるのです」

 韓国では、成人男性に兵役の義務が課せられ、満20歳~28歳の誕生日までに入隊しなくてはならない。ク・ソンユンは今年で満26歳なので、期限が迫っていた。

 一方で、今夏開催予定だった東京五輪にク・ソンユンをオーバーエイジ枠で出場させる可能性があったことも報じられていた。

 もし、五輪代表に選出され、銅メダル以上であれば兵役免除の恩恵を受けることもできたが、一年延期でそれは難しくなった。

状況次第で日本に戻る可能性はあるが…

 そこでどこか入れるKリーグチームを探していた、というわけだ。大邱FCに決まったのは、昨年まで同クラブの正GKチョ・ヒョヌ(蔚山現代)の空白を埋められるという意味合いも大きい。

 ロシアW杯にも出場したチョ・ヒョヌの抜けた穴の補強として、大邱はク・ソンユンに「積極的に声を掛けていた」という。

「国内クラブで最低6カ月プレーしなければ、軍隊チームの尚武に入れないので、両者のタイミングも合ったと思います。今シーズンは大邱に所属して、来シーズンからは尚武でプレーすることになるでしょう」(ウ・チュンウォン記者)

 そうなると札幌への復帰は、現実的にどうか。

 兵役期間は短くて18カ月(1年半)。ク・ソンユンは今季は大邱、来季は尚武で過ごすことになれば、2シーズンは韓国でプレーすることになる。

 2年という歳月で、状況は大きく変わっているし、日本行きもそう簡単なことではないだろう。

 ただ、間違いないのは、ク・ソンユンが札幌にとても愛着を持っているということだ。

 ウ・チュンウォン記者はこう語る。

「彼はとても落ち着いた性格で、札幌のファンもすごく多いと聞いています。本人も軍を除隊後、(札幌に)戻りたい気持ちはあるようです。ただ、今はどうなるか分からないというのが正直なところでしょう」

 除隊後の状況次第では、日本行きの可能性もまだ残されているということだ。

 日本でク・ソンユンの姿を見られないのは残念だが、韓国ではすぐに確認できそうだ。Kリーグ選手の追加登録は6月25日から可能となり、早ければ27日の江原(カンウォン)FC戦に出場する可能性がある。

 惜しまれつつ日本を離れたク・ソンユン。Jリーグで成長した姿を次は母国のファンに見せる時だ。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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