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2017年、“爆買い後”を占うキーワードは「日本人に同化する中国人!」

中島恵ジャーナリスト
爆買いの光景は今後、少しずつ減っていくだろう(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

北海道の空港で中国人が大暴れしたというニュースが報道されるや否や、日本では「やっぱり中国人は……」というネガティブなトーンの報道が目立った。派手な服装で声が大きく、大量の買い物袋を抱えた、いわゆる“中国人の団体観光客”の姿はどこに行っても目立ち、眉をひそめる日本人が多かった。

そんな彼らの「爆買い」は2015年の流行語大賞にもなるほど注目を集めた。15年は約499万人もの中国人が来日し、全外国人中トップだった。今年は昨年ほど話題にならなかったものの、年末までに600万人以上が来日し、ブームとなった15年を20%以上も上回っている。

しかし、百貨店の売り上げは減少、家電量販店でも以前ほど中国人を見かけなくなった。今年の中国人観光客の行動が、昨年とはかなり変わってきていることを、なんとなく肌で感じている人は多いのではないだろうか?

ひと口に爆買いといっても、中国人観光客の爆買いの中身はわずか1年で大きく変貌している。「爆買いは終焉した」のではなく、彼らの旅行の形態が変化してきているだけなのだ。団体よりも個人旅行客、そして家電量販店や観光地だけでなく、「えっ?なんでこんなマニアックなところに中国人が!?」と意外なところで中国人に出くわしたという人も多かったのではないかと思う。

では、どんなふうに変化しているのか? 私は1年以上も前に書いた本『爆買い後、彼らはどこに向かうのか?』ですでに予測していたが、中国人の消費動向はモノ(買い物)からコトへ(経験、体験)、都市部から地方都市へ、多人数から少人数へ、平凡な旅からオタクの旅へ、と進化している。そのスピードは日本人の想像をはるかに超えるほど速い。

そして2017年、中国人観光客の動向を占う上でのキーワードは「日本人に同化する中国人!」だと私は予測している。

癒しやリラックスを求めて来日

以前、こちらの記事(増加する「爆買いしない」中国人たちの本音)でも紹介したことがあるが、昨今、個人旅行で来日する中国人は、おしゃれで洗練されていて、一見すると中国人だとわからない。中国人のイメージとかけ離れているからだ。

流暢な英語を話し、服装も、いわゆる“派手な中国人のおばちゃん軍団”とはまったく異なる。シンプルで良質なものに身をまとい、まるで伊勢丹新宿店でショッピングしているおしゃれな日本人OLやビジネスマンと一向に変わらない。

彼らの目的はもちろん爆買いではなく、「癒し」や「リラックス」、「学習」そして「日本でしかできない体験」だ。最後の「日本でしかできない体験」を除けば、日本人の旅行と同じ。いや、むしろ、私たち日本人よりももっと深く日本のよさを知ろうという意欲や知識欲にあふれているといってもいい。

たとえば、私が取材したある中国人グループは30代前半だった。中国でカフェやブティックを経営したり、建築デザイナーをしている大学時代の仲間同士5人で来日した。彼らの旅行内容を聞いてみると、まず京都で寺社巡りをして、町屋を改装したフレンチレストランでの料理やお抹茶などを楽しみ、有馬温泉でリラックス。東京に移動して、今年オープンした「星のや東京」に数日間宿泊し、合羽橋でおもしろい雑貨を買い、歌舞伎を鑑賞した。

有名店にも行くが、谷中の路地裏でかわいいパンを買い、猫の写真を撮り、おいしいと評判のカフェで、あらゆる珈琲を飲み比べる。公園のベンチに座っておしゃべりしながら日本のおいしい空気をたっぷり吸う――。そんな日常生活に近いことも経験したという。これはまるで雑誌「クロワッサン」に出てきそうなステキな旅と一緒ではないだろうか。

日本人となんら変わらない

このコースを聞いて、私はまさに、中国人の一部はすでに“日本人にすっかり同化”しており、日本人と同じくらい洗練された旅をするようになったのだ、と実感した。彼らと直接話をしてみなければ、彼らが中国からやってきた観光客だとは気づかないだろう。

この年末年始、日本に住む私の中国人の友人は秋田県の乳頭温泉や、岐阜県の白川郷を夫婦や友人同士で旅行している。彼らの行動は団体ではなく、多くても4~5人。爆買いもしないので、日本政府観光局の「中国人の消費動向」の統計には表れない。しかし、着実に日本の隅々まで出かけていき、日本旅行を楽しんでいる“イメージとはまったく違なる中国人”であることは確かだ。

大雪の北海道で暴れる中国人団体観光客のニュースを見ていると、多くの日本人はがっかりしてしまう。実際は、もしかしたら、中国人をそこまで怒らせるやむを得ない事情があったのかもしれないが、それは報道されない。マスコミによって固定化されたイメージ通りの問題が起こると、多くの日本人は妙な安心感を覚えてしまい、その悪いイメージがさらに強固なものになってしまう。

だから、「最近はこういう現象が起きている」「現実はもっとすごい勢いで中国人は変化している」と伝えても、マスコミの大雑把な情報が、現実を柔軟に理解することを阻んでしまうという問題がある。

だが、これだけはいえる。「爆買い」はもう古い。「爆買いしない中国人」にもっと着目することによって、今後のインバウンド市場に光明が見えてくるのではないだろうか。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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