ソニーミュージックがライブ会場の祝い花を回収~再利用。エンタメ会社はフラワーロス問題とどう向き合う?
ライブや舞台、イベント会場のエントランスに飾られている祝い花のその後
ライブや舞台、イベント会場のエントランスに飾られている祝い花。写真を撮っている人も多い。いつも思うのは、送り主からの開催へのお祝いの気持ちをアーティストや出演者に伝え、エントランスでお客さんを出迎えたこの花たちは、その後どうなるのだろうということ。もちろんその一部はアーティストやマネージャー、スタッフ等が持ち帰ったとしても、残りはきっと廃棄されてしまう。エンタメ業界だけでも年間どれくらいの花が廃棄されているのか――ちなみに生花店では仕入れた花の30~40%が廃棄され、経済損出は年間1500億円にもなるというデータがある。
このフラワーロス問題は、コロナ禍でライブやイベント、冠婚葬祭や学校の式典などが軒並み中止や延期になったことで、行き場を失った花達が大量廃棄されていることがきっかけで注目され始めた。もちろんこれだけがフラワーロス問題の原因ではない。それ以前から業界では大きな問題になっていた。
SMEがライブやイベント会期終了後の祝い花の回収・活用をスタートさせ、注目を集めている
そんな中で、数多くのアーティストが所属する総合エンタテインメントカンパニー・ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)のサステナビリティグループ・サステナビリティ推進部が、日本サステナブルフラワー協会をパートナーとして、ライブやイベント会期終了後の祝い花の回収・活用をスタートさせ、注目を集めている。
「6月から9月までで、まずは自社でマネージメントを行なっているアーティストの公演7件で合計57基、重量にすると100キロ以上花を回収できました。7月以降はグループ会社のソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)との連携もスタートさせ、お笑いライブでも花の回収を行なうなど、毎月数件ずつ安定して回収ができるようになりました」(SMEサステナビリティ推進部・神山薫氏)。
6月の緑黄色社会の横浜アリーナ公演を始め、錦鯉やJUJU、OKAMOTO’Sなどのライブ会場で回収。祝い花は1基あたり約30〜50本の生花が使われているのでこれまでに100キロを超える花を、ライブやイベント終了後、日本サステナブルフラワー協会・安永かおり氏とスタッフが速やかに回収した。
「今は毎週どこかの会場に伺っています。終演後にSMEの方にも手伝っていただきながら30分~1時間くらいで回収して、そのまま茅ケ崎の私達のアトリエ兼集積場に運びます。そこで、取引させていただいてる農家さんとか結婚式場さんから回収した花と一緒に、再利用のための作業に入ります」(安永氏)。
ロビーに飾られた祝い花だけではなく、楽屋花の回収も行なっている。しかし例外もある。
「ファンの方が有志や個人で祝い花を贈ることが増えていて、やはり特別な“思い”が込められているものだと思うので、それは回収していません」(安永氏)。
「エンタメ業界の一員としてサステナビリティや環境問題について会社として取り組み、どう社会貢献していくか。オリジナリティのある我々らしい活動とは何かを模索していた」(SME神山氏・竹村氏)
廃棄される花たちを再利用して新たな命を吹き込む――日本サステナブルフラワー協会はホテルやブライダル会場などと連携し廃棄される花を回収し、それを活用した空間装飾や商品開発、ワークショップなどを積極的に行ないフラワーロス問題に取り組んできた。そんな協会、安永氏とSMEが今年3月に出会い、これまで誰もが思っていたが、なかなか前に進まなかった問題が解決に向け急ピッチで進んでいった。
「エンタメ業界の一員としてサステナビリティや環境問題について会社として取り組みどう社会貢献していくか、オリジナリティのある我々らしい活動はなんだろうということを模索していました。そんな中での日本サステナブルフラワー協会さんとの出会いでした。この問題に関係するソニー・ミュージックグループの関係セクションにアナウンスしたところ、みなさんやはり“気になっていた”問題だったようで、快く協力してくれました」(神山氏)。
「一番近いところに取り組むべき問題があったという感じです。これまでペーパーレスや脱プラを推進したり、ゴミの仕分けを徹底したり、環境保全には会社として取り組んできました。もちろんはそれはそれで正しいことですけど、エンタメの会社がやるべきことが見つかったということを実感しています。このフラワーロス問題だけに限らず、エンタメ会社らしいことで何ができるのか、ということへのヒントになった取り組みだと思います」(SMEサステナビリティ推進部・竹村謙二郎氏)。
SME社内で、合同ワークショップやサステナビリティ啓発社内イベントを開催
回収した花をアップサイクルし、制作された装飾が既にソニー・ピクチャーズエンタテインメント社のオフィスエントランスに置かれたり、11月公開予定の映画の劇場用装飾に採用が決まっているなど、実用化されている。さらにソニー・ミュージックグループ内で合同ワークショップや、サステナビリティ啓発社内イベントを開催している。
「回収した後どうするのか、というアイディアがもっと必要になってきます。例えば回収した花を香りづけに使用したボタニカルドリンクを社内イベントで提供したり、キャンドル制作のワークショップなどを通じてフラワーロス問題や、サステナビリティの社内啓発を行なっています。今後はソニーグループ全体への展開や地域との連携もしていきたいと考えています」(神山氏)
将来的にはリサイクルした花をそのアーティストやタレントのライブ、イベント会場の装飾、ファン向けのノベルティなどに活用できるのでは、と教えてくれた。
「私達もボタニカルキャンドルを作ったり、花びらで染めた洋服やバッグも作っていて、ドライフラワーだけではなく、そういう花びらの色素を使ったかわいらしいアイテムなど、もっともっと色々なアイテムを作ることができると思いますし、アイディアを一緒に考えていきたいです」(安永氏)。
2018年協会設立。「生産者やお花屋さんはビジネスというよりも、みなさんやっぱりお花が好きでやっている方が多いので、フラワーロス・ゼロという意識をたくさんの方に広めたい」(安永氏)
安永氏は2018年頃から一人で花の再利用活動を始めた。しかし廃棄されてしまう花の膨大な量を目の当たりにして、一人では手に負えないと感じ2019年に同協会を立ち上げた。「取引先に声をかけたのがスタートでしたが、最初は勇気が必要だった」と語る。
「元々ウェディング関連の仕事に携わっていて、廃棄花を目の当たりにする機会が多かったのですが、お花がかわいそうだから何かできないかな?と思うだけで、最初はサステナブルやSDGsという言葉も知らなかったです。でも一人でなんとかなる問題ではないことに気づいて、本腰を入れてやらなければと思い、協会を設立しました。生産者やお花屋さんはビジネスというよりも、みなさんやっぱりお花が好きでやっている方が多いので、フラワーロス・ゼロという意識をたくさんの方に広めたいと思いました」(安永氏)
コンセプトは“re;bloom”。「お花を捨てなくてはならない心苦しさも減らしていきたい」(安永氏)
同協会のホームページには『re;bloom』=「再び咲く」というコンセプトと共に、『花を救い、地球上の廃棄量を減らす』ということだけではなく、お花が大好きなお花に携わる方々の、捨てなくてはならない心苦しさも減らしていきたいと思っています」という言葉が紡がれている。
この、花の鑑賞価値を最大限に活かす取り組みに賛同する人は年々増えている。花を会場から移送し、処理をする部分は大部分で手作業が必要になるので、アトリエのある・茅ヶ崎で手伝ってくれる人を募ると同時に、協会では花を救う「リブルームアーティスト」の育成にも注力している。ボタニカルキャンドル作りの方法やフラワーロスについての座学などのコースを用意し、そこには、ただモノ作りを伝えていくだけではなく環境問題や好きを仕事にしていくための座学も含まれている。
「フラワーロスの根底にあるのはゴミ問題。一過性のものではなくルーティーンにしたい」(安永氏)
「例えば地方にも私達と同じ動きができる方が増えれば、もっと活動が広がります。『リブルームアーティスト』の育成もそのためです。様々なロスをなくそうという考えかたや動きは、今トレンドのひとつとして取り上げられることも多いと思いますが、続けていくことが一番大事です。今回のSMEさんとの取り組みもそうです。啓蒙活動をして理解をしていただき一過性のものではなくルーティーンにしたい。お花がかわいそう、もったいないという思いで始めたことですが、根底にあるのはシンプルにゴミ問題なんです。地球温暖化の問題につながっていることに多くの人に気づいて欲しいし、理解して欲しいです」(安永氏)。
ファンとアーティストを結ぶツールになる可能性
ライブ、イベント会場を彩る祝い花の再利用は始まったばかりだが、例えば一期一会のライブを映像商品だけではなく、色褪せない想い出として残すアイテムが作られ、ファンとアーティストを結ぶツールになる可能性も考えられるなど、様々な形で花達が“re;bloom”し、再び多くの人に感動を与えそうだ。