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スポーツ選手とギャンブル依存:健全な精神は健全な肉体に宿るのか

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
違法賭博問題での謝罪の様子(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

■バドミントンオリンピックメダル候補選手と違法賭博

世界ランキング上位の超一流バドミントン選手2名が、違法賭博問題を起こしました。メダルが期待されていたのに、リオオリンピックにも出場できません。

田児賢一選手(26)に対して、日本バドミントン協会は無期限の協会登録抹消の処分を決定。所属していたNTT東日本からは解雇されました。

桃田賢斗選手(21)は、無期限の競技会出場停止処分とし、リオデジャネイロ五輪に推薦・派遣しないことが決まりました。所属のNTT東日本からは出勤停止30日の処分を受けました。

二人とも、逮捕も起訴もされていないのに。賭博をした者は50万円以下の罰金、常習として賭博をした者は3年以下の懲役で、それほど重い犯罪でもないのにです。二人には同情論もあります。ただ違法賭博は反社会的勢力の資金源にもなっているため、しかたがないとする意見が多数でしょうか。

■スポーツ選手とギャンブル依存

スポーツは、基本的に良いことづくめです。体が健康になり、頭も良くなります。人間関係能力が鍛えられ、精神力も強くなるでしょう。近年の研究で、スポーツのすばらしさがさらに確認されています。しかし、どんなものでも、すべてにおいて良いものはありません。

スポーツ選手は、ギャンブル依存になりやすいという研究もあります。女子選手にはそのような傾向は見られなかったのですが、男子の場合には、競技スポーツへの参加によってギャンブルに近づきやすくなり、ギャンブル依存症にもなりやすい傾向があることがわかりました。

男子選手が、スポーツを通して学んだ、男らしく強くあることを誤解してしまうと、ギャンブルのおいても、無謀な大勝負に出てしまうこともあるでしょう。

スポーツ選手は、負けず嫌いの人が多く、勝利への強い意欲を持ちます。これは、とても良いことです。勉強にも仕事にも役立ちます。ところが、この勝負へのこだわりが、時にギャンブルにつながってしまうようです。

報道によると、田児選手は、一日に3度も賭博上にいくことがあり、負けが込んで、友人達にも多額の借金を作っています。これは、もう健康的にお小遣いの範囲で楽しむゲームとしてのギャンブルとは言いにくいでしょう。

また、スポーツで学ぶ上限関係の大切さは、サラリーマンになってからも役立つものですが、先輩から誘われると断りにくく、違法な行為まで行ってしまう面もあるでしょう。

大相撲の元関脇で、現在は11店の飲食店を経営している貴闘力さんも、かつてギャンブル依存症と診断されました。当時は、韓国カジノでバカラ賭博にはまり、1日に5千万円負け、最大5億の借金も作ったそうです。「どっぷりつかっているときは周りはどうでもよくなってしまった」と語っています。

一流のスポーツ選手は、若くして大金を手にします。おだてる人もいますし、お金を貸してくれる人もいるでしょう。そのために、ギャンブルに近づきやすくなる人もいるでしょう。

■ギャンブル依存とは

ギャンブル依存症(病的賭博)は、次のような段階で進みます。

1ゲームとして楽しんでいる段階。

2冒険気分、大勝ちした体験などを自慢する段階。自分はギャンブルが強く金儲けができると思い込んでいる時期。

3負けが続く段階。借金をしたり、職場や家庭でトラブルを続けます。それでも、ギャンブルをやめられません。

4絶望の段階。借金漬けとなり、失業、離婚も現実的になります。夜逃げや自殺を考える人もいます。

脳研究によると、普通なら外界の様々な環境に反応する脳が、ギャンブル依存になると、ギャンブルにでけ強く反応するようになります。ギャンブルのあの興奮が忘れられないという状態です。こうなると、他のことでは満足できなくなってしまいます。

ギャンブル依存は、特別な人だけの問題ではありません。ごく普通のサラリーマンや学生、主婦も、ギャンブル依存に陥ります。

今日は子どもの授業参観だから、今日だけはパチンコには行かないぞと思っていても、パチンコに行ってしまいます。家財道具を売り払っていく人もいます。会社の金にも手をつけます。ウソをついてお金を借りる人もいます。自分の商売よりギャンブルを大事にするようになり、店をつぶす人もいいます。

日本にはカジノはないのですが、日本はギャンブル依存の多い国です。

■過度なギャンブラー特有の錯覚

ギャンブルは、元締めが儲かるようにできています。しかし、ギャンブラーはそうは思いません。

・特別にラッキーな場所、ラッキーナンバー、ラッキーカラーなどがあると信じている。

・虫の知らせ、第六感がはたらくと信じている。

・自分の力で、ギャンブルの勝ち負けをコントロールできると信じている。

・ついてあるときがある(何か良いことがあればギャンブルにも勝てる)と信じている。

・自分のギャンブルスキルの過剰評価。人のギャンブルスキルの過小評価。自分は、人よりもギャンブルが強いので勝てると信じている。

こんなふうに思っている人は、要注意です。

さらに、

・負けが続いていることは、勝ちの前兆と感じる。

・ギャンブルを続ければ、いつか借金を返して儲けが出ると信じ深い追いする。

・損失の意味を変えて、授業料などと自分に言い聞かせる。

・負けた経験よりも勝った経験を覚えている。

このような考え方のゆがみは、誰もが持っているものですが、ギャンブルの深みにはまっていきます。

■健全な精神が健全な肉体に宿るか

「健全な精神は健全な肉体に宿る」。有名な言葉です。たしかにスポーツを通して体が鍛えられ、精神も鍛えられます。プロ選手やオリンピックを目指す人は、肉体も精神もすばらしい人です。並みの精神力で一流のスポーツ選手にはなれません。

しかし、スポーツにおいては並外れた精神力を示す選手達が、いじめや暴力事件を起こし、レイプ事件を起こし、違法薬物やギャンブルの問題を起こします。

体力があり、有名人でお金もあるからこそ、犯罪にはまりやすい面もあります。日ごろから勝負の世界に生きていたり、ジンクスを信じたりすることが、ギャンブルの世界にも影響することもあります。

「健全な精神は健全な肉体に宿る」は、実は祈りの言葉です。健全な肉体を作れば、健全な精神が自動的に宿るという意味ではなく、「健全な精神は健全な肉体に宿りますように」という祈りの言葉です。

祈りの言葉になると言うことは、そういうことがなかなか難しいというこでしょう。それは、古代から同じだったのでしょう。肉体的、社会的力を手に入れた人たちが、だからこそ健全な精神も持てるように、私達は祈ります。

祈りは、願いであり、行動を伴います。それぞれのスポーツ団体の取り組みが必要でしょう。依存症と診断されれば、医療や心理療法も必要です。そして、ギャンブル依存の克服には、家族の力が大切だとされています。

借金してまでギャンブルするのは、良くないことです。違法賭博はもちろんダメです。社会的制裁を受けるのも仕方がない面もあります。しかし、身近な人々が本人を責めたれば良いわけではありません。

本人もやめようとは思っていました。

「やめようと思っているのにやめられない心理の中には、自己嫌悪感や低い自己評価、孤独感があります。周囲の毅然とした態度は必要ですが、立ち直っていこうとする人を責め立てるのは、逆効果にもなります。」(「ギャンブル依存、アルコール依存、様々な依存の治療と回復への道:あなたのできること」Yahoo!ニュース個人有料)。

まだ若く有能な選手達の再起を願っています。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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