レノファ山口:徳島に引き分け。シュート20本、「猛攻」開花も2点目遠く。後半ATに失点
J2・レノファ山口FCは4月8日、維新百年記念公園陸上競技場(山口市)で徳島ヴォルティスと対戦し1-1で引き分けた。レノファは前後半ともに10本ずつのシュートを放つなど厚みのある攻撃を展開。星雄次のゴールで先制したが、アディショナルタイムで失点し引き分けに持ち込まれた。
明治安田生命J2リーグ第7節◇山口1-1徳島【得点者】後半28分=星雄次(山口)、後半46分=渡大生(徳島)【入場者数】4013人【会場】維新百年記念公園陸上競技場
悔やまれる勝ち点1。ただ、今節のレノファはパス数やその質、実プレー時間(アクチュアルプレイングタイム)、あるいはゴールへ向かう意欲でも今季ここまでで最も充実した試合ができた。
立ち上がりから攻守に積極性
前節の水戸ホーリーホック戦では運動量の少なさや出足の鈍さが目立ち、ゲームの主導権を掌握することはできなかった。反省点ばかりが残る内容で、練習から球際への厳しさを追求。メンバーにも変化を加え、米澤令衣をFWで先発起用、センターバックでは上野展裕監督が「練習試合でのパフォーマンスが良かった」と評価した香川勇気をチョイスし、フレッシュな顔ぶれでゲームに臨んだ。
ゲームは無風で湿度の高い中で始まった。レノファはトレーニングでの修正とメンバー変更という策が効き、求めていた球際の厳しさを前半から発揮。高い位置からプレッシャーを掛けて相手のミスを誘ったり、セカンドボールやイーブンのボールをしっかりと収め攻撃のきっかけを作る。前半の早い時間から1トップの米澤が裏に走ってボールを受けたほか、MF小野瀬康介は持ち前の積極性を前面に押し出し、ゴールに迫った。守備の集中も高く、何度かCKを徳島に与えるがDF福元洋平やGK山田元気らが冷静に対応。無失点に抑えるとともに、ゴールこそ奪えなかったが前半だけでシュート10本を放って後半に入っていく。
星雄次が今季初ゴール
交代カードで先に動いたのは徳島で、後半のスタートから松村亮を投入。「背後を突きたかった。相手も自分たちの背後を狙ってきていたが、自分たちもビルドアップをするために、馬渡を一枚下げて、前でフレッシュな選手として松村を入れた」(リカルド・ロドリゲス監督)と攻守両面のケアを図る。実際にビルドアップの部分が向上し、レノファ陣内に入っていく回数は増える。後半10分にはゴール至近から杉本太郎がシュート。ここもGK山田が立ちはだかるが、徳島は選手交代を活かして少しずつボールを持つようになる。
レノファも手をこまねくことはなく、池上丈二と加藤大樹をピッチに送り出し攻撃は緩めない。とりわけスピードのある加藤大樹を入れた意義は大きく、加藤のランニングや星雄次のオーバーラップからチャンスメーク。後半28分には、前貴之がミドルシュートを放つと、GKの弾いたこぼれ球に加藤と星が詰め、最終的には星がゴールへと蹴り込んだ。「こぼれてくるという感覚的なものがあった」と星。両サイドバックと途中投入した選手が絡んだレノファの真骨頂とも言えるゴールメークで、レノファが均衡を破った。
残り20分。追加点を狙うが…
この時点で残り時間はアディショナルタイムを含めても20分前後。レノファの残す交代カードは1枚だった。ベンチにはDFとして渡辺広大と廣木雄磨が控え、守りに入るカードも切ろうと思えば切れた。ただし、守りに入るというのは「レノファ辞典」などというものがあればきっと「最終手段」と解説されていることだろう。ホームスタジアムで見せるべきは汗して戦う志のサッカー。上野展裕監督は後半31分、ドリブルを得意とする清永丈瑠をピッチに送り出した。
意図は明白だ。攻め続け、追加点を狙うこと。ところが、前半から飛ばして入ったことで疲れも見え始め、狙いとは裏腹に引き込むようになってしまう。守備から攻撃に切り替わっても押し上げが足りず、ついにセカンドボールの多くが相手に渡るようになってしまった。
それでも後半アディショナルタイム、左サイド深くからの加藤の折り返しに米澤が合わせ、一度はネットを揺らすことに成功する。しかし、これはオフサイドでノーゴール。終盤のいくつかのビッグチャンスを逸すると一転してカウンターを食らい、今季ここまで4得点を挙げている渡大生にあっさりとネットを揺らされてしまった。土壇場での同点弾の被弾。疲労に加え、決定機を作り出したあとの緩みを突かれた。
結局、1-1でゲームセットとなった。主導権を握ったレノファが90分でシュート20本を記録。徳島も交代カードが効いて16本のシュートを放った。2チームあわせてシュート36本の乱打戦とも表現できるが、どちらも複数得点には至らなかったことを考えると、引き分けは順当な結果だったかもしれない。
もちろん、先制後にゲームを賢く運べればレノファが白星を掴めた可能性は高く、勝ち点2を失ったという印象も強い。この日、左袖にゲームキャプテンのマークを巻いた福元洋平は、「点を取ったあとの時間の使い方。2点目、3点目を取るチャンスはあったし、守るというときのボールの失い方だったり、そのあとの攻められる形だったり、そういうところで甘い」と悔やんだ。
ただ、ゲームの閉じ方はカテゴリーや国内外を問わず難しい部分。特にレノファのように守るために攻めに行くというようなスタイルは、追加点の「受益」と失点の「リスク」が常に表裏一体に存在する。ベテランでも頭を使う戦術なのだから、平均年齢や経験値の低い現チームにとっては、やはり実戦を通じて学んでいくしかない。高い授業料となったかもしれないが、次に繋げるよりほかに道はない。
長期戦略と短期修正のクロスオーバー
評価すべきは7戦目にして、「シュートも20本打てて、決定機会もたくさん作ることができた」(上野展裕監督)ということだ。以前の記事でも『呼吸が合うようになれば、ブロックの手前でのパス回しから脱却』するはずだと書いたが、まさにこの点で目覚ましく成長。横パスやバックパスが目に付いたサッカーは今、いくつもの鋭い縦パスを織り交ぜられるようになった。ゴールシーンに象徴されるように右サイドバックの前と左サイドバックの星が高い位置まで攻め上がり、狭いエリアをパスが往復。相手守備がレノファの選手を掴まえられなくなる場面も増えてきた。
時間を掛けて構築しているパスサッカーの成熟を感じられる試合だった。そして、前節の課題になった運動量や弱含んだ球際の面の顕著な改善も見て取れた。長期戦略と試合ごとの修正。両方が噛み合い始めている。
次戦4月15日もホームゲーム。同じく維新公園にジェフユナイテッド千葉を迎える。積み上げの進むパスサッカーはこの1週間でまた一回り成長するだろう。さらには今節の課題になったゲームの閉じ方もコーチングスタッフが頭をひねったり、選手が自ら考えたりして修正をするはずだ。
「いい時間帯もあったが勝ちきれなかったのは残念。もっと良くなる部分もある。サポーターのみなさんの前で勝ち点3を取れるよう準備していきたい」。そう話したのは、今季初ゴールながらドローを告げるホイッスルに頭を抱えていた星雄次。誰よりも悔しいであろう星をはじめ、選手たちはサポーターに向かって深々頭を下げながら、もう一度ゴールに向かうべく己を奮い立たせていた。今度こそ、猛攻開花の維新旋風で白星を連れてくる。