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健康食品の本当の問題点は「効き目が不確かなこと」「安全性が確実ではないこと」以外にある。それは・・・

佐藤達夫食生活ジャーナリスト

■健康食品そのものによる実害は、じつは、それほど多くはない

3月17日、東京都渋谷区で「食品に関するリスクコミュニケーション 健康食品の安全性や機能性に関する意見交換会」(主催:消費者庁・厚生労働省・農林水産省)が開催された。基調講演は国立健康・栄養研究所情報センターの梅垣敬三氏。

いわゆる「リスコミ」なので、健康食品の安全性について解説や議論が行なわれるのかと思いきや、どちらかというと、機能性に関する話題が多かった。トクホの見直し、機能性表示食品の運用開始など、食品の機能性に興味を抱く市民がそれだけ大勢いる、ということなのだろう。

とはいえ「健康食品に関するリスコミ」なので、ここでは安全性に関する内容を中心にご報告する。この日記で何度か触れている(下記)ように「健康食品」といってもイロイロある。効き目のある(きわめて限定的な効き目だが)もの・ないもの(こちらのほうが圧倒的に多いはず)、安全性の確かなもの・そうでないもの、とイロイロだ。それらを総称して「いわゆる健康食品」と呼ぶことが多い。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/satotatsuo/20160319-00055638/

いま、安全性の確かではない健康食品もあると書いたが、この表現はオカシイ。もし健康を害するのだとしたら、それは健康食品であるはずがない。そもそも、明らかに健康を害するものは食品ですらない。つまり食品として流通することが規制される。なので、一般の人たち(疾病を持っていない人たち、という意味)に直接、害を与えるような健康食品はほとんどない。

ほとんどない、ということは「たまにある」ということでもある。ときどき「○○(健康食品)で健康被害」というような新聞報道があるが、めったにないからニュースになる、といってもいいだろう。「疾病を持っている人が知らずに食べて」「服用している薬剤との相互作用で副作用が出た」というような場合などが多いのだが、これは、医師や薬剤師に相談することによって未然に防げるはずだ。

ただし、サプリメントのように特定の成分を多量に含み、かつ、どこででも購入することができる健康食品では(外国で)死亡例も報告されている。サプリメントは特定成分を含むにもかかわらず、薬剤のようには品質管理が徹底されてないので、このような事例も発生する。それでも、危険性がある場合には、事前チェックで規制されたり、何かあったときにはすぐに販売中止の措置がとられたりするはずなので、健康被害が広範囲に広がるケースはそんなに多くない。

また、これはすべての食品に当てはまることだが、「どんな人にとっても」「どれだけの量を食べても」「どのような食べ方をしても」全く安全である、というものは存在しない。当然、これは健康食品にも当てはまることはいうまでもない。

では「いわゆる健康食品」は安全=健康被害はない、といえるのか? そこが今回のリスコミの最大のテーマだった(と私は理解した)。

■「正しい予防や治療の機会を奪い、健康を阻害する」という被害

このリスコミで梅垣敬三氏は、健康食品の健康被害は「直接的な被害」以外のところにあることを強調した。それは、いわゆる健康食品には「それを利用する人を正しい食習慣から遠ざける」という欠点があるということだ。たとえば、血圧を下げる機能があると信じて(その機能がないことのほうが、じつは、多いのだが)健康食品を利用する人は、食塩摂取量を少なくするとか、体重を減らすとか、毎日の運動量を増やすとかという「血圧を下げる効果が科学的に確かな習慣」をおろそかにしがちだ。

そのことが、生活習慣(主として食習慣)の改善を妨げ、健康障害をもたらすリスクを高めるというわけだ。梅垣氏は「正しい予防や治療の機会を奪い、健康を阻害する」と表現した。

健康食品そのものが「健康機能を有しているか・いないか」という点については、主として、厚生労働省がチェックする。同様に「安全性が確かめられているか・いないか」にという点については食品安全委員会が検証する。しかし「正しい生活習慣改善の機会を失う」という点については、この両組織では手が届かないのが実情だ。

その代わり、というわけでもなかろうが、ここにきて(?)積極的に乗り出してきたのが、消費者庁と国民生活センターだ。たとえ、ある健康食品が「機能性が否定できない」としても、あるいは「危険性が証明できない」としても、「消費者に対して著しい誤認を与え」そのために「消費者の健康増進の機会を奪うことがある」としたら、それは放置できない、という方向にかじを切ったのではなかろうか。今年に入って、取り締まりを強化した(ように見える)。

“武器”として用いているのは、鳴り物入りで昨年登場した食品表示法ではない。健康増進法と景品表示法だ。この法律では、健康食品そのものが実際に健康被害を与えてはいなくとも、消費者に誤認を与えるというだけで、行政措置をとることができる。ここ1、2ヶ月で大手の健康食品会社が相次いで勧告等を受けているが、それがこの具体的な現れであろう。

今後、こういう事例が増えるのではないか、と私は見ている。

今回のリスコミには食品安全委員会が参加していなかったのだが(なぜだろう?)、国民生活センターが出席し、後半のパネルディスカッションの進行役を務めた。その場で国民生活センター理事の宗林さおり氏は「健康食品の被害」について、重要な指摘をした。

いわゆる健康食品が消費者に与える被害が2つある。1つは、もちろん、この場で議論されている健康被害。そしてもう1つが経済被害である。国民生活センターには健康食品を大量に買った(買わされた)ことによって甚大な経済被害を被ったという届け出が多数寄せられるのだという。国民生活センターはこちらに重大な関心を寄せている。今後、景品表示法などの適用がさらに厳しくなるのではないだろうか。

私は、そちらに関してはほとんど情報を持ち合わせてはいないので、今はここに書くことができないのだが、取材をして「健康食品の経済被害」についてもご報告したいと思っている。

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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