結局、いい温泉は何が違う? 温泉マニアがこだわる源泉の「鮮度」
みなさんが思い描く「いい温泉」とは何だろうか?
温泉の良し悪しには、さまざまな基準がある。浴室の清潔感を重視する人もいれば、デザインや雰囲気を重視する人もいる。宿で提供されるサービスや設備、料理を重視する人もいる。
それらも大事な要素ではあるが、温泉が好きな人ほど(マニアになればなるほど)「源泉の質」を重視している。
では、源泉の質を決めるものは何か?
これにもさまざまな基準があるが、筆者は温泉の「鮮度」を重視している。つまり、湯が新鮮で、その個性がいきいきと感じられるか。
生まれたての鮮度の高い湯は、入浴したときの居心地のよさが違う。やさしい泉質の湯は肌にすっとなじむ。成分の濃い湯は、肌を直接刺激し、個性を訴えかけてくる。
その鮮度を見極める、わかりやすい目安が「源泉かけ流し」という概念である。この言葉は、温泉を取り上げたテレビや雑誌などで頻繁に使われているので、多くの人がなんとなく意味を理解していると思われる。
結局、「源泉かけ流し」は何が違う?
ざっくり言えば、源泉かけ流しとは、湯船に注がれた源泉がそのまま湯船からあふれて出ていく湯の使い方のことを指す。
なお、源泉に水を加えたり、加温したりすることなく、湯船に注ぐことを「100%源泉かけ流し」とも言う。加水すると温泉の成分が薄まってしまうので、100%源泉かけ流しは鮮度が高く、理想的といえる。
源泉かけ流し以外の湯船は、基本的に循環ろ過方式となる。簡単に言えば、源泉を浴槽内で使いまわしている。
湯船の数や大きさと比して源泉の湧出量が少ない場合、かけ流しだと湯量が足りなくなる。そこで、浴槽内の湯を回収し、汚れを取り除き、塩素などによる殺菌を施したうえで、適温になるように調整しながら湯船に戻す。
大型旅館の大浴場は湯船が複数かつ大きいので、たいていは循環ろ過方式を採用せざるをえない。
循環ろ過方式なら、温泉の汚れをとって殺菌したうえで湯船に戻すので、湯の清潔度は保てる。
その代わり、循環ろ過・殺菌するたびに温泉の個性が失われ、ただの水道水のようになってしまう。何度も使いまわして塩素を投入するので、まるでプールの水のような匂いを放っている浴槽にもよく出会う。
循環ろ過方式は、鮮度という点で、源泉かけ流しよりも数段落ちる。場合によってはもともとの源泉とは別物になっていることさえある。したがって、鮮度を重視するなら、源泉かけ流しかどうかをチェックする必要がある。
ただ、施設によってはかけ流しと循環ろ過を併用している浴槽もあるので、ややこしい。脱衣所などにかけ流しか循環ろ過か、あるいは併用式かを掲示している施設も多いので、確認してみよう。
理想形は「足元湧出泉」
「温泉の鮮度」という観点から最も理想的とされる形は、「足元湧出泉」である。
温泉は空気に触れることで酸化が進み、劣化していく。温泉情緒をかきたてる濁り湯も、もともとは透明の状態で湧出したものが、大気などと化学反応を起こして変色した結果である。
つまり、ビールと同じように温泉も時間が経てば経つほど、鮮度は落ちていくのである。
足元湧出泉は、別名「足元ぷくぷく温泉」とも言われるが、その名の通り、湯船の底からぷくぷく湧き出す湯である。
たいていの温泉施設では、湧出した場所から湯船まで源泉を引いてくるのが通常であるが、なかには、源泉が湧き出す岩のすきまや川底の上に湯船を設えた温泉が存在する。湧きたての湯が酸素に触れることなく、直接湯船に注がれれば劣化することはない。
足元湧出泉は、一般的な源泉かけ流しの湯船と比べても別格の気持ちよさである。たえず湧き出るピュアな湯に全身が包まれると、思わず笑顔がこぼれてしまう。
有名なところでは、以下の温泉で足元湧出泉を楽しめる。
丸駒温泉(北海道)、酸ヶ湯温泉(青森県)、蔦温泉(青森県)、鉛温泉・藤三旅館(岩手県)、乳頭温泉・鶴の湯(秋田県)、法師温泉(群馬県)、湯の峰温泉・つぼ湯(和歌山県)、湯原温泉・砂湯(岡山県)、岩井温泉・岩井屋(鳥取県)、壁湯温泉・福元屋(大分県)、尾之間温泉(鹿児島県)
百聞は一‶浴″に如かず。温泉旅行の目的地として、足元湧出泉をぜひ候補に入れてほしい。