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将棋界への影響も拡大。緊急事態宣言の延長でタイトル戦はどうなるか?

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 春の将棋界といえば、名人戦七番勝負だ。

 ここ最近は桜舞う『ホテル椿山荘東京』で第1局を行うのが恒例だった。

 しかし今年は新型コロナウイルスの影響で開幕が延期されている。

 先日、詳しいことは「将棋界にも緊急事態宣言の影響。タイトル戦は延期に、NHK杯はアンコール放送に」に書いた。

 その後、緊急事態宣言は延長され、影響は拡大する一方である。

 初夏の風物詩である竜王戦決勝トーナメントも開幕が遅れそうだ。中止が決まった棋戦も出てきている。

タイトル戦への影響

 日本将棋連盟は5月8日に緊急事態宣言延長の発表を受けてという文書を発表した。

 主な内容としては、4月11日から続けている制限を5月31日まで延長するというものだ。具体的には、

  1. 東西交流等、対局者の長距離移動を含む公式戦の対局は引き続き延期とし、6月1日以降に実施する。
  2. 東京・将棋会館、および関西将棋会館における対局を1部屋1局以下に抑える。

 この2点だ。特に影響が大きいのが1である。

 この制限により、タイトル戦が軒並み延期になっている。

 第78期名人戦七番勝負、第5期叡王戦七番勝負、第31期女流王位戦五番勝負の3棋戦は、いずれも4月の時点で開幕を延期しており、再度の延期という形になった。

 どのタイトル戦も6月の開幕を目指しているが、こればかりは社会情勢がどうなるか、それに依るだろう。

王位戦と棋聖戦

 挑戦者を決める戦いが佳境の2棋戦も、再開できずにいる。

 いずれも藤井聡太七段(17)があと2勝すればタイトル戦登場となる。

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 王位戦はリーグ最終一斉対局を前に中断となっている。

 白組では藤井七段が4戦全勝でトップだ。最終戦、そして紅組優勝者との挑戦者決定戦に勝てばタイトル挑戦となる。

 ただ、藤井七段は愛知県在住のため、先ほどの「対局者の長距離移動を含む公式戦の対局は引き続き延期とし、6月1日以降に実施する」に該当しており、5月31日までは対局できない。

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 棋聖戦は準決勝の2局が行えず、中断となっている。

 王位戦紅組で4戦全勝の永瀬拓矢二冠(27)が勝ち上がっており、藤井七段と同様、棋聖戦と王位戦を並行で戦っている。

 永瀬二冠は叡王戦七番勝負の防衛戦も6月以降に延期となっており、全面再開後はかなりのハードスケジュールになりそうだ。

 しかしながら、いくらハードスケジュールといっても体力の問題もあり、連日のように対局するわけにはいかない。

 そのため、多くの棋戦で勝ち上がっている棋士が複数いればそれだけ対局日程は混迷を極める。

 6月1日に全面再開できたとしても、大きな影響が出ることは間違いない。

竜王戦

 初夏の将棋界といえば、竜王戦決勝トーナメントの季節だ。

 例年6月下旬に始まり、9月上旬までには挑戦者が決まる。

 しかし各組の準決勝・決勝が中断しており、決勝トーナメントの開幕がずれこみそうだ。

 そして決勝トーナメントに参加するのは、他の棋戦でも勝ち上がっている棋士が多い。

 必然的にトーナメントの進行にも影響が出ることが予想され、例年通り9月上旬までに終えられるか、微妙なところだ。

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 先日、1組決勝が行われ、羽生善治九段(49)が佐藤和俊七段(41)に勝って優勝を決めた。

 その羽生九段は決勝トーナメントの一番左に入り、挑戦者決定三番勝負まであと1勝の位置だ。

 また、藤井七段が3組決勝で師弟対決を制すれば右のヤマに入る。挑戦者決定三番勝負まで3勝の位置だ。

 挑戦者決定三番勝負で羽生九段と藤井七段がぶつかる可能性もある。

 まだトーナメントのスタートまで時間がかかる状況ではあるが、そんなことも考えながらお待ちいただきたい。

その他棋戦について

 以前の記事にも書いたNHK杯トーナメントは、本日今期の出場女流棋士決定戦(里見香奈女流四冠ー西山朋佳女流三冠)をアンコール放送した。

 NHKのHPと本日放送分の告知によると、次回(5月17日放送)は、平成元年2月5日に放送された加藤一二三九段―羽生善治五段(当時)を再放送するようだ。

 この対局は、伝説の「▲5二銀」が出た一局として知られている。

 また、第10期加古川青流戦は主催の加古川市の方針により、中止となった。

 新型コロナウイルスの影響で棋戦が中止になったのは初めてのケースだ。

 残念ではあるが、この社会情勢では仕方ない。

 むしろ、この社会情勢において引き続き各棋戦を主催いただいている各社へは感謝の念に堪えない。

 先ほどの日本将棋連盟の発表の中で、「東京・将棋会館、および関西将棋会館における対局を1部屋1局以下に抑える」という項目があり、安全を確保しながら通常よりもかなり少ない対局数で公式戦が続けられている。

 5月は順位戦がお休みで対局が少ない時期だ。

 今年はオリンピックの対応で棋戦が前倒しで進行されてきたのも幸いしている。

 しかし順位戦が開幕すると対局数も大きく増えるため、もう一度延長ともなれば今年度の予定を全て消化するのは難しいかもしれない。

 順位戦の開幕は6月11日のB級1組順位戦だ。

 それまでに社会情勢が落ち着き、安心して対局ができる日々が戻ってきてほしいが、それはもはや願望に近いかもしれない。

 場合によっては、日程、場所、持ち時間等、あらゆる可能性を考慮に入れる必要がありそうだ。

 一棋士として、ファンの方にとって満足のいく形で、かつ主催の各社が将棋界を応援してよかったと思える形で対局が続いていくことを願っている。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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