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【スーパーフォーミュラ】GP2王者、ピエール・ガスリーも参戦!今年も見所満載のシーズンに。

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
レッドブルカラーで参戦するピエール・ガスリー【写真:本田技研工業】

2017年の「スーパーフォーミュラ(全日本スーパーフォーミュラ選手権)」にホンダの「TEAM無限」から、2016年GP2王者のピエール・ガスリーが参戦することになった。2月に入り、エンジンを供給するトヨタ、ホンダから発表された今季のドライバー布陣。トヨタの未発表の1枠を除いて、大方のラインナップが出揃い、新たなシーズン開幕に向けた国内トップフォーミュラへの期待が高まっている。

ホンダから今年も新たなGP2王者が参戦!

2016年の「スーパーフォーミュラ」は国内トップフォーミュラ史上稀に見る激戦が展開されたシーズンだった。混戦模様の立役者となったのは、ホンダエンジンユーザーのストフェル・バンドーン(2015年GP2王者)、そしてトヨタエンジンユーザーの関口雄飛(せきぐち・ゆうひ)のルーキー2人。タイヤが横浜ゴムの一括供給に変更になり、勢力図に確変が起きてルーキーたちが躍進。レース毎にトップを走るドライバーが変わる、誰にも予想がつかない面白いシーズンだったといえよう。

スーパーフォーミュラ
スーパーフォーミュラ

今や中嶋一貴(なかじま・かずき)、小林可夢偉(こばやし・かむい)といった元F1ドライバーやルマン王者が参戦するハイレベルな選手権となっている「スーパーフォーミュラ」。ストフェル・バンドーンがF1への切符を手にして卒業した今季、抜けた穴を埋めるに相応しいドライバーが参戦することになった。F1チームを所有する「レッドブル」の育成ドライバーで、2016年「GP2」の王者に輝いたピエール・ガスリー(フランス)である。

ピエール・ガスリーはホンダエンジンユーザーの「TEAM無限」から参戦する。同チームは2013年に山本尚貴(やまもと・なおき)をチャンピオンに導いた経験をもつ、ホンダの実質的なエースチーム。これまで1台体制で山本が孤軍奮闘してきた所に、「GP2」で王者に輝き「レッドブル」の未来を託される有望な若手が加わる。しかも、マシンはレッドブルのカラーリングになるという異例の待遇で、ガスリーは「スーパーフォーミュラ」を戦うことになった。

GP2王者のピエール・ガスリー【写真:RedBull Junior Team】
GP2王者のピエール・ガスリー【写真:RedBull Junior Team】

ガスリーはフランス出身の21歳。9歳からレーシングカートを始め、15歳でフォーミュラカーレースにデビュー。2013年に欧州のジュニアドライバーの登竜門「フォーミュラルノー2.0」で王者に輝くと、翌年は「フォーミュラルノー3.5」に昇格。それと同時に「レッドブル」の育成ドライバーとなった。

2014年の「フォーミュラルノー3.5」、2015年、16年と参戦した「GP2」と既に「スーパーフォーミュラ」と同等クラスの経験が3年もあり、来季以降のF1昇格がほぼ確約された実力の持ち主である。昨年のバンドーンと同様にヨーロッパのトップフォーミュラを制した選手の速さをまた今年も堪能できる。彼の参戦だけでも今季の「スーパーフォーミュラ」は見逃せない。

今年も群雄割拠の豪華なメンバーが戦う

2017年のスーパーフォーミュラ 選手&チーム (2017.2.14現在)
2017年のスーパーフォーミュラ 選手&チーム (2017.2.14現在)

俄然注目が集まるガスリーの参戦だが、迎え撃つ国内のドライバー達も新たな刺客の参戦に鼻息が荒い。昨年、国内サーキットの経験が著しく少ないストフェル・バンドーンに9戦中2勝をもぎ取られただけに、国内サーキットを知り尽くしたドライバー達はガスリーに負けるわけにはいかない。

昨年、新チャンピオンに輝いた国本雄資(くにもと・ゆうじ)は「P.MU CERMO INGING/トヨタ」に残留。カーナンバー1番を付け、連覇を狙う。速さと沈着冷静で安定した走りにさらに磨きがかかり、王者としての貫禄が垣間見えるパフォーマンスに大いに期待したい。

2016年王者の国本雄資【写真:トヨタ自動車】
2016年王者の国本雄資【写真:トヨタ自動車】

そしてトヨタエンジンユーザーでは昨年、ルーキーながら2勝を獲得した関口雄飛(せきぐち・ゆうひ)が今季も強豪チーム「ITOCHU ENEX TEAM IMPUL/トヨタ」から継続参戦。初のチャンピオン獲得に再挑戦する。今季はチームメイトがベテランのオリベイラから変わり、ルーキーのヤン・マーデンボロー(イギリス)となる。マーデンボローはプレイステーション3のゲーム「グランツーリスモ」を使ったドライバー発掘プログラム「GTアカデミー」出身であり、現在ニッサンが最も期待を寄せるドライバー。昨年は全日本F3選手権でランキング2位を獲得した速さの持ち主。

ルーキーながらランキング3位を得た関口雄飛
ルーキーながらランキング3位を得た関口雄飛

ルーキーではトヨタエンジンユーザーの「KONDO RACING」からニック・キャシディ(ニュージーランド)と山下健太(やました・けんた)が参戦。共に全日本F3選手権でチャンピオンに輝いたドライバーで、山下はF3の世界戦「マカオGP」でも印象的な速さを見せているだけに注目したい。

トヨタエンジンユーザーの中では昨年、不振のシーズンに終わった小林可夢偉が1台体制の「KCMG」に移籍。表彰台経験のないチームから再出発となる小林。元F1ドライバーが下位チームをどこまで引っ張り上げていけるかも興味深い。

また、昨年限りで「スーパーフォーミュラ」を去るとの噂もあったアンドレ・ロッテラー(ベルギー)が中嶋一貴と共に「VANTELIN TEAM TOM’S/トヨタ」から継続参戦。35歳の衰え知らぬベテランが、世代交代の進む「スーパーフォーミュラ」で再びチャンピオンを狙う。経験豊富なドライバーという意味では「SUNOCO Team LeMans/トヨタ」から5年ぶりのフルシーズン復帰が決まった大嶋和也(おおしま・かずや)の活躍にも期待したい。

巻き返しを期するホンダ勢【写真:本田技研工業】
巻き返しを期するホンダ勢【写真:本田技研工業】

一方、ホンダ陣営はガスリーの参戦を除いては、伊沢拓也(いざわ・たくや)が「DOCOMO TEAM DANDELION/ホンダ」に移籍、元F1ドライバーのナレイン・カーティケヤン(インド)が「NAKAJIMA RACING/ホンダ」に移籍した以外に大きな変更はない。ホンダ系ドライバーの中ではF3からのステップアップドライバーもいないが、今季は新規チームとして全日本F3に参戦している「B-MAX RACING TEAM」がベテランの小暮卓史(こぐれ・たかし)を擁して初参戦する。

現行規定の発足当初はトヨタに水を開けられていたホンダ勢はようやくトヨタと対峙できるようになってきただけに、大きく変えずに現規定で初のシリーズチャンピオン獲得を狙う。国内ドライバー達はそういう意味でもガスリーに負けられない戦いが始まる。

人気復調の流れを止めてはいけない

国内レースカテゴリーでは「SUPER GT」が抜群の集客力を誇る一方で、トップフォーミュラの「スーパーフォーミュラ」は長年人気低迷に苦しんでいた。しかし、昨シーズンはGP2王者のストフェル・バンドーンの参戦や混戦のシーズンとなったこともあって再び脚光を浴びた。

昨年のサーキット発表の観客動員数を見ても人気復調は見て取れる。決勝レース日(日曜日)だけを取り上げ、さらに2輪の「全日本ロードレース」と併催の大会は省き、単独開催のレースを参考にしてみよう。国内屈指の人気を誇る「SUPER GT」が3万人台の観客動員数を誇示しているのと比べると寂しい数字ではあるが、やはり昨年の「スーパーフォーミュラ」は観客が増えている。

スーパーフォーミュラ観客動員数の推移(単独開催イベントのみ)
スーパーフォーミュラ観客動員数の推移(単独開催イベントのみ)

参考にした単独開催の4戦だけでも約18%増。約2割増は少ないように感じるかもしれないが、スポーツイベントとしては非常に大きな数字の上昇である。今季はこの人気復調の流れをさらに上昇気流に乗せたいところだ。それだけに目玉となる新たなGP2王者の参戦、「レッドブル」カラーのマシンの参戦は、「レッドブル」の発信力も含めて、シリーズにとって大きな後押しになるだろう。

さらに今季の「スーパーフォーミュラ」は注目度が高まる要素が増える。フジテレビ系の「BSフジ」で決勝レースの模様が生放送されることが決定し、F1でも消滅した無料テレビ放送が行われるのは大きい。2年目となる「横浜ゴム」のタイヤへのスタディも進み、マシンが熟成しはじめる今季。開幕戦(4/23・鈴鹿サーキット)から流れを掴んで、「日本一速い男」の座を掴み取るのは誰だ?

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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