真珠養殖の温度管理や害獣対策…地域産業を学生がデジタル化、連携のヒントは
デジタル技術やデータを活用して新しい価値を創造する「デジタル化」の重要性は年々増している。鳥羽商船高専の江崎研究室では、学生と害獣対策や養殖魚の給餌といったプログラム作品を作り、作るだけではなく地域と連携して現場での活用を目指してきた。地域産業におけるデジタル化のヒントは、どこにあるのだろうか。学生のデジタル化へのかかわり方や地域との連携について、江崎先生へインタビューを行った。
現場を自身の目で見てアイデア出しをすることの意義
――江崎先生のゼミでは地域で必要とされている技術、地域で活かせる技術を多く生み出されています。地域との連携について、学生さんと地域でアイデア出しをするような機会を設けているのでしょうか。
「そうですね。できるだけ現場に学生を連れていき、地域で真剣に考えている大人と話をする機会をとっています。」
――それは、地域の方々にもメリットがあるのでしょうか。
「あります。よく言われるのは、「若い発想で~」みたいなことですが、そういう言い方は好きではありません。真剣に考えている人同士が意見をぶつけ合うことはすごく意味があることです。学生は、地域と関わってテクノロジーを活用して、少しでも便利にしたい、ということを目指してうちのゼミに入ってきます。地域側も「このままではダメでなんとかしたい」という思いがある人たちがたくさん居ます。ビジョンを持っている学生と地域の人たちという、お互いに真剣に話ができる人同士が話し合うことで、解決策が出たり、提案が出たりします。」
――現場で自分の目で見ることで初めて気付けることもありそうですね。
「ありますね。水産関係の課題に取り組むことが多いのですが、漁業が割と盛んな地域に住んでいても、実際にそれを見たことがある学生はあまりいないんです。現場に連れて行き、鯛の養殖で餌をあげているところを見て、「あ、こんなふうにあげているんだ」ということを知り、初めてわかることがたくさんあります。そういう気付きは現場に連れて行かないと無理ですね。」
チームを組む時の工夫は
――現場を見て課題が見えてきたあと、チーム編成をしていくのでしょうか。
「そうですね。30人くらいメンバーがいる中で、大きなテーマをいくつか掲げ、それに対してみんなで調べたり、どういうアプローチで何ができるかのネタ出しをします。それぞれが発表し合う中で、自分はこういうことに興味があるからそっちにいきたい、などとチームが分かれていきます。」
――プログラミングが得意な学生さん、アイデアが湧き出てくる学生さん、などそれぞれバランスよくチーム内に集まるのでしょうか。
「最初からバランス良くとはいきません。例えば5人でチームを組んだとしたら、企画を取りまとめるリーダーがいて、ウェブでいうとフロントエンドとバックエンド、組み込み系のマイコン、デザインする人がいます。はじめはフロントエンドをやりたがる子が多いです。でもそれは、今までそういうアプローチしかしていないから。実際、ウェブを動かすときはバックエンドもあるし、デバイスの開発をすることも避けて通れません。どれを担当しても、最後はロジカルシンキングができるかどうかにつながります。デザインもロジックなんですよ。なぜこれが見やすいのかということを突き詰めたら、そこには理屈があって、それに基づいて考えていきます。できる子は進めるうちにそういうところに気づいていきます。わかりやすいのはフロントか組み込み系なので、そのあたりを入門として担当し、わかってきたらバックエンドにまわっていくみたいな感じです。」
――チームは同じ学年で組むことが多いのでしょうか。
「できるだけ縦つながりにします。3年生で配属して、4、5年生と一緒に3学年で活動します。やはり圧倒的に5年生ができます。3年生はいくらテストができても実践力がないので。1年違うだけでこんなに違うんだということを感じて下の学年は成長していきます。先輩も後輩に教えることで自分のスキルが上がるので縦割りのチームをできるだけ作るようにしています。」
――先生がチームに関わる頻度はどのくらいなのでしょうか。
「マイルストーンを置くのが私の仕事ですが、置く頻度はチームによって全然違います。今は3年生だけのチームは毎日やっています。この間までは朝夕やっていて、今は朝だけになりました。そのかわり土日は休みです。逆に「これだけやっておいて」と1行チャットを送るだけで終わるチームもあります。」
現場で「使ってもらえるもの」を作りたい
――地域産業のデジタル化を進めていくにあたり、現場で使えるレベルに仕上げるというところはかなり大変と思います。実際、どのようにご指導されているのでしょうか。
「作るからには「使ってもらえるものを」と指導しています。私たちは外部のコンテストに出すということを目標として進めていますが、例えば10月にコンテストがあったら、「9月には現場で稼働していないとだめだからね」と指導しています。9月の時点でできて、少なくとも1ヶ月現場で動かしてこうでした、というのがないと作ったとは言わないよ、と。
この間はディープラーニングコンテストに出ましたが、かなりのクオリティで作ってあるので、外に出しても「すごいの作るよね」と言ってもらえます。一方で学生なので、動くものが作れてよかった、で終わってしまうチームも当然あります。チームの力量に応じて、最後に求めるクオリティは変えています。」
――地域からデータを提供してもらうこともあると思いますが、連携に苦労された経験などはありますか。
「もちろんあります。水産では漠然としたデータはわりと提供してもらえますが、個人情報の入ったデータは、「分析として使うだけで匿名化して使います。外部には公開しません。」と言ってもダメなことが多いです。でも、学生が現場に通って汗かいているのを見て、「なんとかしてやらにゃならん」と、信頼関係を築くことが次につながることもあります。」
――コロナ禍だと、信頼関係を築くのも大変でしょうか。
「コロナもそうですが、今までもたくさんの研究者が現場に入って研究をしてはいるんですよね。でもそれが残っておらず、単独で終わってしまっている。特に、協力した地域の人たちになんのメリットもなかった事例って結構多いんですよ。
私たちは、最終的には事業化して運用していくことを目的としてやっています。研究期間が終わったら終わりではなくて、その後は地域の方々からお金を少し払っていただいてでも運用し続けられるものを作りたいんです。」
――漁業といった手作業や経験がものをいう分野のデジタル化はできるものなのでしょうか。
「まさに漁業は経験と勘です。でも、できると思います。漁業で言ったら「ここにトンビが飛んだら~」みたいなものは「気温が何度になってきたからこういう現象があってトンビが飛ぶんだ」と置き換えられます。「つばめが下のえさをとったら湿度が高い」というような、「〇〇という現象が起こったら▲▲が起こる」という紐付けがあるので、データに基づいて具現化してAPIや機械学習を使って分析して導く仕組みはこれからいっぱい出てくると思います。
真珠養殖だと、この3年くらいは夏場になると、水温が上がるのと酸素が少なくなってあこや貝がたくさん死んでしまっています。どの条件だと死ぬのかがわかれば、警報が出せますよね。今までは、まめな人はちょこちょこ測っていましたがそれでも1日4回。それが30分に1回測れるようになったら、その瞬間に全然違います。そういうプラットフォームを作って、データ収集する仕組みを我々は作りました。かなり安い値段で使えるものを作って提供し、取得したデータを学生が分析して勉強するといった流れができています。」
機械が仕事を奪うのではない 今当たり前のものが増えるだけ
――デジタル化することで人間の仕事が機械にとられてしまうのではなく、良い仕組みがまわっていますね。
「そうですね。機械が仕事を奪うなんていう言い方は嫌いです。機械に置き換えられるものは積極的に置き換えてしまえば良い。例えば、100円ジュースを街角で売っておつりを渡すというのを24時間できますか?できないですよね。その仕事は自動販売機で良い。このように、機械が仕事を奪うのではなくて、今当たり前にあるものがこれからどんどん増えていくだけではないでしょうか。
これから人も減っていく中で、人々が求めるサービスはもっと多様化してきて、もっと便利に暮らしたいと思い始めたときに、人間しかできないことは人間がやるべきであって、そうでないものは機械がやるべき。そういったコンセプトを学生にも考えてもらいたいと思い、そういう指導をしています。」
鳥羽高専では工業系学科に関しては8割が地元の学生さんであり、ゼミのプロジェクトを通して地元愛が強くなることを目指しているという。そんな江崎先生ご自身も、鳥羽出身、鳥羽高専出身で、民間に勤めたあと教員となり「この数年間でいろんなことが課題ばっかりだとわかってきた」そうだ。ゼミ活動での地域産業理解とデジタル化を通して学生を育てていく中で、連携企業に就職する学生や、社長になり地域に信頼されて業務をいただくようになったケースもある。「そういった人材を輩出していかないといけないかな」とおっしゃっていた。
また、「地元を知るためにはよそを知ることが大事」と江崎先生はおっしゃっていた。旅行をすると地元の良さがわかる、海外へ行くと日本の良さがわかるといったことは読者も経験があるだろう。「よそを知ることで地元を知ること」「好き嫌いをせずに何でもチャレンジしてみて」と指導しているそうだ。デジタル化への挑戦も、幅広い視野を持ち、チャレンジすることで本当に必要とされていることが見えてくるのかもしれない。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】