人を動かす「ちゃんと伝える技術」とは?
話が噛み合わない人
心の中で思っているだけでは、人を動かすことができません。上司が部下に対して、「どうして、私が言ったことをやらないんだ」「優先順位が違う。なぜ今あんなことをしているのか」と思っていても、念力では部下のふるまいは変わらないのです。
相手に言ったはずなのに、なぜ動かないのか? その理由はひとつだけです。それは「ちゃんと伝わっていない」からです。「伝わっている/伝わっていない」の2つではなく、「ちゃんと伝わっている/ちゃんと伝わっていない」の要素で考えるべき。それでは「ちゃんと伝わっていない」理由は何なのか?
その理由は「言語的な要素」と「非言語的な要素」の2つがあると私は考えています。
言語的な要素でなかなかちゃんと伝わらない人を、私は「話が噛み合わない」人と名付けています。こちらの言っていることを誤解したまま反論したり、自分の思い込みで話を進めたりする人、あなたの周りにはいませんか。雑談をしているときならともかく、何らかの悩みを相談したいときには困りますよね。特にビジネスにおいて、話が噛み合わないと、いつまで経っても話が前に進みません。
話が噛み合わないパターンは以下の3種類です。
● あさっての方向
● 早とちり
● 結論ありき
途中から話の論点がずれていく「あさっての方向」。前提知識が足りないせいか誤解を招く「早とちり」。何を言っても否定する「結論ありき」。この3つです。
話が噛み合う、ということは、歯車が噛み合う、と同じ意味合いですので、動力源が正しく伝わっていないと「噛み合っている」ことにはなりません。したがって、期待通りに相手が動いてくれない限り「話が噛み合っている」とは言えないのです。(参考図書:拙著「話を噛み合わせる技術」)
これらのパターンだと、あとで「●●と言ったよな?」と聞いても「そうでしたっけ」という返答がかえってきます。言ったはずなのに、言語的にちゃんと伝わっていないからです。
本気度がちゃんと伝わっているか
ただ、言語的には噛み合っているのに空回りするケースがあります。「言語的な要素」ではなく「非言語的な要素」が関わるケースです。
「●●と言ったよな?」と聞くと「はい、知っています」と答える。なのに相手は動かない。なぜか? 「非言語的な要素」が噛み合っていないからです。その「非言語的な要素」が「本気度」。「本気度」が噛み合わないと、話もまた同様に噛み合いません。
たとえば営業部長が「開発部だけでなく、営業部も新商品のアイデアを出してもらいたい。来週火曜日までにアイデアを3つは出してくれ」と言ったとします。部下たちに話は正しく伝わりました。あとで確認しても、「来週火曜日までに新商品のアイデアを3つ出す」という部長の話を正しく理解していることが判明しています。にもかかわらず、火曜日になって部下たちを集めても、誰もアイデアを持ってきません。……このようなことは、どんな組織にもあることです。
このケースにおいて「しょうがないな。まぁ、君たちは日ごろから忙しいので、新商品のアイデアを考える暇はないだろうが、言ったことはちゃんとやってくれないと困る」などと、お茶を濁すような受け止め方を営業部長が示すとダメです。営業部長は本気で「新商品のアイデアを考えなければならない」と思っていなかったことを証明しているようなものだからです。その曖昧な真剣さが部下たちに伝わっているので、相手は動かないのです。
営業部長が本気で考えているのならば、「先週言っただろう! 新商品のアイデアを3つは出せって。誰もアイデアを出してこないなんて、どうなってるんだ!」と怒るはずです。「おい、田中! 今日までに新商品のアイデアを考える時間はあったはずだ。何か言い訳できるかっ! たるんでるんだよ」と言われたら、田中さんは言い返すことができません。(部長は本気で言ってたのか。いつものように軽く受け流した自分が悪かった)と反省するはずです。
プリフレーム
「言語的な要素」だけが相手に伝われば、話が噛み合うとは限りません。「本気度」「真剣み」が噛み合わないと、相手は期待通りに動かないのです。そこで本気度もちゃんと伝えるために「プリフレーム」というテクニックを使います。
プリフレームとは、話をはじめる際、もしくはそれよりも前に、これから伝える内容の意味(フレーム)を細かいディテールまで伝えておくことです。それによって、相手の視点をフレーミングし、主導権を握ることが容易になります。
「開発部だけでなく、営業部も新商品のアイデアを出してもらいたい。来週火曜日までにアイデアを3つは出してくれ。俺は本気で言っているからな。もしもアイデアを1つとか2つとかしか出せない奴がいたら、会議に出席しなくていい」
事前にこれぐらい言うことで、部下たちは「これは本気で考えないとマズいぞ」と思うものです。1回や2回言ったぐらいで相手に伝わっているだろうと思い込まないこと。それではちゃんと伝わらない。相手にちゃんと伝え、期待したとおりに動いてもらうためには、言葉のみならず「本気度」もちゃんと伝えましょう。プリフレームは、メールなどと組み合わせると有効性はさらに増します。