なぜアトレティコはユナイテッドを“撃破”できたのか?グリーズマンの献身性とシメオネの野心。
指揮官の思考を体現するようなチームが、オールド・トラフォードに存在した。
アトレティコ・マドリーはチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦セカンドレグで、敵地オールド・トラフォードに乗り込みマンチェスター・ユナイテッドと対戦した。レナン・ロディの決勝点で、2試合合計スコアを2−1としてラウンド突破を決めている。
「ユナイテッド戦で、1人や2人の選手について話すのは正しくない。コレクティブなプレーが、完璧だった。全選手が多大な労力を払った。選手たちはどのようにプレーすべきかを心得ていた。ユナイテッドは個の能力が高い選手を擁していた。だが少しオーガナイズが整っていないと思っていた」
「我々はリーガで不安定な戦いを続けていた。昨シーズン、我々は優勝した。だが、それに慣れているわけではないんだ。我々の中で話し合いが行われ、重要な地位にいる人たちの決断があった。そして、ウチのチームには、プールに水が張られているか分からなくても飛び込める選手が揃っている」
これはユナイテッド撃破後のディエゴ・シメオネ監督の言葉である。
■アトレティコの最適解
アトレティコは今季、難しいシーズンを送っていた。昨季、リーガエスパニョーラで優勝を達成した。指揮官が言うところの「王者」として臨んだシーズン。この夏にはアントワーヌ・グリーズマンの復帰が決まり、ロドリゴ・デ・パウルといった選手が新たに加入した。
だがアトレティコは課題を抱えることになった。昨季採用していた【3−1−4−2】のシステムがうまく嵌まらず、シメオネ監督の試行錯誤が続いた。【5−2−3】や【4−4−2】といった布陣を試しながら、指揮官は最適解を見つけようとしていた。
ただ、なかなか結果がついてこなかった。一時、リーガではトップ4から外れた。事態を重く見たミゲル・アンヘル・ヒル・マリンCEOとアンドレア・ベルタSD(スポーツディレクター)がリーガ第21節延期分のレバンテ戦後にシメオネ監督と話し合いの場を設けたといわれている。アトレティコにとって、重要なのはチャンピオンズリーグで上位に進出するのではなく、毎年リーガでトップ4に入ることだ。それがクラブの予算を安定させ、補強においても選手に魅力的なオファーを提示するに至るからである。
■グリーズマンと献身性
復調のきっかけとなったのは、オサスナ戦である。スペイン・スーパーカップでアトレティック・クルブに敗れ、コパ・デル・レイでレアル・ソシエダに敗れ、リーガでバルセロナとの上位対決を落として、残留を争うレバンテにまで敗れた。その状況で迎えたリーガ第25節オサスナ戦で、3−0と快勝した。「オサスナ戦で、僕たちはソリッドな守備とカウンターで勝てるチームになると確信した」とはグリーズマンの弁だ。
そのグリーズマンこそが、チョリスモ(シメオネ主義)を象徴する存在だ。ストライカーでありながら、守備面でハードワークを厭わない。前線からプレスを掛け、積極的にファーストディフェンダーになる。“DFW”と表現できるようなプレーヤーだ。ユナイテッド戦では、2トップの一角で先発して、システム変更に伴い試合途中から右サイドハーフでプレーした。しかし、そのポジションでも気迫のこもったタックルやスライディングでボールを奪い取り、味方を助けた。
グリーズマンは、2018年のロシア・ワールドカップにフランス代表として出場して、優勝に大きく貢献した。つまり、“世界王者”の一員であるが、アトレティコでは泥臭くシャツを汚して、勝つために走り続ける。一度、バルセロナに移籍した後、アトレティコに戻ってきた。ファンの反感を買いながら、結果とパフォーマンスで再び信頼を勝ち得た。エリートぶらない、その姿勢が、アトレティコの強さにつながっている。そして、そういった選手を働かせることができるというのが、シメオネ監督の名将たる所以だ。
「チョリスモがオールド・トラフォードを征服した」そのように記したのは、スペイン『エル・パイス』紙である。
今季のアトレティコは失点が多かった。リーガでは、28試合で36失点。レアル・マドリー(21失点)、セビージャ(19失点)、バルセロナ(29失点)、ベティス(35失点)、レアル・ソシエダ(29失点)、ビジャレアル(26失点)と上位陣と比べて最も失点が多いチームになっている。だが大一番でユナイテッド相手に2試合で1失点と豪華攻撃陣を食い止めた。G Kヤン・オブラクがこれまでのシーズンのように好守を連発して、チーム全体が連動して守備を行なった。
シメオネイズムを再び体内に注入したアトレティコが、欧州の8強に名を連ねた。準々決勝で、彼らとの対戦を望むチームは少ないはずだ。