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日銀のマイナス金利解除で始まった変動金利型住宅ローンの金利上昇と生活防衛の方法

高橋成壽お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA
銀行のイメージです(写真:イメージマート)

2024年4月17日付、住信SBIネット銀行のプレスリリースで短期プライムレートの引上げが2024年5月1日から実施されることがわかりました。住宅ローン貸出に強みを持つ同行の変動金利引上げをきっかけに住宅ローン金利はどのようになるのか考えていきます。

■変動金利チキンレースからの脱却

オオカミ少年のように、「上がる、上がる」と言われていた変動金利型住宅ローンの金利がついに上がり始めました。既にネット銀行の1つである楽天銀行はマイナス金利解除をきっかけに変動金利を引上げました。

続いては、住宅ローンに関してメガバンクに匹敵する貸出残高を誇る住信SBIネット銀行が変動金利型住宅ローンの金利根拠となる短期プライムレートを引上げました。短期プライムレートは銀行ごとに定めているため、今後他行は株主や利益を重視した追随、様子見の据置、シェア拡大を狙ったキャンペーン金利の引下げと判断が分かれそうです。

住信SBIネット銀行は住宅ローン残高は約10兆円(2023年10月30日プレスリリース)あり、メガバンクに匹敵する規模の住宅ローン貸付を行っています。もともとネット銀行では断トツの住宅ローン貸出残高であり、コツコツと低金利での顧客獲得を続けてきました。

メガバンクの1つである三菱UFJ銀行の住宅ローン残高は約11兆円(2023年3月期)であり減少傾向です。今回の住信SBIネット銀行の短期プライムレート引上げは、実質住宅ローン金利のプライスリーダーが金利引き上げに着手したと見ることができます。2024年3月期の資料は5月にならないと公開されませんが、既に住信SBIネット銀行が住宅ローン貸出残高では業界首位になっている可能性もありそうです。最大手が金利を引上げれば、二位以下も安心して金利を上げることができます。

今後は、メガバンクがどう動くかが注目です。物言う株主であれば金利上昇による利益獲得を求めるでしょう。住信SBIネット銀行に追随した他のネット銀行は金利を据え置くかキャンペーン金利と称して引下げることで、住信SBIネット銀行の新規借入のシェアを一定割合奪うことになるかもしれません。

いずれにせよ、各行の金利戦略が興味深い展開です。

■日本銀行のさらなる金利引上げの地ならし

筆者が特に関心を持っているのが、日銀の動向です。このところ、物価上昇の程度によっては金融政策を変更させるとアナウンスしています。

これは、1つには金融緩和を縮小あるいは終了させることを意味しています。もう1つは政策金利を引上げる可能性があります。両方同時あるいは時期をずらして行う可能性が高いと考えます。理由は、金融緩和と金利引上げはアクセルとブレーキの関係であり、両方同時に踏むことの意味がないからです。まずは金融緩和を終了させ、順次金利引上げに移る可能性が高いのではと考えます。

日銀総裁が植田氏に交代してから、わかりやすい政策決定となっているように思います。既に、2023年の消費者物価指数が3.1%上昇となりました。物価上昇に対応する金融政策は金利の引上げですから、近い将来、少しずつでも金利が上昇すると心しておくと良さそうです。

■対策は節約?銀行への投資?

住信SBIネット銀行は2023年3月期の純利益が199億円であり、貸出残高10兆円の貸出金利が0.1%上昇すると10兆円×0.1%=100億円の増益となります。単純計算で純利益が1.5倍になり、金利上昇が利益に与える寄与度が非常に大きくなります。

三菱UFJフィナンシャルグループは純利益が1兆円を超えており1兆1164億円あります。変動金利を0.1%上昇させても、利益は11兆円×0.1%=110億円と1%程度の寄与しかありません。

既に変動金利型の住宅ローンを借りている人は、銀行の株式を保有することで、変動金利の上昇とともに、株価の上昇によりある程度金利上昇の影響を緩和できる可能性があります。株式の保有額によっては、住宅ローンの返済額以上に株価が上昇する可能性もあり得ます。

実際に住信SBIネット銀行の株価は17日の金利上昇好評の翌日18日の株価が高くなりました。金融機関の規模によって、住宅ローン金利上昇による利益の増加額と、利益に対する貢献度が異なります。三菱UFJフィナンシャルグループのような巨大な金融グループは既に述べたように、住宅ローンの金利上昇に起因する利益上昇の影響が少なく、住信SBIネット銀行のように単体で上場している銀行では金利上昇の利益への寄与度が大きいため、金利変動に伴う利益の増減が大きくなりそうです。

銀行はコツコツ低金利で貸し出した住宅ローンから、金利を引上げることで利益をひねり出すことができる状況です。変動金利で住宅ローンを借りている人は、0.1%程度の金利上昇では借換メリットがなく銀行を変更することもできません。生殺与奪の権を握られているとまではいえませんが、常に家計に圧力がかけられる状況と言えます。

生活防衛のために節約するのも1つですが、金利上昇をプラスに転じるように、借りている銀行の株式を取得するのも対策と言えるでしょう。銀行や金融業界の株式を保有するETF(上場投資信託)に投資するのも1つのアイデアです。

※株式への投資検討の際は、各行の決算資料等投資家向けの資料を確認いただいたうえで、自己責任で投資なさってください。

給料が上昇し、住宅ローン金利の上昇を相殺してくれる日を待つのも1案。節約するのも1案、投資するのも1案です。金利のある世界では、自分の状況に合わせて戦術を変化させるような金融リテラシーが今まで以上に求められるようです。

なお、住信SBIネット銀行が短期プライムレートを引上げたとしても、世間の動向を観測するためで、実際に変動金利に影響がでるタイミングで、金利を戻す可能性もあります。ただ、銀行が本気で変動金利を上げ始めたことは間違いありませんので、変動金利で住宅ローンを借りている人は何らかの心構えが必要でしょう。また、これから家を買おうとしている人は、返済計画を見直した方がいいでしょう。

お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA

日本人が苦手なお金を裏も表も解説します。お金の情報は「誰がどんな立場から発信したのか見極める」ことが大切。寿FPコンサルティング、ライフデザインセンター代表。無料のFP相談・IFA相談マッチングサービスとして「ライフプランの窓口」「住もうよ!マイホーム」「アセマネさん」を運営。1978年生神奈川県藤沢市出身。慶応大学総合政策学部卒業後、金融関係のキャリアを経て有料FP相談を開始。東海大学では非常勤講師として実務家教員の立場から金融リテラシー向上の授業を担当。連載:会社四季報オンライン。著書:ダンナの遺産を子どもに相続させないで。メディア出演、メディア掲載多数。

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