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カロリーゼロ飲料で脳卒中・認知症に?話題の論文を読んでみた

市川衛医療の「翻訳家」
イメージ(写真:アフロ)

いわゆる「カロリーゼロ飲料」などに添加されている人工甘味料。甘くて美味しいのに肥満や血糖値の上昇につながりにくいと期待され、広く使われています。

ところが先月、米ボストン大学の研究チームが、権威ある専門誌に「人工甘味料入りの飲料を摂取し続けていると、脳卒中・認知症になりやすくなるかもしれない」とする論文を掲載しました。

これに対し、アメリカの飲料メーカー団体(ABA)は即座に反論を発表。議論が巻き起こっています。

多くの研究や世界各国の規制機関が「低カロリー甘味料は安全だ」と認めている

出典:American Beverage Association

気になる研究ですが、いったいどんな内容なのでしょうか?無料公開されている論文を読んでみました。

Sugar- and Artificially Sweetened Beverages and the Risks of Incident Stroke and Dementia

「甘いのに太らない?」人工甘味料とは

研究の話に入る前に、人工甘味料ってどんなものか?についておさらいを。

天然の甘味料である「砂糖」をとると、舌にある細胞が反応して甘みを感じます。その後、腸で体内に吸収され、エネルギーになったり、血糖値を上昇させたりします。砂糖をとりすぎてしまうと肥満になったり、糖尿病のリスクが高まることはご存知ですよね。

一方で、人工的に合成された甘味料(例:アスパルテーム)は、砂糖と同じように舌で甘みを感じるのですが、ほとんどエネルギーになりませんし、血糖値も上昇しません。

肥満や血糖値の上昇は、脳卒中や認知症のリスクを高めるといわれます。だとすると、カロリーゼロ飲料を飲んでいれば、これらの怖い病気の予防につながる気がしますよね。でも一方で、天然には通常存在しない物質ですから、どんな影響があるか不明な部分もあります。

じゃあ実際のところ、どうなんだろう?ということを確かめようとしたのが今回の研究です。

人工甘味料は、脳卒中と認知症のリスクを上げる?

論文が公開されたのは、4月20日のこと。脳卒中の分野では世界的に権威がある専門誌「Stroke」に掲載されました。

研究チームは、「フラミンガム心臓研究」という、世界的に有名な研究のデータを利用しました。

フラミンガム心臓研究は、コホート調査という手法をとっています。簡単に紹介すると、次のようなものです。

1)調査への協力者を、たくさん集める

2)協力者に、日々の生活習慣や食事内容などを質問する

3)身長や体重、かかっている病気などのデータも記録する

4)その後、長い期間にわたって同じ人に定期的に調査に協力してもらう

このようにして、長い間調査を続けていると、協力者のなかに、脳卒中や認知症にかかる人が出てきます。

そこで、調査の開始時のデータを見て、特定の食品(例えば人工甘味料)を多くとっていた人とそうでない人を比べてみます。

仮に、多くとっていた人に脳卒中や認知症が多ければ、その食品は『危険を高める可能性がある』と考えられます。この逆で、特定の食品をとっていた人に少なければ、『予防効果があるかもしれない』とも考えられます。

今回の研究チームは、フラミンガム心臓研究のデータのうち、脳卒中に関しては3000人ほど、認知症に関しては1500人ほどを10年間調べて、人工甘味料入りの飲料(カロリーゼロ飲料など)と病気のリスクの関係を調べました。

その結果、人工甘味料を含む飲料を「毎日1杯以上飲む人」は、「全く飲まない人」と比べ、脳卒中(脳梗塞)のリスクが2.96倍に、認知症(アルツハイマー型)になるリスクが2.89倍になりました。その一方で、砂糖入りの飲料(カロリーゼロではないサイダーなど)では、このような関係は見られませんでした。(※1・2)

カロリーゼロ飲料は、腸内細菌に影響する?

しかし、いま幅広く使われている人工甘味料が「病気のリスクを上げるかもしれない」という結果は驚きです。一体、なぜなのでしょうか?研究チームはその理由は不明としながらも、参考として人工甘味料によって腸内細菌が影響を受けるとする研究を紹介しています。

私たちの腸の中には、100兆個以上ともいわれる腸内細菌が暮らしており、そのバランスが健康と大きな関連があることがわかってきています。

人工甘味料をとると、それが腸の壁に住む腸内細菌のところには届いて影響を及ぼし、最終的に病気と関係するのでは?という可能性も考えられるというのです。

とはいえ上記はあくまで仮説です。確たるものではありませんし、そもそも人工甘味料と脳卒中や認知症の関係にも疑問が残されています。

例えば「血糖値が高め」だと脳卒中や認知症のリスクが高まるといわれますが、血糖値が高めの人は、それを気にしてカロリーゼロ飲料を好むだろうと考えられます。すると今回の結果は、カロリーゼロ飲料ではなく血糖値が影響しているのかもしれません。

論文を書いた研究チームも、今回のような研究方法(多数の人を観察する研究)では、人工甘味料が本当に脳卒中や認知症のリスクを高めているのか、その『因果関係』を示すことはできないとしています。

要は、人工甘味料は避けたほうが良いの?

結論として、今回の論文を読んだ限りでは、「カロリーゼロ飲料は脳卒中や認知症のリスクとなるかどうか」についてはまだ研究途上で、わからないというのが実際のところのようです。カロリーゼロ飲料が普及してきたのは比較的最近のことでもあり、将来、もっと大規模な調査などが行われたうえでなければ、確かなことはわかりません。

とはいえ、いま「カロリーゼロ飲料なら病気にならない」とか「健康のためになる」と思って毎日飲んでいるかたがいたとしたら、今回の結果は記憶にとどめておいたほうが良さそうです。今後、新しい研究が出てきたら、改めてお伝えしたいと思っています。

執筆:市川衛ツイッターやってます。良かったらフォローくださいませ

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(※1)グラス、ペットボトル、缶のどれも「1杯」とする。

(※2)年齢、性別、エネルギー摂取量、教育歴、食事ガイドラインの遵守度合い、運動量(自己申告)、喫煙習慣の有無で調整

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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