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そろそろニート、飽きてきた?

工藤啓認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長
若者正社員チャレンジ事業
若者正社員チャレンジ事業

財団法人東京しごとセンターから株式会社インテリジェンスが受託している「若者正社員チャレンジ事業」の広告がtwitterとfacebookで流れて来た(画像参照)。

経験のない20代の方が企業で実習することで、正社員として就職することを目指します。

出典:若者正社員チャレンジ事業Webサイト

ここで言う「経験のない」というのは正社員経験のことだと思われるが、企業実習を通じて正社員としての就職を目指す内容は比較的よく見られる就職支援事業であり、個人と企業が相互理解を高める上でも効果を見込めるものだと考える。

この事業では、15~20日間企業での実習をおこない、正社員を目指します。

最大10万円(20日間の実習の場合)をもらいながら、仕事を体験することができます。

資格も経験もいりません!

ご興味のある方は、お気軽にお問合せください。

出典:若者正社員チャレンジ事業Webサイト

しかも、実習中は条件を満たせば最大10万円(キャリア習得奨励金)をもらうことができるそうだ。実習を受け入れる企業にも「受入準備金」と「採用奨励金」が支給される。

参加要件も明確に記載されている。

参加できる方

大学等(※)卒業後3年以上経過かつ29歳以下の求職者で以下の要件のうちいずれかを満たす方

卒業後未就職の方

卒業後、非正規での就業のみの方

直近2年以内に正社員の職歴が通算1年を超えない方

※大学院、大学、短期大学、高等専門学校、専修学校または高等学校等

出典:若者正社員チャレンジ事業Webサイト

その上で、改めて広告に表現されている文言を見ていきたい。

・拝啓 ニート、フリーターの皆様

現在の若者政策の対象年齢は15歳から39歳までのものが増えてきており、それを前提とすると、対象となるニート、フリーターの数は推計900万人程度。そのなかの29歳以下で参加要件に当てはまる若者へ呼びかけている。

・今、やる気がなくてもこれから頑張ればいいんです。

現在の状況がどうあれ、就職サポートを受けるにあたっての土台が整っているのであれば、「これから」をどうしていくのか考え、行動に移していくサポートは重要だ。特に実習などは独力で企業を見つけることは難しい。一方、「やる気がない」若者となると、誰を対象としているのかが難しくなる。

正社員以外の在学していない若年労働者の今後の働き方の希望

正社員以外の在学していない若年労働者の今後の働き方の希望をみると、「正社員として働きたい」が 47.3%、「正社員以外の労働者として働きたい」が 28.7%、「独立して事業を始めたい」が 1.6%となっている。

性別にみると、男では「正社員として働きたい」が 62.2%、「正社員以外の労働者として働きたい」が 11.2%、女では「正社員として働きたい」が 40.0%、「正社員以外の労働者として働きたい」が 37.2%となっている。(表 26)

出典:平成25年若年者雇用実態調査の概況

やる気では括れないが、正社員として働きたい47.3%と独立したい1.6%と回答した以外の約50%が、今、(正社員として働きたい)やる気がなくても、この事業を知って「やってみよう」と思うなら精一杯応援するということだろう。あえて「やる気」という言葉を使っているのは、何かしらの奮起を促す意図があるのかもしれない。

また、ニート(若年無業者)のうち、求職型は仕事を探しているため、「やる気」という表現の外側にいる無業の若者としては非求職型と非希望型を示しているのだろう。

若年無業者にかかる理由で「やる気がない」「根性不足だ」という理由は項目もありませんし、読み取ることも難しい。もちろん、希望する仕事がなさそう、自信がない、といった項目から気力の有無を導き出すことができないとは思いませんが、そもそもの回答割合が小さく、10%-15%です。

出典:働かないの?働けないの?若年無業者について思うこと。

・そろそろニート、飽きてきた?

このキャッチコピーがもっとも考えさせられるものであった。筆者は10余年、無業の若者への支援活動をしてきたが「ニート」という状態から(正社員として)働くきっかけをつかむ動機が「飽き」であると考えたことも、聞いたこともなかったからだ。

ちなみに、「飽きる」の対義語・反対語は「凝る」であるが、ニート状態であることに凝っている、言い換えると、「あることに熱中し、心を奪われる。」とも考えられるが、むしろ、働けない状態を苦しく思っている若者が圧倒的多数であると実感する。

もちろん、これは広告的な拡散を狙ったものであり、たくさんの対象となる若者に情報を伝える。そしてこの若者正社員チャレンジ事業を活用してもらい、正社員就職のサポートをしていきたいという趣旨は理解できなくもない。ただ、このような表現を真に受けてしまうひとも存在し得るため、願わくばもう少し誤解のない表現で情報を発信してほしいものである。

認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

1977年、東京都生まれ。成城大学中退後、渡米。Bellevue Community Colleage卒業。「すべての若者が社会的所属を獲得し、働くと働き続けるを実現できる社会」を目指し、2004年NPO法人育て上げネット設立、現在に至る。内閣府、厚労省、文科省など委員歴任。著書に『NPOで働く』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『若年無業者白書-その実態と社会経済構造分析』(バリューブックス)『無業社会-働くことができない若者たちの未来』(朝日新書)など。

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