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中国当局が決死の削除――女性プロテニス選手が暴露した共産党最高幹部との秘密のやり取り

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
習近平主席(中央)と行事に参加した張高麗氏(左端)=光明日報よりキャプチャー

 中国の著名女子プロテニス選手が2日、中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」上に実名で、共産党最高指導部の元メンバーとの性的関係を告白する文章を書いた。投稿は当局によって直ちに削除されたが、スクリーンショットなどの形式で国内外に出回っている。投稿内容の真偽は確認できないものの、米国の主要紙が「#MeToo(私も被害者)」(世界に広がった反セクハラ運動)と関連づけて報じるなど波紋が広がっている。

◇政治局常務委員という超大物

 投稿したのは彭帥(Peng Shuai)さん(35)。2014年にテニスダブルスの世界ランキング1位、シングルスで14位になった中国テニス界のスター。台湾のパートナー謝淑薇さんとペアを組み、テニスの四大大会ウィンブルドン選手権(2013年)と全仏オープン(2014年)の女子ダブルスでの優勝経験もある。

 一方、名指しされた大物は、張高麗(Zhang Gaoli)氏(75)。福建省出身で幼少時に父親を亡くし、極貧のなかで育ったとされる。1997年に当時の江沢民(Jiang Zemin)国家主席の後押しで、改革開放のモデル地区である広東省深圳市党委書記に抜てきされ、2007~12年には天津市党委員会書記。2012~17年には習近平(Xi Jinping)総書記(国家主席)が率いる最高指導部メンバーである政治局常務委員を務め、副首相も兼任したという超大物。

 投稿によると、彭帥さんは、張氏の天津市書記のころ知り合い、性的関係を持った。張氏が政治局常務委員に抜擢され、いったん関係は途絶えたが、張氏の引退後に再び連絡を受け、自宅に呼ばれて性的関係を迫られたという。日時や具体的な状況は記されていない。

◇「私は真実を話します」

 スクリーンショットに記された文字数は約1660字。日本語に翻訳すると3000字程度になり、微博の投稿としては長文だ。そこで彭帥さんは感情を前面に出して張氏との関係を綴っている。

「あなたは『宇宙は巨大で、地球は宇宙の中の砂粒であり、私たち人類は砂粒にもならない』と話しました」

「あなたは私に万物の知識について話し、経済哲学を語り、話題は尽きませんでした。(将棋や囲碁で)対局し、一緒に歌をうたい、卓球、ビリヤードを楽しみました。テニスも含めて」

「あなたは、私をとても愛していると言い、来世ではあなたが20歳、私が18歳の時に会いたいと言いました」

 ただ、「このようなことになってしまったのは自業自得」と後悔している。張氏は録音・録画などで証拠を残されるのを恐れていたそうだ。

 今月2日午後に何らかの話し合いがもたれる予定になっていたが、張氏の都合により先送りにされたと記されている。

 投稿の後段には次の記述がある。

「副首相・張高麗という高い地位にいるあなたにとって(私の暴露が)『怖くない』ことはわかる。でも、卵で岩を打つことになったとしても、炎に向かって飛び込む蛾になったとしても、自滅を呼び込む道になったとしても、私はあなたの真実を話します」

◇「中国では前代未聞」

 中国の報道機関はこの件を取り上げておらず、ネット上の関連情報は既に削除されている。ただ削除後もスクリーンショットなどで出回っているうえ、両者の名前に似た用語を使って暗号のようなコメントをしている例もあるようだ。

 中国では、微博への投稿を使った著名人に対する告発が相次いでいる。今回は最高指導部の元メンバーがターゲットとなっただけに中国社会に衝撃が走っているようだ。

 今回の投稿が中国でタブー視される一方、米国では有力紙によってさかんに取り上げられている。

 ワシントン・ポストは3日、「中国高官に対する性的暴行の主張は、高官の私生活を厳重に守る国では前代未聞」と報じたうえ「中国の引退したトップリーダーに対する稀な『#MeToo』の主張は、中国に衝撃を与え、検閲担当者はネット上の曖昧な表現も削除しようと躍起になっている」と伝えている。

 そのうえで、同紙は「フェミニスト活動家たちは彭さんの決断を、中国の#MeToo運動にとって重要な瞬間であり、中国の女性たちがこれまで当たり前とされてきた性差別的な行為をもはや受け入れない、ということの表れであると称賛している」と書いている。

 ニューヨーク・タイムズも「中国で芽生えた#MeToo運動が初めて共産党上層部にまで及ぶことになった」「そのため、中国のグレートファイヤーウォール(中国でのネット検閲システム)内の検閲官は混乱した」と伝えた。

 同紙によると、中国問題に関するニュースレター「Sinocism」創始者のビル・ビショップ(Bill Bishop)氏は「疑惑の中身は衝撃的ではないが、ターゲットが衝撃的である」とみている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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