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函館本線問題、道は沿線自治体に不条理な要求し「廃線は協議を積み重ねた結果」と主張 BSフジ全国放送

鉄道乗蔵鉄道ライター
羊蹄山と函館本線ニセコ駅(写真AC)

 2024年5月5日12時より、フジテレビの衛星放送「BSフジ」で、北海道を始めとした全国のローカル線問題をクローズアップした、サンデードキュメンタリー「今こそ鉄路を活かせ!地方創生の再出発」が放送された。

 この番組では北海道の鉄道問題が大きくクローズアップされ、北海道新幹線の並行在来線として2022年3月に廃止が決められた函館本線の長万部―小樽間についても取り上げられた。同区間は、北海道新幹線の札幌延伸開業に伴い、JR北海道から経営分離されることが確定している区間で、北海道庁が主導する並行在来線対策協議会では、密室協議の場で同区間を第三セクター鉄道ではなく、鉄道を廃止しバスに転換する方針が決定された。

 番組では、同区間が廃止の決定にいたったプロセスや、バス転換そのものについて問題視。路線の廃止を決めた協議の場には、地元のバス会社は呼ばれておらず、北海道庁は同区間の廃止を決めた1年後となる2023年5月になってようやくバス会社への相談を始めようとした。しかし、深刻化するドライバー不足から地元バス会社は鉄道代替バスの引き受けに難色を示し、協議は1年近くにわたってストップしたままとなっている。なお、沿線にバス路線網を展開する北海道中央バスはBSフジの取材に対して、特に輸送密度が2000人を超えている余市―小樽間のバス転換については「無理だ」と回答している。

道は沿線自治体に不条理な要求突きつけ、担当課長は「廃線は協議を積み重ねた結果」と主張

 BSフジでは、函館本線の長万部―小樽間の廃止を決定した経緯について、北海道交通政策局並行在来線担当課長の小林達也氏にもインタビューを実施。小林課長は、「(廃線は)北海道で決めたといえば、道と地域で決める話です。いわゆる山線に関しては財政的な負担だと思っている。そういう意味では道も沿線市町の皆さん、好き好んで鉄道を廃線にしたいということではなくて、当然いろんな思いを積み重ねた結果ということにやっぱりなるんじゃないでしょうか」と答えた。

 しかし、長万部―小樽間の廃止を決めた北海道新幹線並行在来線対策協議会は、北海道交通企画監の柏木文彦氏(当時)が座長を務め、鉄道の存続に向けて不利な資料のみが積み上げられ、何らデータの精査がなされることなく沿線自治体は、いわば鉄道の廃線か財政破綻の究極の2択を迫られるような形で、鉄道存続を断念せざるを得ない方向に持ち込まれたことが実態だ。

 北海道庁は、協議の場で、長万部―小樽間の鉄道存続のためには初期投資152.8億円に加えて、毎年、経常的に発生する赤字額が25億円。さらに、今後20年間で必要とされる大規模修繕費等64億円と車両更新費用62億円を沿線9市町のみでの負担を迫った。協議会では各市町での負担割合にまでは踏み込んだ議論は行われなかったが、これを9市町で単純に案分すると、1市町あたり初期投資だけで10億円以上、毎年の経常赤字だけでも2.7億円の負担となる。

 この金額については鉄道会社の規模や運営方法によって採算も大きく変わることから、高すぎるのではないかという指摘もある。例えば、余市ー小樽間の鉄道存続に向けて道が試算した初期投資額が45億円を上回り年間約5億円の赤字。30年間の累計赤字額が206億円という金額については、元JR北海道職員で余市駅を存続する会アドバイザーの吉村裕二さんは、番組インタビューで「正直言いましてびっくりしました。なぜこんなにかかるのか。(JR発足から)35年以上も減価償却の過ぎた施設が、なぜ45億4千万円になるのか、全く不思議に思いました」と答えている。

ニセコ町長「(鉄道を)残せるのもなら残したいというのが本当に本音です」

 ニセコ町の財政規模の目安となる一般会計予算額は、例年50億円程度で推移している。このうち、鉄道の維持に必要な予算を拠出するとするならば、土木費約6億円の予算の中から、初期投資10億円以上と毎年の経常赤字額2.7億円を負担できるのかという話となり、ニセコ町の財政規模では到底負担できる金額ではない。北海道庁は、こうした不条理な要求を沿線自治体に突きつけ、いわば財政破綻か鉄道廃線かという究極の2択を迫り、鉄道廃止の方向に協議を主導した。にもかかわらず、並行在来線担当課長の小林達也氏は「好き好んで鉄道を廃線にしたいということではなくて、当然いろんな思いを積み重ねた結果」だと主張する。

 BSフジではニセコ町の片山健也町長にもインタビューを実施。片山町長は「函館本線、歴史もありますし、沿線には尻別川があったり、羊蹄山、ニセコアンヌプリ、本当にあの風光明媚というか景色も素晴らしいんですよ。やっぱりこの交通を担っている価値をね将来につなげたい思いは強くありますね」「将来の価値につながっていくようなアクセスっていうのは、並行在来線も今あるものも大変重要だなというふうに思っています。いやこれはたぶん沿線の首長はみんな同じだと思いますけど、私も議会の場で残せるものなら残したいというのが本当に本音です」と答えた。

国は地方鉄道活性化に政策転換するも、道はバス転換以外の選択肢を排除する姿勢変わらず

 税金が投入される道路とは違って、鉄道は鉄道事業者が維持・管理をしなければいけない。第三セクター鉄道を設立する場合には、自治体側にも負担が生じる。しかし、2023年10月、「地域公共交通活性化再生法」の施行により、鉄道に対する国の政策姿勢に大きな変化が生じている。

 BSフジでは、国土交通省の田口芳郎大臣官房参事官にもインタビューを実施。田口氏は、「地域公共交通活性化再生法」について「地域が鉄道を単なる民間事業ではなく地域の重要な交通インフラと位置付けた場合には、そこに対して国が積極的に社会資本整備のお金を入れていく仕組みを作った」と答えている。

 しかしそれでも、北海道は終始一貫「廃線は決まったこと」として、バス転換以外の選択肢を排除する姿勢は変わっていない。

 さらに、番組では、北海道以外には、福島県の只見線や熊本県の肥薩線など全国のローカル線再生の事例についても紹介。このうち、福島県の只見線は、2022年10月に豪雨災害から11年ぶりに災害復旧を果たした。被災区間である会津川口ー只見間の被災前の輸送密度は49人であったが、福島県は只見線を日本一の地方再生路線とすることを目標に掲げ、さまざまな取り組みを行った結果、只見線沿線にはバスでは運びきれないほどの観光客が押し寄せている様子も紹介された。

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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