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たった2試合で変わってしまった世論。サッカーの結果ほどアテにならないものはない。

杉山茂樹スポーツライター

サッカーは可能性を探るスポーツだ。終わったばかりの試合を振り返り、次戦を占う。今後よくなりそうなのか、悪くなりそうなのか、その行く末を推理する。それをエンドレスで繰り返す。サッカーの魅力は多岐にわたるが、これはその一番手に来るものだと僕は思っている。

勝利を収めても、今後に不安を覚えればノーと言う。これこそがサッカー的な姿勢だと解釈している。それを辛口と言うのは的外れ。可能性を推理しているに過ぎないのだ。

ザックジャパンについても、就任当初からそうした目で見てきたつもりだ。結果より次戦。1年後、2年後、3年後どうなっていくか。2014年W杯本大会では、どのような姿になっているか。

そうした意味で、初っぱなのアルゼンチン戦、続く韓国戦の印象は上々だった。今後に期待を抱きたくなる戦いをした。そして、続いて行われたアジアカップで優勝すると、ザッケローニは日本サッカーの救世主として祭り上げられた。

一方、僕の気持ちはアジアカップを機に離れていった。準決勝でPK勝ちした韓国戦の采配に、落胆させられたからだ。延長前半終了間際、2対1とリードすると、ザッケローニは布陣を5バックに変更。守りを固めて逃げ切る作戦に出た。ところが、延長終了間際、韓国に同点ゴールを浴びてしまう。

PK戦で勝利を収めたため、この失態は追求されなかった。メディアは、韓国に劇的な勝利を収めたことを思い切り喜び、多くのファンもそれに追従した。

この采配に彼の素性を見た気がした僕と、世間の目とが、大きく乖離した瞬間だった。この手の采配をする人に、大きな期待は抱けない。このPK勝ちは、結果オーライ以外の何ものでもない。僕はそう確信した。

僕の懐疑的な目はその後も、払拭されることはなかった。全世界に先駆けてW杯予選を突破しても、ホームの親善試合で好成績を収めても、信用が回復することはなかった。

世間の評判が低下したのは、今年6月にブラジルで開催されたコンフェデ杯。ブラジル、イタリア、メキシコに3連敗したことで、株は急降下。仙台で行われたウルグアイ戦でその流れは加速し、さらに先月の東欧遠征(セルビア戦、ベラルーシ戦)で、それは決定的なものになった。

しかし、先の東欧遠征はともかく、ブラジル、イタリア、メキシコ、ウルグアイ戦の敗戦は、いわば順当な結果だ。それをもってけしからんと言うのは、結果至上主義の権化のようなもの。サッカーを見る楽しさとは、対極に位置するものだ。コンフェデ杯以降、急に高まった不支持の声に、僕は違和感を覚えずにはいられなかった。世の中の意見と自分の意見とが一致したにも拘わらず。

原博実技術委員長は「本大会までザッケローニで行く。解任はない」と語ったが、続くオランダ戦、ベルギー戦に敗れると、世の中が放っておかなそうなムードだった。

だが、オランダ、ベルギーに大敗し、原サンが世論に押され、万が一ザッケローニを解任せざるを得ない展開になっても、僕は釈然としない思いに襲われていたと思う。

オランダ、ベルギーは強豪。コンフェデ杯同様、敗戦こそが順当と言いたくなる結果が出にくい相手だ。結果を求めるのは道理に反している。明日に希望が抱けるか。たとえ敗れても、W杯本大会でもう一度戦えば、逆転の可能性を抱けるか。問われているのはその点であるはずだ。

その結果、もしザッケローニが解任の憂き目にあっても、問題の根本的な解決にはならない。直近の試合結果に左右されやすい日本人気質に変化が起きないからだ。これでは、次回も同じことが繰り返される可能性が高い。今後を推理する目は培われない。というわけで、僕は複雑な思いでオランダ戦、ベルギー戦を見つめた。

結果は1勝1分け。ザックジャパンはまさかの好成績を収めた。

すると一転、コンフェデ杯以降じわじわ高まっていたザッケローニ更迭せよとの声は収束。問題はないものとなった。逆に世の中は、健闘を讃えるムード一色に染まった。

たった2試合で、疑念は100%晴れてしまった。僕は世論と再び乖離する立場に戻ってしまった。1勝1分は喜ばしい結果だが、本大会に向けてはどうなのか。そこでオランダ、ベルギーと、もう一度戦った時、同じような戦いが挑めそうなのか。

僕は、この2試合でザッケローニが行ったメンバー交替の単純さに落胆。工夫とアイディアに乏しいその采配では、本大会で多くを望めないと思ったので「ノー」を貫いているわけだが、僕にはやはり世の中の反応が、結果に対する反応のように見えて仕方がない。メディアはとりわけ。

ザック采配に思い切り可能性を感じたというのなら、見解を撤回しても全く構わないのだけれど。

運が結果に絡む割合は3割。サッカーの結果ほどアテならないものはない。それがサッカーの特性だ。結果に対して思い切り喜んでいいのは、4年間の集大成であるW杯本大会のみ。それ以外は一歩引いた目で、目の前の結果と向かい合うべき。内容に目を凝らすべき。それこそがサッカーらしい楽しみ方だと僕は思う。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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