パナソニック熊谷移転。新リーグへの影響は?【ラグビー雑記帳】
国内トップリーグで過去優勝4回のパナソニックが7月14日、埼玉県ラグビー協会(県協会)と共同で会見。埼玉県は熊谷ラグビー場に隣接する新たな施設の概要を説明している。2021年8月には、現在の拠点である群馬県太田市から新天地に移る。
飯島均ゼネラルマネージャー(GM)が熱弁を振るう。
「太田市へ感謝の念はあります。じゃあ何でここ(熊谷)へ来るんだ、と。それを端的に伝えるのは尊敬する(同部の)ロビー・ディーンズ監督の言葉です。『変化することのみが唯一の不変である』。これは世の中の真理。感情的には離れる、代わるのは寂しいが、リーダーはある時には決断しなければならないと考えています」
熊谷ラグビー場は、昨秋のワールドカップ日本大会の会場のひとつだった。祭典の盛り上がりを継続させたい県協会が埼玉県へかけ合い、パナソニックと歩調を合わせながら今回の決定に至った。
このたび作る施設は、天然芝のラグビー練習場、管理棟、屋内運動場、宿泊棟だ。
グラウンド脇にできる管理棟はいわゆるクラブハウスで、ミーティングルームやトレーナー室、ロッカールームにジムなど、鍛錬に必要な設備が整う。
屋内運動場は高さ8メートルで人工芝が敷かれ、冬場のラインアウトセッションに最適か。さらに注目されるのは宿泊棟で、2階が安価で泊まれるカプセルルーム180室とシングルルーム9室で、3、4階がツインルームやデラックスツインルームなどの客室。2階は大会参加などのために遠征してきた学生クラブ、3、4階は海外の代表や国内トップレベルのクラブの利用が推奨される。
宿泊棟は、県内外を問わず一般客も利用できる。実はクラブハウス機能を持つ管理棟の1階には、やはり一般向けのカフェもできる。県協会は消費行動を促したい。
総工費約35億円は県協会が借り入れて負担。設計施工をパナソニックホームズ株式会社の埼玉支店が請け負い、完成した建物については県協会がパナソニックホームズ不動産株式会社が埼玉県協会と35年間の賃貸契約を結ぶ。
これで本拠地は、公式戦のあるグラウンドと間近になった。チーム関係者は「荷物の運搬が楽です」と冗談交じりに語るように、熊谷市にとってのパナソニックが海外リーグで見られるホームチームに近い存在となりつつある。
日本ラグビー界では、2022年1月から新リーグが発足予定。2018年夏に清宮克幸・日本ラグビーフットボール協会副会長が提案したプランは加盟クラブの法人化を義務付けるプロリーグだったが、現状では従来通りの企業クラブの参加も認められそう。トップリーグ及び下部リーグのクラブが次々にリーグ参入に手を挙げるようになったのは、その変化を受けてのこととも取れる。
しかし飯島GMは、「私たちとしては、新リーグが最初に話していた方向に行きたい」と自軍の将来像を語る。
「当面は(企業と連動した)ハイブリッド型でいくけども…ということ。経済、事業には波があり、スポーツがそういうところにさらされる現実を10年くらい見てきました。(今後は)企業の一本足打法ではなく地域性、事業性を持たないと。そのために必要なのがプロ化なのか、企業スポーツとのハイブリット型なのかについては確実な答えは持ちませんが、ただ私はプロに近い形(が妥当と考える)。お金が全てじゃないんだよ、というアマチュアリズムはラグビー界に脈々と残っているし、残さなければいけない、ただ、たくさんのお客さんに来てもらって、頑張っている選手が活動できる機会を与えていかなければ、発展性が見えてこない。埼玉県、県協会の皆さんとともに、少しでも前に進んでいければと思っています」
クラブの法人化が必ずしも求められない新リーグだが、どのチームでも参加できるわけではない。ホームスタジアムの確保や地域密着活動、さらには事業機能が求められる。会見では今度の移転と国内情勢の変化を絡めた質問が飛んだが、飯島GMはこのような道筋を明かす。
「(現状では)首都圏にチームがあり過ぎていて、スタジアムが私の知る限りありません。どうしていくのか、私も疑問であります。自画自賛になりますが、私たちは色んな新しいものに挑戦してきまして、今回もそのひとつ。これがひとつのモデルとなって、私たちと近いことができるチームが増えていくのを希望しています。全部を真似する必要はないですが、行政、地域と協力し、それぞれの独自のものを作っていただけたら」
新リーグ側は「コロナ禍のため積極的にホーム移転を勧められない」との立場を取るが、中長期的には全国各地に「おらがチーム」がある状態を理想としていそう。パナソニックのアクションが他クラブの情勢にいかに影響を及ぼすか。中長期的に注目されたい。