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東証が一日閉鎖して焦った個人投資家は、その投資スタイルをたった1つ見直すべき

山崎俊輔フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP
この日はすべての銘柄の値がつかない希有な一日となった。

東証のシステムダウンで10月1日は売買が終日停止に

2020年10月1日、多くの企業では下半期の始まりであるこの日、東京証券取引所のシステムがダウンし、すべての銘柄の売買がストップするという事態になりました。

報道をまとめると、7時4分の段階で情報配信システムに異常が発生、バックアップシステムへの切り替えがうまくいかなかったことから8時39分に東証は全銘柄の売買停止を発表しました。9時に市場が開いてしまう前の決断です。

その後、11時45分に終日の売買停止を発表し、この日の売買が完全にストップするのが確定しました。

翌日の新聞には全ての銘柄に「―」、つまり値付かずだったことを示す株価面が掲載されました。ただし、翌日の2日以降は正常に売買が稼働しています。

原因の究明、今後の対策はこれからまた報告があると思われますが、証券業界のブラックジョークでは、「石原さとみさん結婚ショック」によるシステムダウンともいわれています。堀北真希さんや福山雅治さんなど、有名人が結婚発表するとショックで株価が下がることがよくあるのですが、それが石原さとみさんの場合、あまりも衝撃的でシステムすら落としてしまったのだと! まあこれは業界ジョークなので、信じる必要はありません。

むしろ今回、個人にとって考えておきたいのは「1日市場が閉まったとしても困らない投資スタイル」です。

もしパニクった人がいたなら、1つだけスタイルの見直しを行ってみて欲しいと思うのです。

1日トレードしなかったから人生最大の損失を被ることはまずない

ニュースがこれを致命的な問題として扱っている様子をみていて、「それは本当にそうだろうか」と私は感じています。特に個人にそれほどの損失が生じたものでしょうか。

ほとんどの場合、10月1日に売れなかったものを2日に売って致命的な損失が生じることはなかったはずです。どうしても、10月1日に株を売らなければいけなかった、という人は少しはあるかもしれませんが、それはむしろ現金確保のための余裕を持たなかったことのほうに問題があるように思います。

もともと株を売っても今日すぐに現金は手に入らない仕組みなので、現金の受け渡しと銀行預金への振込のために数日は予備を設けるのが普通であるはずです。

例えば引っ越しする物件の賃貸契約の入金期日に、1日だけ間に合わない事態があったとしても、今回の事情を正直に申し出れば1日の猶予は得られるでしょう。少なくとも個人の契約でそこまでシビアなものはあまりありません。極端な話、ローンの返済やカードの引き落としだって、1日ズレて致命的な影響があることはまずありません(1日分の利息はつくとしても)。

デイトレーダーなどがテレビにでて「一日数百万円の利益を得ることもあり、取引停止は大きな損失だ」と言うのもあまり真に受ける必要がないと思います。なぜなら、『ま、一日数百万円の損失が出る日にならずにすんだかもね』という心の声は隠しているからです。トレードの場合「儲かる可能性を逸した」は「損する可能性もなかった」という側面もあります。

似たようなケースの例をいくつか考えてみたのですが、人気のYouTuberがいて、YouTubeがシステムダウンして1日配信停止になったほうが影響は大きいかもしれません。こちらは「マイナス」がなく基本的に視聴時間が増えれば収入が増える構図だからです(といっても、おそらく1日サーバーダウンしてもYouTube側は補償等を行う必要のない契約になっていることでしょう)。

そもそも中長期に投資スタンスを置けば、1日の停止はまったく問題にならない

金融機関は売買がないと手数料収入が手に入らないですし、自らの資金で売買をして利益をえ得る機会もゼロになります。投資を仕事としているデイトレーダーも同様です(他の仕事をもたず投資専業の人は「投資が仕事」である)。

しかし、一般個人にとっては1日の市場の停止はそれほど問題になりません。そもそも、1日くらい市場が止まろうとも心配する必要がない投資スタイルを採用していれば困ることはないわけです。

私は投資信託やETFを中心としたポートフォリオを構成していますし、投資資金の使い道は将来の子どもの学費か自分の老後資金なので、購入しても基本的に売却をしません。個別銘柄についても少しは持っていますがおおむね株主優待目当てでありひんぱんに売買することもありません。ですから、東証取引停止のニュースを聞いても「ああ、今日は大変だね」くらいの感想しか持ちませんでした。

また、10年以上にわたって積立投資を継続して得てきた収益の積み上げは、仮に株価が30%下がっても十分に利益を出せるくらいですから、これまた1日市場が閉じても影響を受けません。仮に市場停止の影響で株価が30%下がったとしても、むしろ積立を続けて次の相場回復まで待ち、さらに利益を上乗せしていくことでしょう。

個人の投資手段として重要な選択肢は投資信託です。株式市場がストップしたため、投資信託についてもこの日は売買が成立しませんでした。しかし翌日にまた基準価額が定まれば売買は成立します。これまた1日遅れで売却されたところで(あるいは購入されたところで)困ることはまずありません。10年以上投資を続けるのなら、1日売買日がズレたことはほとんど問題にならないでしょう。

中長期で分散投資を継続していくような発想に立てば、1日の停止を気にしなくても大丈夫です。特に、iDeCo(個人型確定拠出年金)やつみたてNISAで資産形成をしていた人は何も心配しなくてもいいと思います。

最大の対策は「手元にキャッシュを残す」こと

個人投資家に関する限り、「市場が1日止まった」で深刻な問題が起きるほうが、むしろ大きな問題です。それは投資のやり方そのものに大きな問題があるからです。

もし、たった1つの、そしてそれだけで解決が見いだせる対策は「手元にキャッシュを常に残しておくこと」につきます。

どうしても売らなくてはいけない、という状況を作ってしまうことがそもそもの間違いだったわけですが、こうした投資家は手元の資金のすべてを投資につぎ込んでいることがしばしばです。定期預金が200万円ある人がそれを100万円突っ込めばいいのに、200万円をすべてデイトレードのために入金しています。こうしたスタイルはこれからは止めておけばいいのです。

信用取引などレバレッジを効かせたトレードで損失が出ているとき、追加の証拠金を求められることを追い証といいますが、追い証が必要で困るということは「投資で含み損を抱えている」ということと「手元に現金のポジションを持っていない」ということを意味します。そもそも個人がレバレッジかけて投資をする必要はあまりないので止めてしまえばパニックになりません。あるいは、現金のポジションを残しておけば入金できるはずです。

売る理由があった場合は早めに売っておくことです。例えば子どもの学費(後期の授業料とか)のために売らなければならなかった、のようなケースを「今日じゃなくちゃ間に合わない」にしておくのが間違いです。売るならどんなに遅くても先週のうちに、できれば数カ月から1年くらいは様子をみて売り時を考えておくべきです。生活費や子の学費など、絶対に必要な資金はギリギリではなく早めに用意しておけばいいわけです。

先ほど紹介したような「1日遅れると契約に問題が出る」ような資金繰りもせず、数週間前にはメドをつけておけばいいだけのことでした。たとえば10月20日に必要な資金のために1日に売却をするつもりだったという人なら、1日の売買がストップしたところで2日に売ることができれば困ることはないでしょう。

いずれにせよ、現金の余裕を作っておくことは、個人にとって最大の対策たりえます。意識してみてください。

マーケットは止まることがある、ということはこれからも考えておこう

今回はシステムトラブルということですから、東証に原因があります。しかしこうしたエラーはありうることです。どんなにエラーゼロを目指しても、予期せぬ事情は起こりえます。

日本経済新聞のまとめでは、2015年7月にニューヨーク証券取引所、2019年8月にロンドン取引所でシステムトラブルによる取引停止があったそうです。いずれも半日ですんでいるようですが、どのような市場にもリスクはあります。

過去でいえば、9.11レベルの社会的大事件があれば、マーケットは閉鎖されることがあります。ニューヨーク市場はこのとき何日かストップしています。

3.11レベルの大きな自然災害があった場合も同様です。あの大震災の起きた日は金曜でありマーケットが閉まるタイミングだったこともあり、月曜日には通常通り株式市場は動きましたが、今後同様の災害が起きたとき、株式市場がストップする可能性はあります。

これらもシステム不具合と同様に「予見は不可能だが、起きうる可能性」です。そしていきなりやってきて市場がストップすることはあるのです。

実は今回の東証の対応は、自ら設定したBCP(緊急時事業継続計画)をクリアしています。そこではシステムトラブルや自然災害などの事象において影響がありうることを公開しており、トラブルが生じた場合においても、24時間以内の復帰を目指すことをうたっていました。そして、きちんと2日の朝からはシステムを通常稼働させています。

日本取引所グループ BCP(緊急時事業継続計画)について

個人投資家はこれからも「市場がストップすることはありうる」こと心に留めつつ、「1日市場がストップしても困らない」投資スタイルであるかどうかはしっかり考えておきましょう。

フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP

フィナンシャル・ウィズダム代表。お金と幸せについてまじめに考えるファイナンシャル・プランナー。「お金の知恵」を持つことが個人を守る力になると考え、投資教育家/年金教育家として執筆・講演を行っている。日経新聞電子版にて「人生を変えるマネーハック」を好評連載中のほかPRESIDENTオンライン、東洋経済オンラインなどWEB連載は14本。近著に「『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」「共働き夫婦お金の教科書」がある。Youtube「シャープなこんにゃくチャンネル」 https://www.youtube.com/@FPyam

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