深刻化する「生理の貧困」新聞、靴下、トイレットペーパーで代用 世界初の無償提供 コロナと女性(3)
英スコットランド議会が全会一致で可決
[ロンドン発]「生理の貧困」をなくそうと英スコットランド議会は24日、タンポンやナプキンなど生理用品を無償で提供する法案を全会一致で成立させました。2016年に米ニューヨーク市が学校、ホームレスの避難所、刑務所で無償提供する法案を可決しましたが、すべて無償というのは世界で初めてだそうです。
17年8月から、この法案に取り組んできたのは野党・スコットランド労働党のモニカ・レノン議員(39)。成立したその日「スコットランドの誇るべき日です。全国どこででも無料で生理用品にアクセスできるというシグナルを世界に送ることができました」と喜びのツイート。
「新聞、靴下、トイレットペーパーでさえ、イギリスでは10人に1人の女性が利用できる“生理用品”のほんの一部です」(エイリー・グレアムさん)。「若い女性がフードバンクに来て、カロリー不足による栄養不良で生理用品は不要と言った時、私の中に稲妻が走りました」(イーワン・ガーさん)
エイリーさんとイーワンさんは「生理用品を無償提供する時がやって来た」というサイトでこう訴えています。レノン議員もホームレスの人が路上で販売する雑誌ビッグイシューで「生理用品を十分な頻度で交換できなかったり、ボロ布で代用しなければならなかったりするのは屈辱的で危険です」と強調しています。
「もし低所得を生き抜こうとしているのなら、もし路上生活を余儀なくされているのなら、もし健康上の問題を抱えているのなら、生理について語り対処するのは気まずいだけでなく、不可能で困難でさえあります」
支援団体プラン・インターナショナルUKによると、新型コロナウイルスの第1波でロックダウン(都市封鎖)が導入された今年5月、14~21歳の女性の30%が生理用品への購入やアクセスに問題を抱えていると訴えました。
生理用品がなければ70%がトイレットペーパーで代用
イギリスの学校、大学で生理用品へのアクセスを調査(17年度)したところ、26%が前年に生理用品にアクセスするのに困難を伴ったと回答。その場合70%がトイレットペーパーを代わりに使用すると答えました(複数回答)。女性が生涯で使用する生理用品は4800ポンド(約66万5千円)と推計されています。
また子宮内膜症に苦しんでいる人の場合、1日に使う生理用品の量は4倍にも6倍にものぼるそうです。
スコットランド自治政府のニコラ・スタージョン首相も「画期的な法案が可決されたことを誇りに思います。スコットランドは世界で初めて必要な人に生理用品を無償提供する国(country)になります。女性と女の子にとって重要な政策です。尽力したモニカをはじめとする皆さん、ご苦労さま」とツイート。
今後、教育機関や自治体が無償提供の責任を負います。詳細はまだ明らかになっていませんが、生理用品は学校やコミュニティーセンター、ユースクラブ、薬局で提供され、年間予算は870万ポンド(約12億円)とみられています。
イギリスでは現在、生理用品に「タンポン税」と呼ばれる5%の付加価値税(VAT)をかけていますが、今年末に欧州連合(EU)離脱に伴う移行期間が終わったあとは廃止されることになっています。英国家統計局(ONS)によると、世帯の総可処分所得(1人当たり)は次の通りです。
イギリス全体 1万9514ポンド
イングランド 1万9988ポンド(貧困率22%)
スコットランド 1万8099ポンド(同19%)
北アイルランド 1万5813ポンド(同18%)
ウェールズ 1万5754ポンド(同24%)
イギリスで一番貧困に喘いでいるのはウェールズ、次にイングランドです。この2つが2016年の欧州連合(EU)国民投票では離脱に投票しました。残留が多かったスコットランドではスタージョン首相のスコットランド民族党が政権についてから格差解消に取り組み、貧困率は23%から19%に下がっています。
生理用品の無償提供も女性の貧困を解消する狙いがあります。
日本でも女性に大きな打撃
コロナ危機は貧富の格差、世代の格差だけでなく、男女の格差も広げています。多くの女性が貧困の淵に追いやられているのは日本も例外ではありません。新型コロナウイルス感染症対策本部に11月21日に出された資料を見てみましょう。
コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会は「新型コロナウイルス感染症の拡大は、特に女性への影響が深刻であり“女性不況”の様相が確認される。女性就業者が多いサービス産業などが受けた打撃は極めて大きく、厳しい状況にある」と指摘しています。
就業者(自営業主・家族従業者・雇用者)数は今年4月に大幅に減少。女性の減少幅は70万人で、男性の37万人に比べて2倍近く大きくなっています。雇用者(雇われて給料・賃金を得ている者)数も女性の減少幅は74万人だったのに対し、男性は32万人でした。
雇用形態別にみると、非正規雇用労働者の減少幅が大きく、特に女性の非正規雇用労働者の減少幅が男性より大きくなっていることが分かります。シングルマザーからは「収入が減少した」「生活が苦しい」という切実な声が上がっているそうです。
非労働力(就業者と完全失業者を合わせた労働力人口を除いた)人口も4月に大幅に増加。女性の増加幅は68万人と、男性の27万人に比べて大きくなっています。8月の女性の完全失業者数88万人は2015年10月以降で最多を記録しました。
産業別就業者数では、女性は「飲食」「製造」「生活、娯楽」「小売」の減少幅が大きくなっています。
ドメスティック・バイオレンス(DV、家庭内暴力)の相談件数は今年5~6月、前年同期比の約1.6倍に増えました。
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの相談件数も今年4~9月の累計で前年同期比の15.5%増になり、予期せぬ妊娠の増加が懸念されています。
今年10月の自殺者数も女性は前年同月に比べて385人増と、男性の増加幅に比べて大きくなっています。
“女性不況”どころか“女性受難”
コロナ危機で“女性不況”どころか“女性受難”が浮き彫りになっています。米大手コンサルティング会社マッキンゼーの報告書によると、女性の仕事は男性の仕事よりもパンデミックに対して1.8倍脆弱です。女性は世界の雇用の39%ですが、失業の54%を占めていました。
女性の困難や障害を取り除く政策は経済のみならず社会全体にとっても良い政策だとマッキンゼーの報告書は強調しています。コロナ危機を逆バネにして男女共同参画に近づく努力が今こそ求められています。
(つづく)