え、あのK-POPメンバーの年齢が変わる？

若くなるの？

はたまたBTSのSUGAがVliveで「まだだよ」とも発言。

”韓国式年齢廃止”

この言葉が3月11日に日本でTwitterトレンド入りした。3月9日に投開票が行われた韓国大統領選挙で当選した尹錫悦次期大統領の公約にこれが入っていたことによるものだ。

本当だ。若くなる。最大で2歳。ただし肉体が若返るということではない。当たり前だが。

「本人たちが頭のなかで考える年齢が若くなる」という説明が正しい。「法的な年齢と実社会で使われる年齢の差」がなくなる、という言い方もまた正しい。

もう一つ言うと、これまでK-POPメンバーが多く使ってきた「年齢」は法的なものではない、という点も。

韓国での”3つの年の数え方”　

10日の韓国大統領選で当選した尹錫悦氏は確かに「満で数える年齢制度統一」を公言した。今年の5月10日から就任する新しい大統領が「もういままでの韓国の習慣による数え方をやめましょう」としているのだ。

1月17日に本人のYouTubeアカウント上でショート動画を公開。「60秒以内で公約をまとめる」という企画のなかでこの問題の改善を訴えた。

たしかにそうなのだ。

生年月日はひとつなのに、その数え方が3つもある。よく言われるジョークに「韓国ほど人に会うとまず年齢を聞く国はない。でも年齢をはっきり言えない」というものがあるほどだ。

その数え方、”古い順”で紹介しよう。

• 韓国の数え年の問題を論じる「JTBC」

年齢が3つもあれば、そりゃ困る！　

尹時期大統領の時代に「③」の基準に統一されたのなら、「一般の観念上は若返るメンバーがいる」というのは本当だ。3月18日の「韓国法律放送ニュース」はこう報じている。

尹時期大統領が問題視しているのは「いくつも基準があることによる混乱」だ。

民法上はすでに「満」で年齢を数えることが決まっている。

では習慣上でのみこれが残っているのかというと、そうでもないのだ。なにせ法によって「年（ヨン）」を明記して適用するものがあるのだ。

近年では子供向けのワクチン接種で問題が起きた。2010年生まれの子どもが「大人用、子ども用の接種量の区分け”12歳”で混乱がある」（尹次期大統領）とした。成長の度合いに違いがあるのに、ひとまとめにしてしまったのだ。日本と同じ「満」でカウントすればシンプルに生まれた日数だけを基準にこれを分けることができた。

いっぽう「数え年」については法的に一切用いられていないから、制度上の問題が起きるわけではない。

ただし習慣上の問題はある。例えば「海外の人物の年齢の紹介で混乱」。近年では香港の民主化運動のリーダーが韓国式で「19歳」と紹介されたが、実際は「17歳」だったりもした。現在韓国で放映中の人気ドラマの「二十五、二十一（2521）」も実際の男女主役の年齢は「23歳と19歳」。「設定が未成年ならドラマはヒットしない」（韓国スポーツ紙記者）とされる。

徴兵制度は「中間案の年（ヨン）」

K-POPファンにとって重要なのは「徴兵」の基準だろう。これは中間の「年（ヨン）」でカウントされる。

しかし、新大統領の制度改正で実際の召集時期の年齢制限「28歳」には大きな変化はないものと見られる。

「年（ヨン）」とは、前述の通り「生まれた瞬間に1歳」「翌誕生日に2歳」でカウントされるもの。シンプルに「日本での（”フツー”の）数え方プラス1歳」。

これがなんで存在するのかというと「おおまかにまとめたい時に使う」から。韓国メディアでは今でも誕生日まではがよく分からない人物については「今年何歳になる」とザクッと伝えたりもする。

現在の韓国兵役法による年齢基準はこうだ。

つまりは、「誕生日がいつだろうが、その年の1月1日時点でまとめる」ということ。

この基準の「18歳」の「健康な男子」は、徴兵予備軍に編入され、この基準の「28歳」までに徴兵に行かなければならない。

今、まさに尹次期大統領が行っている提案はこれを「この基準を満に統一しよう」というものなのだ。満にした際の時期の区切り方で多少の変動はあるかもしれないが、習慣上の「数え年」と「実年齢」ほどに「2年間も変わる」ということはなさそうだ。なにせ「数え年」には法的根拠がないからだ。

兵役法などいくつかの法を「満基準」に書き換える法案は5月10日以降に国会で話し合われ、可決すれば大統領が承認する。

なぜ韓国で「数え年」が使用されてきたのか。

「中央日報」は韓国のこのシステムを「世界で唯一」と紹介している。もともと中国の思想に基づく考えとして東アジアで広く使われてきたものだ。

ざっくりいうと「旧暦の1月1日を一年の節目として非常に大事に考える」という発想から。現在では西暦で1つ年を重ねるのだからまあこの点でも矛盾はある。

当の中国は1976年までにこれを廃止、北朝鮮は1980年、日本は1950年に廃止した。日本での事情をもう少し説明すると、1910年代以前は公式文献でもこの「数え年」の年齢を掲載してきたが徐々に使われなくなり、1950年に法的にもこれを廃止した。

現在では「七五三」などを数え年で行う地方も残っている、というところ。また2月1日に作家で元東京都知事の石原慎太郎氏が89歳亡くなった際には、遺族がレクイエムとして「数えで90歳まで生きた」と口にしていた。

いっぽう韓国メディアによると世界では「生まれてすぐ1歳」という国ならいくつかある。トルコ、イラン、キプロスなどだ。しかしこれらの国とて「その年の1月1日に1つ歳を取る」というカウント法はないのだという。

では世界でなぜ、韓国でのみこれが「生き残った」のか。

なんと「はっきりとした文献がない」（2015年12月30日の「JTBC」）という。生まれた瞬間に1歳となるのは「お母さんのお腹の中にいる時間から大切に考えてきたから」だとか、また年齢をかなり重要視する国にあって、社会習慣的に「序列を変えることが難しい」という説もある。

同じ言語の北朝鮮でもなくなっているが、これは年齢よりも社会的な序列を重要視するようになったからとされる。かの国では年齢に関係なく上の位にある人や同僚を「同志（トンジ）」、下を「同務（トンム）」と呼ぶ。韓国のように「何歳？ならこちらがヒョンだな」という会話が”絶対的”ではないのだ。

韓国でも過去に古くは1970年代から幾度か国会で廃止案が出たが、”生き残った”。習慣を変えるのは難しかったからだ。今回の尹大統領の公約も「法を変えることで習慣の変更も促す」という面があるように思われる。

韓国記者「法案は通る見通し」

今回の韓国式年齢撤廃、現地ではどう見られているのだろう。「スポーツ京郷」のライフ担当イ・ユジン記者は「私は2歳若返って嬉しい」と言いつつ、こう続ける。

「韓国でも新大統領の政策として関心が高いです。大学や軍隊など年齢の序列文化がある国なので。個人的には大学などでの厳しすぎる序列は無くなってほしいですよ。1歳や2歳の差がいったい何だって言うのでしょう？」

「結局のところ習慣の問題だと思います。法律上はすでに『満』の年齢を使用していますが、日常生活で『韓国の年齢』を使っているというところです。急に変わるということはなく、多少混乱する時期があると思います。これを避けるためか、年齢ではなく『生まれた年を言おう』という意見も少しずつ出てきています。ただメディアで使っていけば、『満』の数え方も一般的に定着していくのではないでしょうか」

5月10日に就任する新大統領、今は「大統領のオフィスを移転」問題で大騒ぎだ。

この話に着手するのは少し先、ということになりそう。イ記者は「オフィス移転はお金のかかる問題なのでかなり揉めているが、この法案はコストもかからないので通るのでは」と展望している。

（了）

【おまけ】長い文章におつきあいありがとうございました。全てを覆すようですが、こちら手っ取り早い「計算ツール」があります。※両方ともにオール韓国語。

「満年齢計算機」

普通に西暦の生年月日を入力すれば、1つ目の欄に「満（普通の日本）の年齢」、2つ目の欄に「韓国式の年齢」が出てきます。

さらなる”強者”のファンの方にはこちらもどうぞ。

「陰陽暦変換計算（韓国天文研究院）」

もうひとつ、韓国独自の年齢の数え方「陰暦の誕生日」を計算するツール。K-POPメンバーの中にはもしかして陰暦で誕生日を認識している人もいるかも!?　

ご自身と推しの新たな”関係”が見えるかもしれません。

ではよい週末を。

（了）

【参考】ちなみにSNS上では「尹錫悦次期大統領の公約」という話も出ていたが、厳密には公式に提出した以下の10大公約には含まれてはいません。着手までにちょっと時間がかかるかも。

参考記事:”文在寅 v.s 尹錫悦”勃発　火種の「青瓦台」はなぜ罪なのか　敷地面積は日本の6倍 ”ドデカ宮殿”（筆者による）