『ミステリと言う勿れ』だけじゃなかった、冬ドラマの「佳作」(2)
3月末、冬ドラマが続々とエンディングを迎えました。
今期は『ミステリと言う勿(なか)れ』(フジテレビ系)が大いに話題となりましたが、隠れた「佳作」たちも存在しました。
前回は『ファイトソング』(TBS系)を取り上げましたが、3月25日に幕を閉じた『妻、小学生になる。』(同)もそんな1本です。
原作は、村田椰融(むらた やゆう)さんの同名漫画。
そこに脚本の大島里美さん(『凪のお暇』など)が、さり気なく巧みなアレンジを施しています。
「奇抜な設定」の意味
思えば、かなり奇抜な設定のドラマでした。
しかし、その奇抜さには意味がありました。「家族」とは何かという問いかけです。
10年前、新島圭介(堤真一)は、妻の貴恵(石田ゆり子)を事故で失っています。
それからは娘の麻衣(蒔田彩珠)との2人暮らしが続いていますが、どちらも生きることに無気力になっていました。
良き妻、良き母だった貴恵への依存度が高すぎたのです。
ある日、父娘の前に見知らぬ小学生、白石万理華(毎田暖乃=まいだ のの)が現れます。
しかも、自分は「新島貴恵」だと、驚きの主張をするのです。
真相としては、貴恵が万理華の体を借りる形で、一時的に現世に戻ったと言っていい。やがて訪れる「2度目の別れ」は必然でした。
「日常」の愛(いと)おしさ
最終回、万理華の姿をした貴恵との「最後の一日」が描かれました。
しかし、それは特別なものではありません。一緒に朝食を作り、食卓を囲む。3人で麻衣の洋服を買いに出かける。あくまでも「日常」です。
けれど、家族で過ごす日常がどれほど愛おしいものなのか、じわりと伝わってきました。
東日本大震災を経験したことで、また今も続くコロナ禍の中で、私たちはごく当たり前の生活のありがたさを知りました。最も身近な存在である家族の大切さも。
そんな「日常」に加えて、貴恵の「夢」だったというレストランを、自宅で実現してあげるサプライズも飛び出し、石田さんの笑顔があふれます。
そして、この最終回には、印象に残る言葉がいくつも埋め込まれていました。
たとえば、貴恵が夫の圭介に言います。
「(これからも)思いもよらないことがあるかもしれない。いろんな幸せをたくさん見つけてね」。
さらに、「あなたが隣りにいてくれて、本当に幸せだった」。
そして娘の麻衣には、
「生まれてきてくれた瞬間から、ママをいっぱい幸せにしてくれたの。今でも麻衣にはそういう力がある」。
こうした場面を成立させていたのが、“小さな大女優”と呼びたくなる、毎田さんです。
朝ドラ「おちょやん」で見せた達者な演技が一層進化していました。毎田さんの中に、あの石田さんが入っているとしか思えないほどでした。
いわば、もう一人の「主役」だったのです。
「有限の時間」の中で
人生は誰にとっても永遠ではありません。人は結末の見えない有限の時間を生きています。
その時間の使い方の中に「生きることの意味」を見出せるのだと、このドラマは伝えていました。滋味あふれる「佳作」だったのです。