見ざる、言わざる、聞かざる――日本柔道 30年間で118件の死亡事故 いま審判が下される
世界からのまなざし
「見ざる、言わざる、聞かざる」――世界柔道研究者会議(IAJR)会長のマイク・カラン(Mike Callan)氏が、日本の柔道事故対応を皮肉った表現だ。
2013年12月6日、柔道教育ソリダリティー(理事長・山下泰裕氏)主催の講演会で、カラン氏は「子供の柔道の負傷の解決策とコーチ教育」と題して、日本の柔道で重大事故が起きてきたにもかかわらず、それを皆が「見ざる、言わざる、聞かざる」かたちで放置してきたと、厳しく指摘した。講演会では、フランス柔道連盟副会長のミシェル・ブルース(Michel Brousse)氏も登壇した。「危険な指導方法、危険な柔道とは?」という演題で、柔道人口が日本の3倍(60万人)を誇るフランスで死亡事故がほとんど起きていない(子どもの頭部外傷による死亡はゼロ)こと、その背景にある徹底した安全指導があることを明らかにした。
二人の演題からもわかるように、この講演会は、柔道事故防止を訴えるために企画されたものである(企画名は「フランスとイギリスにおける柔道のけが防止の取り組みについて」)。事前に申し込みをすれば、柔道関係者以外でも参加することができたため、私も足を運ぶことができた。関係者限定のクローズドな企画を除けば、私が知る限り、この講演会は柔道界がはじめて、一般向けに柔道事故の問題を訴えた場面である。
30年間で118件の死亡事故――「被害者の会」の闘い
信じがたいことに、これまで学校における柔道で、過去30年に118人の子どもが命を落としている。私がスポーツ事故の研究成果としてこの事実を公表したのは2009年9月のこと。それより以前、日本の柔道界はこの重大な問題を「見ざる、言わざる、聞かざる」で過ごしてきた。しかもこの数字は学校管理下の数字であり、町道場の事案はいまだ不明のままである。
読者の皆さんは、ご存知だろうか。我が国には、「全国柔道事故被害者の会」という団体がある。柔道によって子どもを亡くした家族、子どもが重度障害(植物状態等)を負った家族が集まり、2010年3月に設立された。おそらく日本で唯一の、一つの競技に特化された被害者団体である。家族たちは皆、上記の講演会がもっともっと早くに開かれるべきであったと考えているし、もしそうであったならばきっといま自分たちの子どもは元気に走り回っていただろうと、苦しく悔しい思いに日々苛まれている。
30日・31日と主要事案の裁判が続く
明後日30日(木)10時から、被害者の会の副会長・澤田博紀氏のご子息である澤田武蔵さん(小学6年時に道場で重度障害)の刑事裁判(第8回公判)が長野地裁で開かれる。元指導員である小島武鎮被告への被告人質問がある。公判の一つの山場だ。
その翌日31日(金)の13時15分からは、同会の会長・村川義弘氏の甥である村川康嗣さん(中学1年時に部活動で死亡)の控訴審の民事裁判で判決が下りる。
「見ざる、言わざる、聞かざる」の連鎖はいつ止むのか。次の犠牲を出さないためにも、私たちには、柔道事故の事例そして裁判状況を「見ること、伝えること、聞くこと」が求められる。
[写真:日光東照宮の三猿 Photo by (c)Tomo.Yun http://www.yunphoto.net]