【野球】3年ぶりの対抗戦で東北地区の社会人・大学に球春到来。“二刀流”に挑む社会人選手もスタート切る
4月2日(土)、3日(日)の2日間、仙台市民球場(宮城県)で「東北地区社会人・大学野球対抗戦」が開催された。新型コロナウイルスの影響により、行われたのは3年ぶり。9チームが参加し、6試合を実施した。冷たい強い風も吹いたものの、青空が広がる中、東北地方にも“春”が訪れた。
■今年度中にスピードガン設置予定
宮城県野球協会の内海利彦会長は「ここ2年間はコロナでできず、その前の年(2019年)も初日の2試合は試合が成立したが、3試合目が7回で雨天コールドゲームになった。2日目は大雪で中止。今回は6試合を無事に消化でき、よかったです」と安堵した。参加した各チームには「シーズンの始まりになる今大会を糧に、各種大会の健闘を祈ります」と今季の飛躍を期待した。
会場となった仙台市民球場はこの冬でリニューアルした。メインは、全面人工芝の、内野部分とファウルゾーンの人工芝を張り替えたこと。誰もが目にするスコアボードの一部の変色も改善された。また、三塁側駐車場には防球ネットが取り付けられ、球場から飛び出したファウルボールが車に当たりにくくなった。内海会長は「市にはいろいろとお願いした」と話し、改修工事の実施に感謝。今年度中にはスピードガンが取り付けられる予定になっており、「市民のためにさらによりよい球場になるようにやっていきたい」と意欲を見せた。
■試合結果
参加したのは次のチーム。
[社会人]
トヨタ自動車東日本(岩手)、日本製紙石巻(宮城)、七十七銀行(宮城)、きらやか銀行(山形)、TDK(秋田)
[大学]
仙台大(仙台六大学)、富士大(北東北大学)、青森大(北東北大学)、東日本国際大(南東北大学)
結果は以下の通り。
4月2日(土)
《日本製紙石巻×仙台大》
仙台大 001 000 001 = 2
石 巻 000 013 00× = 4
(仙)長久保、須崎、向坂―坂口
(石)秋田、宮内、塚本―井町、水野
[二]小野(石)
[三]鹿野(仙)
[盗]川島、辻本(仙)
《七十七銀行×東日本国際大》
七十七 000 210 001 = 4
国際大 220 012 00×= 7
(七)和田、田邉、小林、森―渡邉、石井
(国)大山、寒河江、藤井―青木
[二]長谷川(七)佐々木、赤平(国)
[盗]根本2、的場(七)
《TDK×青森大》
青森大 000 000 000 = 0
TDK 202 000 00× = 4
(青)内山、庄司―石川一
(T)権田、川原、長谷川―佐藤哲
[二]伊藤、飯野(T)
[盗]名原2、玉置(青)山田、飯野、伊藤、夏井2
4月3日(日)
《富士大×TDK》
TDK 111 100 000 = 4
富士大 000 010 000 =1
(T)佐藤開、阿部将―奥村
(富)吉山、中岡、上條―坂本
[二]山田、三河(T)渡邉(富)
[本]奥村(T)
[盗]伊藤(T)
《富士大×きらやか銀行》
富士大 000 001 000 = 1
きらやか 000 200 00× = 2
(富)原田、大城、佐藤―坂本、外間
(き)武田、三浦―林健、大向
[二]石原(き)
[盗]麦谷(富)新井(き)
《仙台大×トヨタ自動車東日本》
トヨタ 000 100 000 = 1
仙台大 100 000 001× = 2
(ト)鷹羽、氏家、小谷、千葉―飯野
(仙)川和田、池田、武者、相原―坂口
[二]辻本(仙)
[三]田口(仙)
[盗]望月、桜庭(ト)
■TDKの高卒1年目・高橋入麻が「人生初」セカンドで“二刀流”への第一歩
2試合を戦ったTDK(秋田県)のセカンドを守ったのは、3月に秋田商業高校を卒業したばかりの高橋入麻(いるま)だった。高校3年の夏は背番号1を背負い、140キロ台の直球を投げ込んだ投手。社会人野球では野手からスタートし、将来的には投手を兼任する「二刀流」の道を歩む。
高橋は2日の青森大戦も、3日の富士大戦も「七番・二塁」で出場した。セカンドを守ったのは「人生で初めてです」。高校時代のポジションはピッチャーとセンター。3年生の春先、ちょうど1年前のこのくらいの時期に練習や練習試合でショートに入ることはあったが、本格的に守ったことはないという。
レギュラー選手の怪我や外野陣の層の厚さといったチーム状況もあったが、佐藤康典監督は高橋の将来を見据えて起用した。
「ちょっとだけショートをやっていた時も見ているんです。身体能力があるので、鍛えていくと、二遊間ができるんじゃないかな、と。足の速さも、肩の強さもあるし、グラブさばきもいい。彼の今後の野球人生を考え、今、セカンドで鍛えているところです」
ここまで、社会人チームとのオープン戦ではDHで出場していたが、大学生との試合でセカンドデビュー。ポジションが変われば、景色が変わる。「全然、違います」と新鮮さを感じながら、無難にこなした。
七番に入った攻撃では、富士大戦でマルチ安打。2回の無死一塁でセンター前ヒットを放って後続につなげると、2-0の3回、二死二、三塁でセンターへタイムリー。2打席連続安打に「ずっとヒットが出ていなかったので、安心しました」と一塁ベース上で笑みをこぼした。
昨夏の秋田大会では準決勝で敗れたが、最後の試合も「二番・投手」で1試合を投げ抜き、打っては5打数3安打だった。左中間への三塁打と、左安2本。初回のサードライナー、最終打席の遊ゴロも含め、左打席から逆方向へ打球を飛ばした。
「社会人投手のボールのキレには苦しんでいますが、打席に立たないと慣れない。試合で使わないと育ちませんから。結果が出ないからといってベンチに下げるのではなく、目を瞑りながら育てています」と佐藤監督。高校野球の金属バットから、社会人野球の木製バットに変わっても対応力の高さを見せており、「バッティング技術は一級品なので、社会人のボールに慣れてくると、やると思いますよ」と、指揮官は楽しみな様子だ。
■背番号11でTDKの大黒柱に
TDKでの背番号は「11」。昨年のドラフト会議でオリックスから7位指名された小木田敦也投手が付けていた番号を、佐藤監督は「秋田出身の高卒投手として、小木田に続くピッチャーになってもらいたい」と与えた。だが、打力も捨てがたく、「“二刀流”をやらせようと思っています」と指揮官。まずは野手からスタートし、徐々に投手の割合も増やしていくプランだという。
「野球センスは抜群です。将来的には上(プロ)の世界を目指しているでしょうから、どちらで狙えるか。ただ、大谷(翔平、エンゼルス)君くらいの体格があればいいんでしょうけどね。174センチしかないので(笑)。でも、バッティングがよくなっていくとピッチャーとしても成長していくと思う。DHを使わずに試合ができると面白いなと思っています」(佐藤監督)
打席数を重ね、社会人のボールを体感することは「投手・高橋入麻」にとってもプラスになるはず。本人も「ピッチャーをやる時につなげたい」と意欲的だ。
社会人では異例の「二刀流」挑戦に、秋田商で3年間、指導した太田直監督も背中を押す。
「入麻の場合は特定のポジションを『守れます』ではなく、どこでもやっていかないといけないと思うんです。『僕はどこでもやります』というタイプの選手にならないといけない。与えられたところで上手くなり、成長していくのは彼のよさ。そういうことができる子はあまりいないので、そこが彼の武器だと思います」
進路に関しては、プロ志望届を提出するか、大学に進学するか、社会人で腕を磨くかを話しあったという。最終的には「より高いレベルで野球を続けた方が可能性が広がる。地元企業にお世話になるという決断をしました」と太田監督。昨年、都市対抗と日本選手権の二大大会に出場した地元・秋田のTDKに入社した。
硬式野球部の同期は6人。そのうち、5人が大卒で、高卒は高橋のみ。高校までは同年代とプレーし、対戦してきたが、これからは年齢に幅がある選手たちの中で、大人の階段を登る。「技術的にも精神的にも成長してもらいたいですね」と太田監督。高校2年の冬に投手として球威を上げるなど、上達も見せた一方、幼い一面があり、手がかかることもあったという。社会に送り出し、恩師は「どんなことがあっても諦めず、くらいついていってもらいたいですね」と期待する。
「うちの選手たちは大人で優しいですし、指導もしてくれる。一日一日が入麻にとっては勉強です」と佐藤監督。ここから本格的にはじまる、大人の“本気の野球”。その環境で喜びも厳しさも味わいながら、自律し、どんな選手になっていくのか。
「小木田さんは憧れの人。自分の力は(社会人では)全然だなと感じ、いっぱい、いっぱいですが、将来的には小木田さんのようにTDKの大黒柱になれるよう、頑張っていきたいです」(高橋)
そういえば…。「11」は”二刀流”大谷翔平選手の日本ハム時代の背番号でもある。
背番号「11」に恥じぬよう、そして、TDKの新たな「11」のイメージを付けられるよう。18歳の挑戦がはじまった。