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ソラーリ政権でレアル・マドリーに訪れた変化。ペレスの「掘り出し物」は戴冠を果たせるか。

森田泰史スポーツライター
ヴィニシウスと抱擁するソラーリ監督(写真:ロイター/アフロ)

レアル・マドリーに、明らかな変化が生じている。サンティアゴ・ソラーリ監督就任後、連勝街道をまっしぐらだ。

クラシコでバルセロナに1-5と敗れ、フロレンティーノ・ペレス会長はフレン・ロペテギ前監督の解任を決めた。解任までの直近6試合で未勝利が続いたマドリーで、再建を託されたのはソラーリ監督だった。

だが新指揮官は即効薬として効能を発揮した。コパ・デル・レイ4回戦第1戦のメリージャ戦(4-0)、リーガエスパニョーラ第11節バジャドリー戦(2-0)、チャンピオンズリーグ・グループステージ第4節プルゼニ戦(5-0)、リーガ第12節セルタ戦(4-2)と異なる大会の試合を全勝で切り抜けた。

暫定監督として就任したソラーリを、続投させるかどうか。ペレス会長には14日間の猶予があった。そして、今月12日。スペインサッカー連盟がマドリーから書類を受け取り、正式に「レアル・マドリーのソラーリ監督」が誕生した。

■ソラーリの決断

ソラーリの就任で負の連鎖を断ち切ったマドリーだが、ロペテギが築いたものが壊されたわけではない。ボタンのかけ違いを、ソラーリが解いたのだ。

まず挙げられるのは、ジュニオール・ヴィニシウスの起用だ。移籍金4500万ユーロ(約58億円)を支払って獲得したアタッカーには、大きな期待が寄せられていた。だがロペテギはメディアの圧力に屈せず、ヴィニシウスにカスティージャ(Bチーム)での出場機会確保を求めた。

そのカスティージャで指揮を執っていたソラーリが昇任するあたり、ヴィニシウスには強運がついているのかもしれない。かくして、メリージャ戦で初先発したヴィニシウスは躍動し、次のバジャドリー戦で決勝点となるオウンゴールを誘発する。ペットボトルに入った炭酸飲料が密封のうちに振られ、蓋を開けると同時に溢れ出すように、ヴィニシウスは爆発の時を迎えた。

また、GKの論争にも終止符が打たれようとしている。ペレス会長は、長くトップクラスの正守護神をゴールマウスに据えたいと考えていた。ダビド・デ・ヘアの獲得に固執していたのが、その証だ。イケル・カシージャス退団後、その問題は常にペレス会長を悩ませていた。しかしながら、ジズー(ジネディーヌ・ジダン元監督)はケイロール・ナバスを重宝して、チャンピオンズリーグ3連覇という議論の余地がない結果を出した。

それでもペレス会長は「ロシア・ワールドカップの最優秀GK」という肩書きを大義名分に、クルトゥワの獲得を決めたのだ。その流れを汲むようにソラーリはチャンピオンズリーグ・グループステージ第4節プルゼニ戦でクルトゥワを先発起用。リーグ戦でクルトゥワ、カップ戦でナバスという、序列を崩したのだ。ペレス会長の念願が果たされた格好だ。

加えて、ソラーリは若手を積極的に起用している。ロペテギの手によってトップデビュー飾ったセルヒオ・レギオンだけでなく、ハビ・サンチェスが出場機会を積んでいる。守備陣に負傷者が続出しているという状況もあるが、指揮官たるもの、苦境に陥った時こそ大胆で、勇敢でなければいけない。ソラーリの勝負師としての才が光っている。

■戦術面の変化

戦術面の変化で目を引くのはベイルの左サイド起用だ。元々は左サイドバック、左サイドハーフでプレーしていた選手である。彼が世界にその名を知らしめたのは、2010-11シーズンのチャンピオンズリーグ・グループステージ第3節インテル戦だろう。その試合でハットトリックを達成したベイルだが、その時彼は左サイドバックでプレーしていたのだ。

ソラーリはベイルのポジションを変えた。純粋なウィンガーとなったベイルはシンプルなプレーを見せている。ベイル本来のポテンシャルとダイナミズム。それが活かされ、マドリーに息が吹き込まれるのだ。基本的に左サイドに張っているベイルだが、これにより、マドリーはピッチを広く使うことができる。またルカ・モドリッチ、トニ・クロースのサイドチェンジが効果的になるという、シナジー(相乗効果)が生まれた。

そのベイルを支えるのがセルヒオ・レギロンの存在だ。レギロンは、ベイルの邪魔をせず、然るべき時に然るべきタイミングでパスを出す。決してエゴを出すことがない。そうして、マドリーの左サイドの攻撃はスピードに乗る。マルセロ、イスコ、マルコ・アセンシオらは技術に優れる一方で、球離れが遅い時がある。ベイルの判断の早い明確なプレーが、逆にマドリーのアクセントになっているのだ。マドリーに「深み」と「幅」を与える。ベイルを左サイドに配置したソラーリ・マドリーに、その恩恵がもたらされた。

もとより、クロース、モドリッチ、カセミロと、マドリーの中盤に据えられている選手は全員が右利きだ。ゆえに、サイドチェンジの傾向から攻撃は左サイドに偏りがちになる。現に、ジダン政権においては、2015-16シーズン(左ゾーン36%:中央ゾーン29%:右ゾーン:35%/左右差1%)、2016-17シーズン(左ゾーン40%:中央ゾーン25%:右ゾーン:35%/左右差5%)、2017-18シーズン(左ゾーン42%:中央ゾーン24%:右ゾーン:34%/左右差6%)と攻撃は左サイドを中心に展開されていたのである。なお、最も左右差が少ない15-16シーズン、前期はラファ・ベニテス監督が指揮を執っていた。

そして、ソラーリの下で復活したのがベンゼマだ。今季公式戦で10得点をマークしているベンゼマは、ユヴェントスに移籍したクリスティーノ・ロナウド(9得点)を凌ぐ得点力を見せ、現在レアル・マドリーのチーム内得点王となっている。欧州で、ベンゼマより得点を記録しているのはロベルト・レヴァンドフスキ(15得点)、リオネル・メッシ(14得点)、キリアン・ムバッペ(13得点)、ルカ・ヨビッチ(12得点)のみとなっている。

ベンゼマはソラーリ政権で、メリージャ戦(1得点)、バジャドリー戦(PK誘発)、プルゼニ戦(2得点)、セルタ戦(1得点)と輝きを放っている。先のセルタ戦を終えた時点で、ベンゼマはレアル・マドリー通算430試合202得点を記録。チャンピオンズリーグでは59得点を挙げており、これはC・ロナウド(121得点)、メッシ(105得点)、ラウール・ゴンサレス(71得点)に次ぐ、偉大な数字だ。

ロペテギの解任を経て、ソラーリは完璧なスタートを切った。就任してから、マドリーは4戦4勝で15得点2失点。116年を誇るクラブの歴史において、これは最高のものだ。ペレス会長にとっては、「掘り出し物の物件」を引き当てた感覚だろう。リーガにおいて首位バルセロナとの勝ち点差は3ポイントまで縮まっている。クラシコの大敗でさえ、過去の記憶だ。形をなしてきたソラーリ・マドリー、その航海における視界は良好である。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『WSK』『サッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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