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将棋界にも緊急事態宣言の影響。タイトル戦は延期に、NHK杯はアンコール放送に

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 将棋ファンにとって日曜朝の楽しみであるNHK杯将棋トーナメント。

 次回からはしばらくアンコール放送になると公式サイトで告知されている。

 緊急事態宣言が出て以降、将棋界では安全面がクリアできた公式戦の対局は続けられているものの、各棋戦で延期が相次いでいる。

 NHK杯将棋トーナメントもその影響が出た格好だ。

 現在、各棋戦においてどのような影響が出ているのか、また今後どのような影響が出そうか、具体的にみていく。

タイトル戦

 将棋連盟は4月8日に緊急事態宣言を受けての対応という文書を発表した。

 その中で、

東西遠征等対局者の長距離移動を含む公式戦の対局は、原則5月7日以降に延期する

出典:緊急事態宣言を受けての対応

 とある。それにより、各タイトル戦で延期を余儀なくされている。

  • 第78期名人戦七番勝負は、第4局を予定していた5月19・20日を開幕局として調整中
  • 第5期叡王戦七番勝負は、第2局までが延期になり、それ以降は現在調整中
  • 第31期女流王位戦五番勝負は、第1局が延期になり、それ以降は現在調整中
  • 第13期マイナビ女子オープン五番勝負は、第2局から対局場を東京・将棋会館に変更して継続中

 対局者がどちらも関東所属のマイナビ女子オープンだけは、対局場を東京・将棋会館に変更してタイトル戦を継続している。

 しかし、他の3棋戦はいずれも対局者の所属が関東と関西に別れているため、対局場を変更しても継続することは難しい。

 タイトル戦に大きな影響が出ているのが現状だ。

NHK杯将棋トーナメント

 NHKは7日に、「ニュースなどを除いて外部からの出演者を入れた収録や生放送を当面見合わせる」と発表している。

 そのため、NHK杯将棋トーナメントも対局の収録が行えない。

 本日(26日放送)分をもって収録のストックがなくなったようで、次回(5月3日放送)は前期の決勝戦(深浦康市九段ー稲葉陽八段)をアンコール放送する。

 また、次々回(5月10日放送)は今期の出場女流棋士決定戦(里見香奈女流四冠ー西山朋佳女流三冠)をアンコール放送することを、それぞれ公式サイトで発表している。

 現在、5月17日(日)以降は公式サイトでは「未定」となっている。

 将棋ファンの日曜朝の楽しみとして長年愛されている番組なだけに、将棋の放送が中断されないよう願っている。

王位戦への影響

 現在進行している棋戦では、第61期王位戦と第91期ヒューリック杯棋聖戦が挑戦者を決める直前まで進行している。

 王位リーグは2つのリーグとも4回戦まで終了している。

 白組では藤井聡太七段(17)がトップに立っており、リーグ最終戦に勝てば挑戦者決定戦にコマを進めることになる。

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 リーグの最終一斉対局は前週に予定されていたが、全局延期になった。

 延期を必要としない対戦もあったのだが、リーグの最終戦ということで公平さを保つために全局延期という処置になったようだ。

 今年はオリンピックの対応で、公式戦全体が前倒しで進められていた。

 王位リーグも、昨年は最終一斉対局を5月23日に行ったのだが、今年は4月中旬に予定されていた。

 そのため、5月7日以降に先ほどの制限が解除されれば、リーグ最終戦と挑戦者決定戦のスケジュールは前年と同じくらいの時期に行えそうだ。

 そうなればタイトル戦への影響も、全くないとは言えないだろうが、限定的ですむだろう。

棋聖戦への影響

 第91期ヒューリック杯棋聖戦は決勝トーナメントのベスト4が出揃ったところだ。

画像

 片方のヤマは東西の棋士による対戦、もう片方のヤマは藤井七段が勝ち上がっている。

 藤井七段は愛知県在住のため、先ほどの「対局者の長距離移動を含む公式戦の対局は、原則5月7日以降に延期する」に該当しており、5月6日までは対局できない。

 どちらのヤマも準決勝が延期となっている。

 昨年の第90期ヒューリック杯棋聖戦は、4月26日に挑戦者決定戦を行い、6月4日にタイトル戦が開幕している。

 5月7日以降に先ほどの制限が解除されたとしても、準決勝・挑戦者決定戦とこなす必要があるため、タイトル戦にまで大きな影響が出そうだ。

 藤井七段は各棋戦で勝ち上がっており、多くの対局を控えている。

 竜王戦ランキング戦3組では、師匠の杉本昌隆八段(50)と決勝での対戦が決まっている。

 藤井七段は、対局再開後にかなりタイトなスケジュールをこなすことになりそうだ。

 また、高校生のため学校が再開されれば当然ながら通学もある。

 2019年から爆発的な勢いで勝ってきた藤井七段だが、過酷なスケジュールで勢いに水をさされかねない。

その他棋戦への影響

 先ほどの日本将棋連盟の発表の中で、

東京・将棋会館、および関西将棋会館における対局を1部屋1局以下に抑える

出典:緊急事態宣言を受けての対応

 という項目があり、安全を確保しながら通常よりもかなり少ない対局数で公式戦が続けられている。

 とはいえ、順位戦がお休みの期間である4~5月は対局が少ない時期でもあり、例年とそこまで大きくは変わらない対局数だ。

 また、今年はオリンピックの対応で棋戦が前倒しで進行されてきたので、各棋戦のスケジュールには少しゆとりがある。

 そのため、順位戦開幕の6月中旬までに社会情勢が良くなっていれば、すべての棋戦にまで影響が及ぶことはないだろう。

 とはいえ、この状況が長く続けば棋戦運営において大きな影響が出ることは間違いない。

 将棋ファンにとって、公式戦を観戦し、贔屓のプロの勝敗に一喜一憂することは心のやすらぎになるはずだ。

 指すほうも観るほうも、安心して将棋を愛せる日々が戻ってくることを一棋士として願わずにはいられない。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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