Yahoo!ニュース

音楽プロデューサー・本間昭光の音楽はなぜ人を惹きつけるのか--晩秋の奇跡のセッション「本間祭」を観て

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
Photo/岩橋仁子
画像

音楽プロデューサー・本間昭光とは?

先日書いた野宮真貴さんの記事の中で、偉大な作曲家・バート・バカラックの事に触れ、彼が作る音楽は“至福感”に溢れていると表現した。バート・バカラックの音楽は、イントロから、なんだかわからないんだけど、シアワセな気持ちにさせてくれる。そんな感覚を先日(11月27日)、東京・NHKホールで行われた『本間祭2015 ~これがホンマに本間の音楽祭~』で感じさせてもらった。

音楽プロデューサー・本間昭光生誕50周年祭として行われたこのライヴ、とにかく素晴らしかった。音楽とは楽しく、幸せな気持ちにさせてくれるものということを、改めて教えてくれた。本間昭光と聞いてもわからない人もいるかもしれないが、ポルノグラフィティの「アポロ」「サウダージ」「アゲハ蝶」他一連のヒット曲の作・編曲を手掛けたり、SMAP、KinKi Kids、広瀬香美、JUJU他数えきれないほどのアーティストへ楽曲の提供、アレンジを手掛けている。また、2009年からはいきものがかりのプロデューサーとして「ありがとう」('09年)など数々のヒット曲のアレンジを担当。同グループのライヴのバンマスとしても活躍している。ももいろクローバーZのライヴのバックバンドのキーボーディストとしても有名。更に『水曜どうでしょう』(HTB)の予告編のBGM、NHK Eテレのアニメ『境界のRINNE(りんね)』などテレビの音楽も手がけ、現在、TBS系のオーディション番組『Sing!Sing!Sing!』の審査員としても出演中--と、書き切れないほどの作品と実績を残している売れっ子プロデューサーだ。そんな本間の生誕50周年を記念して行われたのが『本間祭2015 ~これがホンマに本間の音楽祭~』だ。

ポルノ、いきもの他豪華アーティストと、日本を代表する音楽プロデューサー陣が一堂に会し、奇跡のセッション

ミュージカル「花より男子」キャスト
ミュージカル「花より男子」キャスト

ゆかりのあるゲストが次から次へと登場し、豪華な一夜になったが、なんといってもこの日、ゲスト以上に目立っていたのがバンドから放たれる音だった。村石雅行(Dr)、根岸孝旨(B)、林部直樹(G)、宗本康兵(Key)、坂井“Lambsy”秀彰(Per)、柏木広樹(Cello)、NAOTO(Violin)、真部裕(Violin)、竹上良成(Sax)、佐野聡(Trombone)他、計16人の凄腕ミュージシャンが顔を揃え、本当に素晴らしい音を聴かせてくれた。

ももいろクローバーZ(佐々木彩夏、高城れに)
ももいろクローバーZ(佐々木彩夏、高城れに)

ライヴには、本間が来年初めてチャレンジするミュージカル『花より男子』のキャストが駆けつけ、劇中歌を披露したり、武藤彩未、ももいろクローバーZ、藤井隆、広沢タダシ、いきものがかかり、そしてポルノグラフィティらが次々と登場し、本間ソングを披露した。

武藤彩未
武藤彩未

アーティストの豪華さもさることながら、この日はそうそう観ることができないであろうシーンが繰り広げられていた。それは日本を代表する音楽プロデューサー陣が勢ぞろいしたのだ。松任谷正隆、武部聡志、島田昌典、亀田誠治という日本の音楽シーンを牽引する大御所ヒットメーカーが一堂に会し、しかも演奏してくれるという、音楽ファン垂涎のシーンが続いた。

いきものがかり
いきものがかり

いきものがかり「ありがとう」では島田昌典がオルガンで参加し、圧巻のプレイを見せてくれたり、「YELL」では松任谷正隆が登場し、ピアノを披露。その、情感がにじみ出るピアノの音に会場中が聴き入っていた。本間がエレピに回り、この日一番の笑顔、しかし緊張しているようだった。それもそのはず本間は'88年、大学在学中に松任谷が主宰していた音楽専門学校「マイカ音楽研究所」の門を叩き、音楽の世界への第一歩を歩み出した。いわば子弟関係で、師匠との共演を果たしたわけだ。

ポルノグラフィティ
ポルノグラフィティ

ポルノグラフィティの代表曲のひとつ「ハネウマライダー」では、亀田がベーシストとして登場。実は「ハネウマライダー」のレコーディングには亀田と、この日のドラム・村石が参加していて、オリジナルメンバーによるオリジナルアレンジで聴けるという貴重なものだった。亀田のベースが弾き出す太い音が、まさにハネるように、うねるように響き渡っていた。

藤井隆 広沢タダシ
藤井隆 広沢タダシ

本間が昔擦り切れるほど聴いて、何枚も持っているという松任谷由実のアルバム『PEARL PIERCE』('82年)の中でも、特に好きだという「夕涼み」を披露する時には、松任谷、そして武部がエレピで参加。ボーカルは藤井隆と広沢タダシ。松任谷にその才能を見出された本間は、大阪から上京し、武部の元で武者修行を始めた。武部に本間を託したのは松任谷だった。そんな師匠二人としかも自分が愛してやまない「夕涼み」を演奏するという、本人はもちろん、そして観ている側もグッとくるシーンだった。武部のエレピはまるで歌っているかのような、しっかりと主張する表情ある音色だった。

「リフレインが叫んでる」を歌うポルノグラフィティ・岡野昭仁
「リフレインが叫んでる」を歌うポルノグラフィティ・岡野昭仁
「リフレインが叫んでる」をオールキャストで
「リフレインが叫んでる」をオールキャストで

続いて、同じく松任谷由実のヒット曲「リフレインが叫んでる」では、引き続き松任谷と武部がバンドに残り、歌うはなんとポルノグラフィティの岡野昭仁。そのあまりの圧巻のボーカルに、客席が息を飲むのが伝わってきた。2コーラス目からは、いきものがかり・吉岡聖恵をはじめこの日出演していたボーカル陣が参加し、盛り上げた。

本間の人間性=優しさ、温かさが一音一音から感じられる極上の音

「ナンダカンダ」/いきものがかり水野良樹、藤井隆、ポルノグラフィティ新藤晴一
「ナンダカンダ」/いきものがかり水野良樹、藤井隆、ポルノグラフィティ新藤晴一

通常のライヴレポートなら、サプライズゲストでももクロが登場したとか、ポルノグラフィティ・新藤晴一と、いきものがかり・水野良樹のギターバトルとか、本間とは全く関係ない藤井隆「ナンダカンダ」を、藤井が新藤と水野共に披露したとか、そんなトピックス的な事をメインに取り上げるべきかもしれないが、それは他の音楽サイトに任せて、ここではあくまでも“音目線”であの奇跡の一夜を振り返りたいと思う。全曲基本的にはオリジナルアレンジで、それがとても“心地良かった”。その曲を最初に聴いた時のいい意味でのショック、感動はその時のままの記憶として鮮明に残っている。だから原曲のアレンジで聴かせてくれると、聴き手は記憶がくすぐられて嬉しい。でも演奏する側は難しい。しかしこの日のバンドは完璧だった。そして全ての楽器から弾き出される音、ストリングスもホーンも全ての音がとにかく“優しかった”。それはやはり本間昭光の温かさ、優しさ、その人間性とロマンティシズムが音から溢れていた。だから4時間近かったライヴも、全く疲れを感じず、まるで包み込まれているような、いつまでも聴いていたい、そう思わせてくれる音だった。そんな音の感じをズバリ表現してくれたのが、ライヴ後の島田昌典のTwitterでのつぶやきだ。「昨日の本間昭光さん生誕50周年記念、本間祭、多幸感溢れる素晴らしい、いやバラスーシな時間でした! 本間さんの紡ぎ出す音はファンタジーに溢れ、夢の世界に連れて行ってもらえます」--まさにそう。夢の世界に連れて行ってくれるという感覚は、心地よくさせてくれるということだ。それが冒頭でも書いた“至福感”だ。その曲を聴いて、“いい”と思う感覚というのは、もちろんメロディの素晴らしさ、共感できる詞、歌い手の声の良さ、歌の上手さなどがひとつになって感動に変わるのだと思うが、ひとつにまとめているのが、アレンジ、プロデュースだ。イントロ、間奏、アウトロ、楽器ひとつひとつのフレーズが本当に重要になる。これが幾重にも織り重なり、メロディや詞と相まって名曲として完成される。まさに縦の糸と横の糸とで紡いでいく感じで、それを卓越したセンスで紡いでいくのが本間昭光なのだ。

とにかく音楽を楽しむその姿勢が、音を通して人々の心をシアワセにする

いきものがかりのライヴなどで観る本間は、本当に楽しそうに演奏している。この日はいつも以上にそうだった。音を楽しむ、という音楽本来の意味を味わっているかのようであり、伝えているようでもあり、プレイしている姿を観ているだけで幸せな気持ちになれる。それは当然の音にも出る。だから聴き手は多幸感に包まれるのだ。

本間昭光が作るメロディ、サウンドはこれからも聴き手の心を豊かに、そしてシアワセな気持ちにしてくれるだろう。そして同時に音楽が持つ本来の意味、とにかく楽しいものなんだ、ということを多くの人に伝える伝道師として、ますます活躍してくれそうだ--そう感じさせてくれた秋の晩(くれ)の素晴らしいライヴだった。

画像

【SET LIST】

1.HTBスペシャルドラマ『ミエルヒ』のテーマ/本間昭光、祭バンド(インスト)

2.TEAM NACKS舞台『下新井兄弟のスプリング、ハズ、カム』のテーマ/〃

3.ミュージカル『花より男子』のテーマ/本間昭光、『花より男子』キャスト

4.「ANSWER」(槇原敬之)/広沢タダシ

5.「EACH OTHER」(〃)/〃

6.「幸せになりたい」(広瀬香美)/武藤彩未

7.「泣いちゃいそう冬」(ももいろクローバーZ)/武部聡志、ももいろクローバーZ

8.「絶望グッドバイ」/武部聡志、藤井隆

9.「ナンダカンダ」/藤井隆、新藤晴一、水野良樹

10.NHKアニメ『境界のRINNE』バトルテーマ/新藤晴一、水野良樹、武藤彩未

11.「ありがとう」/いきものがかり、島田昌典

12.「YELL」/松任谷正隆、いきものがかり

13.「シスター」/ポルノグラフィティ

14.「カルマの坂」/〃

15.「ハネウマライダー」/〃、亀田誠治

16.「夕涼み」(松任谷由実)/松任谷正隆、武部聡志、藤井隆、広沢タダシ

17.「リフレインが叫んでる」(〃)/オールキャスト

本間昭光公式HP

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事