仮説上の天体「ストレンジ星」の候補を新発見!中性子星を超える極限環境とは?
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「中性子星よりヤバイ仮説上の天体を発見か?」というテーマで動画をお送りしていきます。
●中性子星とは?
太陽のような「恒星」に分類される天体は、その星の中心部で起きている核融合反応で外側に膨張しようとする力と、内側に落ち込もうとする重力が釣り合うことでその形状を維持しています。
質量が太陽の8倍以上重い大質量の恒星が一生を終える際、核融合が止まり、重力に対抗する力が失われることで、星の核が強烈に圧縮されてしまいます。
圧縮された星の核では、中性子星という天体が残ることがあります。
物凄い重力で圧縮されて形成された天体なので、その密度は他の天体とは比較にすらならないほど桁違いに高い値となっています。
具体的には直径が約20-30kmと、地球と比べても圧倒的に小さいにもかかわらず、その質量は地球の33万倍重い太陽の、さらに1.4~2.3倍ほど重いです。
理論的に太陽の1.1倍以下の中性子星は存在し得ないと考えられているようです。
その密度は1cm^3あたり数億トンと、角砂糖のサイズで地球上の数百m級の山の質量が詰まっているようなイメージです。
星の一生の最期の瞬間では、強烈な重力によって電子が原子核内部の陽子と反応し、中性子に変化します。
つまり星の内部は中性子ばかりの構造になります。
そうしてできた中性子同士は、お互いが「縮退圧」と呼ばれる力で反発しあい、それらをさらに押しつぶしてくっつけようとする重力と釣り合い、安定した状態になります。
これが中性子星です。
中性子同士の反発力ですら耐え切れないほど星の重力が強い場合、これ以上重力に対抗する力がないために、重力によって際限なく一点に圧縮が続くと考えられています。
このように重力があまりに強すぎてそれに対抗する力を失い、「特異点」という一点に向けて全質量が落ち込み続けている天体を、ブラックホールと呼んでいます。
具体的には一生を終える星の質量が太陽の8-30倍程度だと星の核は中性子星に、太陽の30倍以上重いと重力が中性子星すらも押しつぶして、永遠に圧縮が止まらないブラックホールになってしまうと考えられています。
●仮説上の天体「クォーク星」
○クォーク星とは?
実は中性子が重力で圧縮された後、さらに「クォーク」という、より小さい単位の粒子に分解され、今度はクォーク同士の縮退圧によってお互い反発しあい、重力と釣り合う可能性もあるそうです。
元々陽子や中性子はそれ以上に分解できない最小単位の粒子「素粒子」であると考えられてきましたが、現在ではそれらはさらに小さい「クォーク」という素粒子が3つ集まってできていると考えられるようになっています。
あまりの高密度環境により、中性子がクォークに分解され、それらがお互い結びつかずに自由に動き回れるようになった物質のことを、「クォーク物質」と呼びます。
このようなクォーク物質で構成され、クォーク同士の縮退圧によって重力と釣り合い、安定している天体を「クォーク星」と呼びます。
クォーク星は宇宙空間にむき出しの状態で存在している場合と、中性子星の中心部に内在している場合があるそうです。
クォーク星は中性子星とブラックホールの中間に位置する天体ですが、それらとは異なり、未だにその存在の確証がなく、仮説上の天体と言う域を出ていません。
中性子星であると有力視されているものの、何らかの特徴が既存の理論で説明できないような、クォーク星の候補天体はいくつか発見されていますが、どれも断定するための決定的な証拠に欠けています。
●新たにストレンジ星候補天体を発見
そんな中、超新星残骸「HESS J1731-347」の内部に存在する中性子星(以下今回の中性子星)が、これがクォーク星、その中でも特にストレンジ星の候補となるような奇妙な特徴を持っていることが特定されました。
中性子星の質量の理論上の下限値は太陽の1.1倍程度と考えられており、実際にこれまで発見された中性子星の質量の下限値は太陽の1.17倍でしたが、今回の中性子星の質量はなんと太陽の0.77倍しかありません!
今回の中性子星が内在する超新星残骸HESS J1731-347は、元々地球から1万光年以上遠くに存在すると考えられてきました。
ですが超新星残骸の内部にある別の明るい星の光の情報から、HESS J1731-347のより高精度な距離計測を再度行った結果、今回の中性子星を含む超新星残骸までの距離はたった8150光年と、従来の予想よりもずっと近くにあることが判明しました。
今回の中性子星の物理的な特徴を、そこから放射されるX線の強度と、最新の距離の推定値から求めると、今回の中性子星は太陽のたった0.77倍の質量しか持っていないことが判明した、という流れです。
当然、この質量の推定は誤りである可能性もあります。
そうでなければ、もしかしたら中性子星の形成メカニズムに関する理解を訂正する必要が出てくるかもしれません。
そして研究チームはこの結果に対するもう一つの説明として、今回の中性子星が実は「クォーク星」であり、クォーク星の中でも特に「ストレンジ星」に分類される可能性があると言います。
原子核の中にある陽子も中性子もクォークが3つ集まって構成されていますが、陽子と中性子を構成するクォークは「アップクォーク」と「ダウンクォーク」という2種類のクォークのみです。
私たちの日常の世界のみならず、宇宙のあらゆる場所でも、未知の物質ダークマターを除いて、物質はアップクォークとダウンクォークのみから成っています。
ですがクォーク物質のようにクォークが多数存在する物質内では、アップクォーク、ダウンクォークだけでなく、「ストレンジクォーク」というクォークも同じ割合で含まれている方が安定している可能性があるそうです。
クォークが自由に動き回るクォーク物質の中でも、アップクォーク、ダウンクォーク、ストレンジクォークが同比率で存在する物質は「ストレンジ物質」と呼ばれ、そのような物質を含む天体を「ストレンジ星」と言います。
ストレンジクォークは、アップクォークやダウンクォークと比べて20倍以上重いです。
そのためストレンジクォークが多数含まれるストレンジ物質、そしてそれを含むストレンジ星も、高密度であることがわかります。
今回の中性子星が仮にストレンジ星だとすれば、太陽の0.77倍の質量に対して半径が約10kmしかないという高い密度を上手く説明できるそうです。
ただし少し極端とはいえ、今回の中性子星の質量と半径の関係は、従来の中性子星の質量と半径の関係性と矛盾しないため、これが単に小さいだけの中性子星である可能性も十分にあるとのことです。
だとしても、既知の理解では説明できないほど軽いので、いずれにせよ謎多き天体のままです。
今後も今回の中性子星の研究が続き、新たな発見がもたらされるのが楽しみです。