「在宅勤務向けスーツ」はユニクロの圧勝か? 【動画あり】
■在宅勤務でもスーツ着るのは「当たり前」
私はその営業部長の質問に、即答した。
「在宅勤務でも、スーツを着るのは当たり前です」
と。
すると、その営業部長は心底安心したようで、大きく息を吐きだした。
「よかった。コロナの影響で、いろいろなことが変わったせいで何が正しいか、わからなくなっていたんですよ」
無理もない。新型コロナウイルス感染症の影響で、ビジネスにおける常識観がガラリと変わった。この営業部長の会社は、早々とオフィスを東京郊外へ移転し、40人いる営業部にも在宅勤務を指示した。
「お客様もリモート営業に理解を示してくれるので、在宅での営業活動に支障はありません」
と部長は言う。しかし、それならと「在宅勤務では脱スーツが主流らしい」と言って「スーツを着なくてもいいか」と尋ねてくる部下が増えたとのこと。
私は営業コンサルタントとして、冒頭に記したとおり「在宅でもスーツが当たり前」と答えた。ビジネスをするうえで「お客様視点」を失ってはならない。この会社が相手にするお客様の大半は、日ごろからスーツを着用している。だから、その商習慣に合わせるのが基本だ。
■在宅勤務ならではのスーツとは?
私自身も、緊急事態宣言後、ほぼ毎日在宅勤務に変わった。お客様との商談、クライアント企業とのセッション、社長との面談、オンラインでの研修など、最初は慣れなかったが、通信環境を整えることでオフィス勤務時と変わらず仕事ができた。
私の場合はコンサルタントという職業柄もあってふだん通りスーツを着用している。オンラインで接触する相手も、ほぼ100%の人がスーツだ。
クールビズを採用される企業が多いのでネクタイをはずしている人が多いとはいえ、「在宅だから」といって、カジュアルな服装をするビジネスパーソンはほとんどいない。
一部、ITベンチャーの社長や幹部の中には、カジュアルな装いをしている方もいる。しかし、それは在宅勤務でなくても、ふだんからそうなのだ。
というわけで、繰り返しになってしまうが、
・オフィス勤務ならスーツ
・在宅勤務ならスーツ以外でもよい
という理屈は通らない。お客様視点ではなく、自分視点、もしくは上司や同僚視点で仕事をするのはおかしいからだ。営業である以上。
しかし、在宅勤務を3ヵ月近くつづけてきて強く思ったことがある。それは何かというと、
・オフィス勤務なら「このスーツ」
・在宅勤務なら「このスーツ」
と、働く場所によってスーツを使い分けてもいいのでは、という考えだ。この発想に行き着いたのには、理由がある。
■ユニクロの「感動ジャケット」「感動パンツ」を試す
私はメディアに出演することもあるし、数百名の前で講演することもあるので、何度かイメージコンサルタントの助言をいただいたことがある。
これまではいつも助言をもとに、スーツやシャツ、ネクタイをコーディネートをするのだが、在宅勤務になり、会議や商談、研修がすべてオンライン化すると、スーツやシャツの素材やシルエットがディスプレイ画面を通してだと、
「ほとんど伝わらないのでは?」
と思うようになってきた。
6月になり、徐々に暑くなってくると在宅勤務のストレスが増す。我が家の問題もあるのか、日中はとにかく蒸し暑い。仕事をするならオフィスのほうが圧倒的に快適だということに、あらためて気付かされた。
同じような意見を持つビジネスパーソンは多いようだ。
「在宅勤務だからこそスーツを着る。仕事モードに切り替えるためだ。だけど、快適じゃない」
と言う人は少なくない。
それならということで、私は情緒的な側面よりも、機能性を重視したスーツに変えてはどうかと考えた。そこで、かねてから気になっていたユニクロの「感動ジャケット」「感動パンツ」を買ってみた。
私は専門家ではないので、単なる素人の感想だが、一か月以上使ってみて、このアイテムはとても使えるという印象を得た。
着用してみると驚くほど軽い。ウールではなく化学繊維だから通気性もよい。ストレッチがきいているので、ストレスなく動ける。けっこう乱暴に扱えるし、スーツだからといって、取り扱いに気を使わなくてもいいのが何よりもいい。
いろいろなサイトや動画で「感動ジャケット」「感動パンツ」のレビューを見たが、どちらかというと若者向けの印象だった。しかし、50歳を過ぎた私でも何も問題はないし、想像していた以上に「カジュアル」ではなかった。
というか、このスーツをプライベートで着るのには抵抗がある。肩パットはないが、ジャケットのポケットは、いわゆるフラップ(ふた)付きなので、いかにもビジネススーツの体(てい)だ。
化学繊維独特のテカテカ感も抑えられていて、ウールの素材っぽくも見える。つまり、言われなければ5,000円前後のジャケットだとは「わからない」レベルだ。
とくにオンラインで「会議」や「商談」をするビジネスパーソンだったら、年齢に関係なく使えると思った。「感動ジャケット」と「感動パンツ」をセットでも買っても1万円程度である。驚くほど安い。
前出のイメージコンサルタントに問い合わせたところ、
「ユニクロならストレッチウールジャケットをお勧めする。このジャケットは価格破壊だ。スーツ量販店でスーツを買う必要がなくなる」
と返ってきた。そして、
「感動ジャケットか……。ストレッチウールジャケットより半値以下だ。でもアレはスーツの形をしたジャージだよ。在宅勤務ならあれでいいのだろうが」
と言ったあと、しばらくして、こう寂しそうに言った。
「感動ジャケットでも問題ないというのであれば、これからの時代、イメージコンサルタントそのものの存在意義が薄れるな」
■オフィスもスーツも変革の時代
緊急事態宣言時、休業要請を受け、企業を最も苦しめたのが家賃の支払いだ。売上が減ると固定費が大きい企業――たとえば旅館業など――は、大変に苦しくなる。
旅館業や娯楽業でなくても、固定費で苦しい思いをする企業は多い。オフィスの縮小や分散がますます増えていくだろうが、この潮流はしばらく止まらないだろう。不確実性の高い時代だ。固定費をいかに圧縮するかが企業の命題になりつつあるからだ。
ビジネスパーソンにおいて、スーツは固定費だ。
スーツが好きで、それなりにこだわりを持って30年近くやってきた私でさえ「感動ジャケット」「感動パンツ」でも十分だと思える。そんな時代になった。
在宅勤務がさらに普及すれば、オフィスも服装も、よりベーシックで機能性に優れたスタイルに変革していくだろう。
極端な話、在宅勤務者にとっての「職場」はディスプレイの中だけだからだ。そこから得られる視覚情報、聴覚情報が仕事空間のすべてだと考えると、オフィスに観葉植物は要らないし、ビジネススーツもユニクロでいいのだ。いや、というよりユニクロのほうがいい、とさえ言い切れる。
飽きのこないベーシックな形、機能性を追及したアイテムは、ビジネスの世界でも、ますます需要が大きくなることだろう。家から外へ出る機会が激減しているのだから。
コロナ禍において、エアリズムのマスクが注目を集めるユニクロだが、ビジネスの世界でも存在感が高まっている。そんな気がしている。