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中学生の自殺率 過去最多の水準 2015年すでに77件

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
中学生の自殺率は1990年から増加傾向に転じ、とくに2011年以降は著しく上昇

■相次ぐ中学生の自殺

また悲しい知らせが入ってきた。名古屋市で中学1年生が自ら命を絶った。「学校や部活でいじめが多かった。部活ではよく『弱いな』と言われていた。もう耐えられない」との遺書が残されていたという(NHK中日新聞)。

今年7月に岩手県矢巾町で、中学2年生がいじめを苦に自殺したとみられる事案の記憶もまだ新しいなかでの、悔しい知らせであった。そして、今回の事案が起きた名古屋市内では、一昨年の7月にも中学2年生が、「複数の人から死ねと言われた」とノートに書き残し、マンションから飛び降りて死亡している。

■中学生の自殺死亡率が過去最大

じつは、中学生の自殺は、今年に入って9月までに、すでに計77件(暫定値。昨年は9月までに計76件)発生している。8月に12件、9月に10件と、1ヶ月で10件を超えることもある(警察庁のデータをもとに内閣府が発表している。10月は集計中)。

件数の多さもさることながら、さらに気がかりなのは、この数年、中学生の自殺死亡率が大きく増加してきている点である。グラフを見てほしい。

中学生と日本全体の自殺死亡率(10万人あたり)
中学生と日本全体の自殺死亡率(10万人あたり)

これは、『警察白書』の昭和53年版から最新版までをもとに、描き出したものである【注】。中学生の自殺死亡件数を拾い上げ、さらに『学校基本調査』より中学校の在籍生徒数を調べて、10万人あたりの自殺死亡率を算出した。赤い折れ線の部分がそれに該当する。

データが確認できる1977(昭和52)年以降でみてみると、1990年を下限にしておおむね増加傾向が続き、とくに2011年以降の増加は著しく、中学生の自殺死亡率は過去最多の水準にまで達していることがわかる。

■日本全体では自殺死亡率は減少傾向

他方で、濃い青色の棒グラフで示したように、日本全体の自殺死亡率は、2009年頃から減少傾向が続いている。つまり、ここ数年は、日本全体としては自殺が抑制されつつあるのに対して、中学生の自殺傾向はむしろ強まっているのである。2012年に日本全体の自殺者数が3万人を切り、少しずつ減少してきていることは前向きな動きであったが、中学生の自殺死亡率の上昇はきわめて重大な問題と言える。

なお、長期的な傾向に関しては、中学生と同じような推移が、高校生でも確認することができる。下図のとおり、高校生においても、1991年を下限にして、自殺死亡率は概して増加傾向が続いている。

高校生の自殺死亡率(10万人あたり)
高校生の自殺死亡率(10万人あたり)

■学校を超えた相談・支援の体制づくり

今回の名古屋市の事案については、報道によると、自殺を感じさせるような予兆は、誰も感じ取ることができていなかったという。その生徒は、学校にも休みなく登校し、自殺前日の部活動にも参加していた。おそらく生徒は、誰にも自分の苦悩を打ち明けることなく抱え込んでいたのだろう。自殺対策の難しさが見えてくる。

私たちに残された方法は、原因が何であろうが、生徒が死を選ぶのではなく、現実から生きて逃げる道を選べるような体制をつくることである。そして原因の代表例としていじめがあるからには、とりわけ学校の外に逃げられるような選択肢を整備することが大切である。そのためには、学校だけではどうにもならない。学校を超えた支援体制づくりが、急務である。

本人が「いじめ」を受けたと感じたとき、その先は「自殺」ではなく、「相談」や「逃げること」に接合しなければならない。これ以上、悲劇をくり返さないために、私たち大人がその接合を準備しなければならないのである。

【注】

自殺統計はしばしば年齢で分析されることが多いが、『警察白書』には、学校段階別の自殺の実態が記載されている。なお、日本全体の自殺死亡率(右軸)については、1977年のデータを欠いている。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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